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38.VS赤城SC②

(だめ! コースが甘い・・・)


しかしそのシュートは残念ながらGKの正面だった。GKはボールを難なくキャッチをして、すぐにキックで前線へとパスを出した。そのボールは低くて速いボールですぐにFWの足元に収まった。赤城SCがカウンターを仕掛けた。


((足が速い!))


大川のCBである斎藤と守谷はボール保持者のFWへマークについた。しかし、FWは球際に強かったため、なかなかボールを奪えなかった。だがそれと同時にFWの選択肢を限定していた。FWは仕方なく正面からシュートをしたが、それは大川の守護神である星島の手の中へ簡単に収まった。


(シュート以外の選択肢を潰されたか。よほど大川のGKは信頼されているんだな)


「サンキューだ。斎藤、守谷」


「いや、こっちこそ結局篤頼りになって、すまん!」


星島はCBの守谷にボールを渡した。そして守谷は久森達ボランチや月岡が戻ってくるのを自陣でパスを回しながら待った。


(さっきの攻防でお互いに得点が難しいのは分かったはず。だが仕掛けるタイミングはここだな。そうだろ? 修斗!)


「大川の9番が下がったぞ!」


玉緒は自慢のスピードで相手陣地から一気にハーフラインを越えて、ペナルティエリア近くの自陣へと戻った。それを見た守谷は玉緒へのパスを出した。そして玉緒は身体を前に向けながらトラップした。


(させない!)


しかしすぐに相手のFWが玉緒の前に立ちふさがった。相手のFWはここでボールを奪い、ゴールを決めようと考えていた。そしてこの瞬間、ピッチの全員がその対決に注目した。両チームのストライカー同士の一対一が始まった。


(ここは絶対に抜く!)


(絶対に止める!)


そして仕掛けたのは玉緒。右のシザースをして相手をかわそうとするが、相手のFWはそれに惑わされなかった。そのまま右と左のステップオーバーをしてボールを跨ぐ。


(これでもだめか!)


(こいつのドリブルが上手いことは動画で見た。一瞬、抜き去る一瞬だけに集中しろ!)


徐々に玉緒と相手FWの距離がなくなり、スペースがなくなる。玉緒は何度目かの左右のシザースをした。


(ここだ!)


 相手のFWはタイミングを見てボールのインターセプトに動いた。しかし玉緒はその動きを見て、右足のアウトサイドでボールを押し出して躱した。FWの対決は玉緒に軍配が上がった。


「クソ! みんな止めろぉ!」


抜かれたFWは自分のMFとDF陣に対して叫んだ。すぐに赤城SCのSH二人が詰めるが、玉緒はそれを難なくドリブルで躱した。そのままドリブルをする玉緒にボランチがプレスをかけるが、それすらも玉緒は躱していった。


(えぇい、仕方ない!)


 赤城SCのボランチは足を出し、ファウルを貰ってでも玉緒を止める選択肢をした。しかしそこは残念ながらペナルティエリアではないが、バイタルエリアだった。


「修斗、いける? それとも俺が蹴るかい?」


「任せろ」


フリーキックの準備をしている間に月岡が玉緒にフリーキッカーをどうするか相談したが、玉緒は自分が蹴ることを月岡に伝えた。


「壁は一応3人作ろう」


「でもこの距離だぞ。いるか?」


「・・・念のためだ」


赤城SCの面々は大川SSのフリーキックに対して壁三枚を作ることにした。赤城SCのFWの意見だったが、フリーキッカーの9番と直接対峙した意見を信じることにした。


(そういえばフリーキックの練習ってあんまりしていないな・・・でもここで決めるしか無い!)


セットプレーの準備ができたため、玉緒はボールから距離を取った。そして走り出して右足でボールを蹴り出した。そのボールは壁を遥かに越え、なおかつカーブを描きながらゴールの隅へと収まるきれいなフリーキックだった。それは見事にGKを抜けてネットに突き刺さった。前半が開始して約10分、試合が動いた。


「おっしゃー!」


玉緒はゴールに入ったボールを見て叫んだ。大川イレブンの他のメンバーも先制ゴールに喜び、月岡に至っては玉緒に抱きついていた。


「やられたな」


「あぁ。でもまだ10分もある。すぐにリスタートだ」


赤城SCはボールをセンターサークルに戻してリスタートする準備をした。そして大川SSのイレブンもポジションに付いた。それを確認した主審は笛を吹き、リスタートした。


「まだ時間はある! 落ち着いて行こう!」


ボールを蹴り出したFWは味方に向かって叫んだ。その言葉通り、赤城SCは先程と打って変わってゆっくりとしたリズムでビルドアップをしてきた。


(引き気味でプレーしている。何が狙いだ?)


久森は徐々にDFラインを上げながら赤城SCのビルドアップについて考えていた。前半の時間は残り約5分程度であった。しかし赤城SCがこのままボールを保持したまま前半を終えるわけ無いと考えていた。


(! これはいける!)


大川SSのボランチの一人である細田は相手のSHからボールをインターセプトできると思い、プレスをかけた。そして激しい球際の攻防を制してボールを奪った。


(右サイドが空いている。頼んだぞ! 林!)


細田は右サイドを走っている林へとクロスを出し、林はそれを受け取った。WBの裏をついていた。そして林はそのままドリブルをした。


(おかしい・・・なんでこんなに簡単に攻めることができているんだ?)


久森は疑問に思った。そしてそれは前線にいる玉緒と月岡も感じていた。しかしプレーはそのまま続き、林はドリブルでペナルティエリアに入ってシュートを打ったが、それはGKによってキャッチされた。


(! もしかして!)


「下がれ! みんな! カウンターが来るぞ!」


久森はボランチの細田とDF陣に声をかけた。大川SSは赤城SCによって段々とDFラインを上げられていた。よって後方に多大なスペースができており、そこ目掛けてFWがオフサイドラインギリギリのところまで抜け出してきた。相手のGKはキックでFW目掛けてパスを出し、通した。


(前みたいに正面からのシュートに限定させれば、篤が取ってくれる!)


大川SSのCB二人はなんとか相手FWにプレスをかけて、最初のように正面のシュートに限定させようとしていた。そしてそのまま三人の攻防が続いた。


トンッ!


((バックパス!))


赤城SCのFWはかかとを使い、目線だけ後ろにやってバックパスをした。そこには浅川を振り切った相手のSHが来ていた。そしてSHはボールを受け取るとミドルの位置からファーサイドへとシュートを放った。星島は前の三人が視線に入っていたため、反応が遅れてしまった。そのため横跳びをしたが間に合わず、ボールはゴールネットへと突き刺さった。


「くそ! やられた!」


星島は悔しさをあらわにした。大川SSは前半終了の間際に1対1に追いつかれてしまった。喜ぶ赤城イレブンとは対称的に大川イレブンの様子は暗かった。そしてそのままアディショナルタイムに突入し、両者とも奮闘したが、1対1のままハーフタイムへと突入した。

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