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37.VS赤城SC①

「全員、よく聞いて欲しい。今日は決戦の日よ。私達は現在得失点の差で2位だけど、今日勝てば少年団で初の西東京予選リーグ本戦へと出場できるわ」


ロッカールームで大川はみんなに告げた。大川の言う通り、現在大川SSは赤城SCと勝ち点は同じだが、得失点の差で2位となっていた。その差は3点。現状を考えると引き分けで終わらせることは無理であった。大川SSが勝ち上がるには勝利しかなかった。


「だけど、今日の赤城SCは強い。向こうの布陣は3—4—2—1。中央に厚みがあるし、守備時には5バックの形になることもある。だけどサイドからは攻められる。落ち着いて攻めていけば得点できるわ」


赤城SCは守備に強かった。しかもワントップのFWも実力があるため、強敵であることは間違いなかった。


「スタメンのみんな。私はピッチの外でサポートはできるけど、フィールドに居るのはあなた達よ。何があっても諦めちゃだめよ」


「「「「はい!」」」」


スタメンに選ばれたメンバーは大川の話に大きな声で返事をした。その後、大川の指示で全員が輪になって肩を組んだ。


「久森君、お願い」


「みんな、今日の一戦ですべてが決まる。フィールドプレイヤーもベンチメンバーもみな心は一つだ。絶対勝つぞ!」


「「「「「「「オォォォォォォォ!」」」」」」」


ロッカールームに大きな声が響き渡った。そしてそのまま大川イレブンはピッチへと向かって歩み始めた。そしてその頃赤城SCのロッカーでは監督の酒井から大川SSのことが話されていた。


「いいか、大川SSには赤城SCのセレクションを受かったものがいる。つまり、実力はお前達と張る選手がいるということだ。心して戦え!」


赤城SCの面々は大きな声で返事をしてピッチへと向かっていた。酒井もピッチに向かいながらコーチ達と話していた。


「やっぱり、あの三人が来なかったのは痛かったですね。確実にうちのスタメンになれたでしょうに」

「その話はやめろ。彼らには彼らの人生がある。俺達にとやかく言う資格はない。立ちはだかるなら戦うまでだ」


そう言うと酒井はピッチのベンチへと向かった。いよいよ両者が揃い、本戦リーグ出場に向けた最終決戦が始まろうとしていた。そして両キャプテンが主審のもとに行き、コイントスの結果で最初は赤城SCのボールで始まることとなった。


(さて、行くか・・・)


玉緒は息を吐いて気合を入れた。そして主審がセンターサークルに近づき、ホイッスルを鳴らした。運命の予選二次リーグの最終戦が始まった。


(全員上がるのが速い!)


赤城SCのキックオフと同時に赤城SCのWBとSHの両方が大川SSの陣地へと侵入した。そしてボール保持者の相手ボランチはそのまま右サイドのWGへロングパスを出した。


(させないよ!)


そのボールを大川SSの右SBである石森は足を出してパスカットした。これは事前に大川SSのメンバーが対策をしていたことだった。赤城SCはどの試合も開始数分でこの形を使って得点を出していた。そのため大川SSの両SBは相手のWGのことをよく見ており、すぐに対応ができた。そしてそのまま石森は下がって来ていた月岡へとパスを出した。


(流石に戻りも速いな。でもそのおかげでサイドが空いている!)


月岡はマークに付かれながらもドリブルでボールを運び、下がってきていたFWの玉緒へとパスを出した。


(頼んだよ! 浅川さん!)


玉緒はワンタッチでボールに勢いを加えながら左サイドへとパスを出した。そしてそのボールを浅川はしっかりと足でトラップして斜めから中央へと切り込んだ。


(ちっ、こいつ。女子のくせに上手い!)


すぐにCBがカバーをしたが、それを浅川は抜いた。そしてギリギリペナルティエリアに入ったところでシュートをした。しかしそれはもう一人来ていた相手のCBによりブロックされた。


(! もう向こうのFWが来ている!)


ブロックしたCBはそのまま縦に大きなパスをしてカウンターを狙ったが、もうすでに玉緒が接近していたので、仕方なくクリアをすることにした。


(流石にリスク管理ができているか)


玉緒はオフサイドラインギリギリに位置取ったところで、審判からボールを受け取った月岡が、大川SSの左SBである佐藤にボールを渡した。佐藤は受け取った後、赤城SCの選手はすぐにプレスをかけた。


「球際しっかり! 他は特に大川の9番へのパスコースは潰せ!」


(俺の対策はバッチリってか・・・)


相手のCBは全体に指示を出した。その指示通りに相手のWGは球際を激しくしており、大川の前線にいる玉緒へのパスコースは完全に封じていた。


(パスコースは・・・これしか無いか!)


ボール保持者の佐藤はなんとかドリブルで一瞬相手のマークを外した。そしてそのまま相手の浅い位置でクロスをあげた。アーリークロスだった。


(だめだ、玉緒まで届かない!)


佐藤のあげたクロスは打った瞬間に届かないことが分かった。しかしそれを玉緒の手前にいた月岡がボールへと寄って、ジャンプして胸トラップをした。そしてそのまますぐに逆サイドを走っている右SHの林へとパスを出した。林はマークされている相手WBの裏をとり、パスを受け取った。そのままドリブルをしてペナルティエリア近くまでボールを運び、相手のCBの一対一の状況になった。そしてそのままボールを保持した。


(向こうは一対一、サポートに行くか?)


「! 大川のFWから目を離すな!」


相手のCBが玉緒から離れようとしているボランチに指示を出したが、遅かった。その隙に林はクロスをあげた。そしてそれに反応するのは玉緒。ボランチが離れたスペースをうまく使い、邪魔されずにジャンプをした。そしてヘディングをした。


(くっ! 届け!)


 しかし玉緒のヘディングシュートは惜しくもGKに弾かれてゴールラインを割り、大川SSのコーナーキックとなった。


(まだヘディングではしっかりボールをコントロールできないな。1点リードにしたかった。いや、切り替えよう)


玉緒は反省を後回しにしてセットポジションについた。大川SSのコーナーキッカーは月岡。そして月岡はショートコーナーを選択した。前に出てきた右SBの石森にボールを渡し、石森はすぐに月岡へボールをパスした。すぐに相手のCBとWBが月岡にプレスをかけるが、月岡は左足で中央の玉緒へとクロスをあげた。


(流石に厳しいな!)


玉緒はまたしてもヘディングをしようとしたが、GKを含めた4人のブロックによりジャンプができず、ボールはGKがパンチングで返した。そしてこぼれ球を大川SSのボランチ細田が拾う。


「細田君!」


月岡に呼ばれた細田はすぐにパスを出した。月岡は赤城SCのゴールに背を向けてボールを受けた。しかしすぐに相手のSH二人に囲まれた。


(詰めてきね、それなら!)


月岡は右足の裏でボールを引きつけて足の甲で左サイドへとパスを出した。この前の試合で玉緒が使った足技を家でこっそりと練習していた成果だった。そしてそのボールは左SHの浅川へと渡った。そして浅川はそのまま切り込んだ。そして再びギリギリペナルティエリアに入ったところでシュートをした。

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