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33.田中、負ける

「みんな、今日からの試合はずっと厳しいものになる。連戦でクラブチームとの闘いよ。今までの相手とはレベルが違うと思っていい。だけど私はみんななら勝てると思っている。だから全力でぶつかって来て!」


監督の大川の言葉に大川SSの面々は全員大きく返事をした。大川SSはシステムとスタメンを変えずにそのままピッチへと向かった。


(やっぱりビデオで見た時とメンバーが違う。翔真の言う通りだったか)


深谷SCは明らかにシステムとスタメンを変えてきた。しかも深谷SCの面々はどこか大川イレブンを舐めているような表情が見て取れた。しかし唯一FWの田中は玉緒に敵対心むき出しだった。


「翔真、ちょっといいか?」


「どうしたの? 修斗?」


「前半は俺達からのキックオフだろ? だから俺から翔真へパスを出したらすぐに俺に返してほしいんだ」


「・・・かますつもりかい?」


「あぁ、相手から舐めてかかられることは正直むかつくし、なにより田中君に喧嘩売られたからね」


「あぁ、なるほどね。じゃあ、任せたよ」


そんな会話をしていると審判に急かされたので、玉緒はすぐにポジションについた。そしてそのままキックオフとなった。玉緒はすぐにボールを月岡へと渡して、すぐに月岡は玉緒へと返した。


(さて、行くか・・・)


玉緒はそのままドリブルを開始した。するとすぐに深谷SCのMFがマークに付いた。少年団の選手とは比べ物にならないくらい速かった。しかし深谷SCのMFは玉緒からボールを奪えなかった。ボディフェイントを駆使して相手を躱し、相手の股を通して、もう一人もいとも簡単にドリブルで躱した。さらに迫りくるCBも左足のアウトサイドでボールをコントロールし、一度左足の裏でキャッチ、そして右足を大きく枚に踏み込んで左足のインサイドでボールを弾いた。そのボールは見事にCBの股を抜き、躱した。そしてGKと一対一となればもうすでに玉緒の勝ちだった。右足でゴールの隅へと叩き込むシュートを放った。それは相手GKのブロックが間に合わないスピードでネットを揺らした。試合開始わずか2分のことだった。


「は? ・・・え?」


深谷SCの誰かが言葉を漏らした。そしてその場にいた全員が息を飲んだ。玉緒修斗というストラカーに魅せられて。


「あの野郎・・・」


しかし唯一田中だけは敵意を剥き出しにしていた。しかしその他の深谷SCの面々は密かに感じていた。負けるのではないかと・・・


■■


「ピピーッ! 試合終了!」


主審が笛を吹いた。試合が終了した。大川SSはクラブチーム深谷SCに対して3対0という大差で勝利をした。


「まじかよ・・・」


「俺達が少年団なんかに・・・」


深谷SCの面々はピッチ上に腰をついて、特に田中は結果が信じられないような表情をしていた。なぜなら玉緒はこの試合で一人3得点、ハットトリックを達成していた。しかもそのうち2得点はドリブル突破されて失点したものだった。


「やったな、修斗!」


「あぁ、目にものを見せてやったぜ!」


玉緒はこの試合で舐めた態度を取っていた深谷SCに目にものを見せるつもりだった。大川SSを舐めるなということを見せつけたかった。


(玉緒君ってあんなにすごかったのね・・・味方を使わないのは本来なら褒められたことじゃないけど、あのドリブルはそれすらも黙らせるものだわ)


監督の大川も前半スタンドプレーが目立つ玉緒を交代するか悩んだ。しかし、一人のサッカーファンとして彼のプレーをもっと見たいと思った。それに大川は玉緒が何の意味もなくスタンドプレーをする子だとは思わなかったため、そのまま交代をさせなかった。


「みんな、おめでとう! だけど玉緒君、次からはあんなスタンドプレーをしちゃだめよ」


「分かっていますよ。大川監督」


「ちなみに今日のプレーの理由を聞いてもいいかしら?」


「まぁ個人的な感情ですね。あそこに座っている相手チームのFWは同級生なんです。でも俺を見の敵にしていて・・・だからちょっと」


「・・・なるほど」


スタンドプレーの理由を聞いたその後大川はメンバーに連絡事項を伝えた後、次の相手が川島SCだということを伝えて解散した。そして次の日、川島SCとの試合当日となった。


「みんな、よく聞いて。今日戦う川島SCは昨日の深谷SCと違って、舐めてかかってくれる相手ではないよ。私達は今、リーグ表1位。逆に私達は注目されている。だからこそ、ここを勝って、本戦リーグまで行くわよ!」


「「「「「はい!」」」」」


大川SSのメンバーはロッカールームで気合を入れた。そしてそのままピッチへとメンバーは向かっていった。


「篤、いいかい?」


「なんだ、翔真。珍しいな、試合前に俺に話しかけるだなんて」


「いや、気をつけてね。川島SCのツートップのFWは二人で高橋SSから6得点している。今までとは攻撃力が違うから、頑張って」


「誰に言っているんだよ。俺が点を取られるなんて思っているのか? 安心しろよ。0点に防いで今日も勝ちだ」


「そうか、頼もしいな」


月岡と篤はお互い拳を合わせて挨拶をした。そしてピッチに向かうとすでに川島SCの面々はポジションについており、深谷SCとは違い、全員覚悟を持った目をしていた。


(そう簡単には勝たせてもらえなさそうだな)


最前線にいる玉緒はそんな雰囲気を川島SCから感じていた。そしてキャプテンの久森が主審の下へ行き、コイントスの結果、大川SSのキックオフでスタートすることになった。


(俺達が3点取った高橋SSに倍の6点を取って勝っているチーム。油断していたら確実に負けるな)


玉緒は両頬を叩いて気合を入れ直した。そして主審が時計を見てキックオフの宣言をした。大川SS対川島SCの試合がキックオフとなった。

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