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35.VS川島SC②

(くそ! 止められなかった!)


星島は拳で地面を叩き、悔しさをあらわにしていた。大川SSも星島の失点というのは初めて見たため、動揺をしていた。


「リスタート! まだ前半は終わってないよ!」


月岡が大川SSイレブンを鼓舞した。その声に大川SSイレブンは正気を戻し、それぞれポジションへと戻った。そして玉緒がボールを月岡に蹴り出してリスタートした。


(やっぱり追加点を狙ってくるか!)


川島SCは最初のように前線の四人に対して同じ人でマークを開始した。月岡は一旦ボランチの久森へとパスをした。


(だめだ。パスコースがない。起点の月岡も抑えられている。サイドからいけるか? 時間はあるのか?)


久森は徐々にビルドアップしながら周囲を見たが、前線は全員マークされていた。頼みの綱の月岡と玉緒、そして浅川が封じられているため、久森は作戦を考える。


(前線が使えないなら俺が行くしか無い)


久森は右SBの石森にボールを渡すと、一気に相手の陣地へと走り出した。そして久森の行動を見た月岡と林は、相手と久森の間に体を入れて詰められないように身体を寄せた。さらにボールを受けた石森は久森に向けてパスを出してそれを通した。


(玉緒は・・・来ている! 頼んだぞ!)


久森は相手のSBが詰めてくる前に近寄ってきた玉緒へとパスを出した。玉緒はボールを受けながら身体を前に向けてトラップしてそのままドリブルを開始した。


(ありがとう久森君! 前には四人。抜けるな)


玉緒はそのまま相手ゴールに向かってドリブルを開始した。ボランチが二人玉緒を止めようとしたが、玉緒はそれを見事なドリブルテクニックで躱した。すると次は二人のCBとその後ろにGKが来ていた。


(流石にこれはドリブルで抜けない。ポストプレー、いやその間に抜いたボランチに詰められる。左右にどっちかにシュートしてもSBが多分ブロックする。なら!)


玉緒はボールの下に足を入れて、ループシュートを選択した。そのシュートは相手GKが手を伸ばしてもギリギリ届かないくらいの高さでGKを越えていった。SBがスライディングでボールをブロックしようとするが、ギリギリでボールはゴールラインを越えてネットに転がっていった。


「よっしゃあぁぁぁ!」


玉緒は右手を掲げて喜びをあらわにした。そして自陣に戻って来る玉緒に対して月岡がハグをして迎え入れた。


「やられたな。ドリブルを警戒していてが、シュート能力も抜群だとはな」


「あぁ、後半はあの9番を徹底マークだな」


川島SCのDF陣は大川SSの9番が想定よりもすごいやつだと認識した。そして川島SCのボールでリスタートしたが、アディショナルタイムも終わって、ハーフタイムへと突入した。


「どうだ、翔真。あのFWを抜けるか?」


「・・・抜くよ。川島SCのFWは二人共背が高い、でも負けるつもりはないよ」


玉緒は月岡に確認した。前半、月岡は相手のFWによって起点としての役割を封じられていた。玉緒は月岡がもしかして心が折れてしまっているのではないかと危惧したが、その目は逆に闘志に満ち溢れていた。


(篤は・・・大丈夫だな)


今大会初失点をした星島のメンタルも玉緒は心配したが、星島にはなにかオーラのようなものが漂っており、むしろ燃えているというような雰囲気を感じていた。


「みんな聞いて。後半向こうは恐らく玉緒君を徹底マークしてくると思う。だから少しシステムを変えるわ」


大川は今の4—2—3—1のシステムから4—3—3へと変更することを伝えた。さらに左SHだった浅川を下げて笹本を投入することを伝えた。


「WGの位置には右に月岡君、左に笹本君に入ってもらう。IHには右に細田君、左に林君を置くわ。両方のWGの二人にはサイドを広くカバーしてもらう。いい? 疲れが見えるようだったら交代するからね」


現代サッカー交代人数は前後半合わせて5人だった。そのため残りは4枠。しかし大川SSのベンチにはもう四年生しか残っていなかった。実質交代は無いと玉緒は思った。


「大丈夫ですよ。大川監督。後半絶対にゴールしますから」


月岡は大川に向かって宣言した。玉緒はその言葉が月岡自身を奮い立たせるものだと感じた。その後、大川SSは時間まで休憩をして後半戦を迎えた。そして川島SCは後半玉緒を徹底的にマークして、得点どころかボールにすら触れさせないつもりであった。そして川島SCのキックオフで後半が始まった。


(・・・すげぇ集中力だな)


玉緒は月岡を見てそう思った。


月岡は相手FWを集中して見ていた。それはボールを持っていようがいないが関係なかった。絶対に抜かれまいという意思が見えていた。そのため、相手FWは仕方なくドリブルするのをやめて後ろのボランチへとボールを戻した。


(だめだ、ボールを奪いに行けない・・・俺にボールを触らせない気だな)


玉緒は相手ボランチにプレッシャーをかけに行こうとしたが、マークをされているボランチのせいで行けなかった。先程も相手のDFラインまで下がった玉緒だったが、ボールと何も関わっていない場合でもCBが貼りつていた。


(翔真も相手FWに付きっきりだし、ボールを奪えないから逆サイドにも展開できない。これは膠着が続くな)


玉緒の予想通り、後半の試合展開はとてもゆっくりとなった。互いに中盤まではボールを運ぶことはできるが、最前線まで運ぶことはできなかった。そしてその試合が動いたのは後半15分だった。


(しまっ!)


左IHの林とマッチアップしていた相手SHが上手くフェントを使い、裏へと向けた。それを見た相手の左SBは大きな縦のロングパスを放った。そしてそれは見事に通った。


(させない!)


抜け出してきたFWに対して久森がFWとの距離を詰めた。そしてそれに合わせてCBの守谷もマークにつき、ボールを奪おうとした。しかし相手FWはそのまま後ろを向いてボールをキープすることを選んだ。


「サイドハーフが詰めてきた!」


相手の逆サイドに位置していたSHが右のIHの細田を抜いて、斜めから中央へと切り込んできた。すかさず細田はDFのみんなに声をかけてカバーを頼んだ。


(ちゃんと戻せよ!)


ボール保持者のFWはポストプレーの体勢からボールを向かってきたSHへとパスをした。その瞬間にFWは久森と守谷の間を抜けた。それに合わせてSHはワンツーでボールを返した。オフサイドに引っかからないギリギリのプレーでかけであった。この時点でFWはGKの星島と一対一という状況になった。


(? 前へ出ない・・・)


FWはすでにペナルティエリアへと進駐したが、GKの星島は一切動く様子を見せなかった。FWはてっきり前に来てシュートコースを塞いでくるものだと思っていた。


(なら、遠慮なく決めさせてもらうよ!)


FWが右足を振ると同じタイミングで星島は動いた。シュートの方向に。星島は類稀なる反射神経と集中力により、シュートの方向を見切って横跳びをした。


(修斗じゃあねぇんだ。モーション中に切り替えることなんてできないだろ!)


星島は相手のFWのシュートをギリギリでキャッチした。誰から見てもスーパーセーブだった。そしてボールをキャッチした星島はすぐに立ち上がり、パスを出した。自陣のDFラインまで下がっていた玉緒に。


「篤、ナイスだ! 後は任せろ!」


一瞬だった。相手のチームは星島のスーパーセーブを見て止まってしまった。その隙に玉緒はマークを振り切り、戻ってきた。きれいなカウンターだった。


「戻れー! 9番が来るぞ!」


相手チームは急いでDFを整えた。すぐにボランチが詰めてきたが、玉緒はそれを難なく躱した。しかし相手チームは左サイドから玉緒を詰めてきた。


ポンッ!


玉緒は前を見ながら右サイドにパスを出した。そしてその右サイドには玉緒と同じタイミングで相手陣地に走っていた月岡がいた。しかし月岡には相手のFWがついていた。


(よしパスカットできる!)


「うぉぉぉぉぉ!」


相手FWは玉緒から月岡に来たパスを月岡がトラップした瞬間に奪うつもりでいた。しかし月岡はトラップするのではなく、足を最大に伸ばし、つま先でボールを押し出した。そのボールは見事玉緒とのワンツーパスに繋がった。


(さすが、翔真。すげぇな)


玉緒はそのままドリブルをした。しかしすぐに玉緒は相手の両方のSBと二人のCB、そして後ろから月岡をマークしていたFWが迫っていた。


「ふっ!」


玉緒は笑った。ここへ来て相手は致命的なミスをしたと思ったからだ。玉緒は足の裏でボールを引き寄せて、右足の甲でサイドバックの背を超えるパスをした。そのパスを受けたのは月岡。玉緒へのスルーパスを出した後、すぐに体勢を直してゴールへと向かっていた。そしてパスを受けた月岡はそのまま左足を振り抜き、相手のゴールネットを揺らした。

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