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34.VS川島SC①

大川SSのFWである玉緒はボールをトップ下の月岡へと渡した。そして大川SSのSHの浅川と林、そしてFWの玉緒は敵陣へと上がっていった。


(! 早い。もう、三人がマークされている。これじゃあパスが出せないな・・・)


月岡が初手をどうするか悩んでいると、相手のFWが月岡のマークをしにきた。相手のFWは月岡と適切な距離を保ちながら月岡の様子を伺っていた。


(これがスペインにいた月岡か・・・さて、どう動く)


川島SCは大川SSのことを調べていた。スペインでプレーしていた経験のある月岡翔真と星島篤がいるということを知っており、その二人を押さえればよいと当初は考えていた。しかしそこに謎の9番のストライカーが入ったことで、川島SCは大川SSの脅威度を上げていた。


(大川の9番も脅威だな。だが、俺達だって負けられない!)


月岡はキレのある動きでドリブルを行い、FWを自ら抜くことを選んだ。しかしすぐに川島SCのFWが月岡の身体を押しのけてボールをインターセプトした。そしてそれを素早く左SBへとパスした。


(流石に一筋縄では行かないか)


さすがの月岡も本気のクラブチームの守備には苦戦した。それだけクラブチームの本気度が伝わってきた。


(攻守の切り替えも早い。すでにボールは俺達の方まで持っていかれたか。頼んだ! 久森君!)


久森は左SHの浅川をマークしていた川島SCのFWが、浅川を置き去りして中央へ上がるのを確認した。そのため、久森は開いた自陣のスペースを埋めるために前に出て相手のSBからパスコースを塞いだ。


(上手いな、大川SSのボランチ。周りをよく見ている。が、逆サイドにスペースができているぞ)


相手のボール保持者は逆サイドのSHへとロングパスを出した。そのパスは見事通り、ボール保持者大川SSのピッチを駆け上がった。しかしすぐに大川SSの左SBの佐藤とボランチの細田が近づき、数的有利を作り出した。


(さすが勝っている少年団だけあるな。ケアが上手い。でも、残念だね)


相手のSHは大川SSのボランチである細田が詰めたことによってできたスペースにボールを出した。大川SSのメンバーはそこに誰もいないと思っていた。しかし、そこには月岡のマークを振り切って抜けた相手のFWがいた。FWはそのままドリブルを開始して、距離を詰める。すぐに大川SSのCB二人がディフェンスに回るが、相手FWはそのままミドルシュートを放った。


(上手いな。だが俺の守備範囲だぜ)


星島は右へジャンプしてボールをキャッチした。そしてそのまま陣形が整うまでボールを保持した。


(さすが守護神、星島篤。こりゃ大量得点は見込めないな)


川島SCはすぐに自陣へ戻り、守備の陣形を整えつつあった。そして大川SSのCB守谷は星島からボールを渡された後、そのまま自陣でボールを回していた。


(まさか月岡が抜かれるとは思わなかったな。いや、普通はそれが当たり前か。今までが異常だったと考えよう。よし、このまま少しずつビルドアップしよう)


ボールを受け取ったボランチの久森は中盤でボールを回しながら機を待っていた。そしてハーフラインを超えた辺りで、右SHの林が上手く相手の裏を抜けたのを確認し、そこへパスを出した。パスを受けった林はそのまま斜めに中央へ切り込んでいった。


(く! やっぱり寄せが早い)


しかし川島SCのDFは大川SSに攻めさせることはしなかった。そしてパスを出せないと判断した林は右SBの石森へとパスをした。石森はパスを受けた後、そのまま相手とボールの間に身体を入れてゴールラインへと駆け上がっていった。


(頼んだぞ! 玉緒!)


石森は身体の向きを変えて相手に邪魔されないようにクロスをあげた。そこにはFWの玉緒が走り込んでいた。


(クソ! 四枚か!)


しかし玉緒はヘディングをすることはできなかった。どんなに才能がある玉緒でもCBとボランチの4人に素早く囲まれた環境では力を発揮できなかった。そしてボールは川島SCのGKがキャッチした。


「カウンター!」


相手のGKは逆サイドのSBへパスを出した。そしてそのSBはすかさず自分のSHへとパスを出した。


「細田! 行くな!」


ボランチの細田が左SB石森のカバーをしようと詰めようとしたのを久森が止めた。理由は相手のFW。細田がボールに詰めた瞬間に月岡を振り切り、自陣に攻めてくるのが分かったからだ。


(へぇ流石に分かったようだね。あのボランチは)


相手FWと月岡は互いにマークをし合っている。いくら月岡が上手くても100%で勝てることはない。それに相手FWは月岡よりも足が速いということが分かったため、一度抜かれたら追いつけない可能性があることを月岡自身が理解していた。


(さすが本気のクラブチーム。明らかに前の2試合よりも手強い・・・)


月岡は試合を楽しんでいた。今まではテクニックだけで相手を難なく躱していたり、出し抜いていたりしていた。しかし今対戦しているFWはそれだけでは抜けなかった。


(だけどそうは言っていられないな。俺が起点とならないと!)


ボールは川島SCが保持していた。相手のSBとボランチでパスを交換し、大川SSのゴールをねじ開ける好機を伺っていた。


(だめだ。CBから離れると次はボランチが俺につく。俺を徹底マークするつもりだな)


玉緒は前線で相手のパスをカットしようと試みているが、玉緒には常にボールを持っていないCBかボランチが張り付いていた。


(やっぱりこの9番上手いな。スピードもあるし、裏に抜けるのが上手い。ストライカーの嗅覚ってか)


実際川島SCも玉緒のことを一番警戒していた。特に警戒しているのはドリブルテクニック。一度ボールを持たれると止めるのは難しいと判断していた。


(一回後ろに下がるか・・・)


玉緒は今前線にいても何もできないと判断し、一度攻撃のラインを低くすることを選んだ。そしてそれを見た川島SCのボールを保持しているSBはボランチへとパスを出した。するとそれを見た相手SHが林の裏を取り、ボールをもらいに向かってきた。それを見た玉緒はマークするために相手SHに近づいた。しかしボールは前に出ていたボランチへと渡り、そのボランチは縦のパスを出した。


(させるか!)


月岡に張り付いていたFWがボランチにボールが渡る前に前線へと走り出した。それに月岡もついて行った。そしてパスは見事にFWに通ったが、その一瞬のトラップの間に月岡は追いつき、相手の眼の前に立った。


(流石だな、でも向かってきているのは俺だけじゃないぜ)


ボール保持者のFWはすぐ横にパスを出した。そこには浅川を置き去りにして上がってきたもう一人のFWがいた。そしてボールを出したFWはパスを出すとすぐに月岡を躱して前に詰めようとした。


(ワンツーはさせない!)


月岡はボールと相手の前に身体を入れてパスコースを塞いだ。しかしボール保持者のFWはそこにパスをするのではなく、逆サイドを上がってきたSBにパスを出した。SBはそのままサイドを駆け上がり、クロスをあげた。


(クソ! 回り込めない!)


月岡はマークをしているFWにシュートを撃たせまいと必死でボールと相手の間に入ろうとするが、なかなかポジションを奪えなかった。


(ちっ、これじゃヘディングは無理だな)


月岡はせめてジャンプをさせまいと身体を寄せていたため、FWはジャンプできなかった。そのため足元でトラップしたあと、後ろにパスをした。そこにはもうひとりのFWがいた。すでにそこなペナルティエリアに入っていた。FWは左足を振り切った。コースも完璧だったため、さすがの星島も届かず、大川SSは二次予選初めての失点をして0対1となった。

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