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40.VS赤城SC④

「やったね! 浅川さん!」


「うん! いいパスありがとう 玉緒君!」


(はっ! まずい! 姫乃に殺される・・・)


玉緒と浅川は男女ということも忘れてピッチ上でハグをした。しかしハグして玉緒は思った。もし早乙女に見られていたら、首を締められるかもしれないと。そのため、すぐに離れた。


「あ・・・ごめん」


「いやいや、こっちこそ抱き合ってごめんね」


「それは・・・うん・・・別に・・・」


「それより、戻ろう。向こうは多分攻撃的になるよ」


玉緒達はすぐにリスタートするためにポジションへと戻った。そして赤城SCと対峙した玉緒は選手の目つきが変わったことを感じた。


(カウンター覚悟でDFラインを上げて攻撃的になるだろうな。俺達ならそれをするし)


玉緒がそう思っているとすぐに試合が再開された。そして玉緒の予想通り、相手のFWとSHとWBは一気に前線へと流れ込んできた。そしてDFラインでボールを回しながら着々と前線を押し上げてきた。


(すごいな、ボールを取られることが怖くないのか? 前線の俺がプレスをかけても焦っている様子はない)


ワントップである玉緒は相手DFにプレスをかけてボールを奪おうとしたが、相手は焦ることなく、ボランチを経由などして上手くパスを繋いでいた。


(浅川さん、林君、お願い!)


玉緒は両SHの浅川と林に視線を送った。二人共それの意図を理解して三人でプレッシャーをかけに行った。しかし赤城SCはCB三人とボランチ二人で上手くパスを交換して、それを凌いでいた。


(やっぱりクラブチームだからなのか? 上手いな)


玉緒は赤城SCに感心していた。そして赤城SCの面々も今までのパスが通っていることに驚いていた。絶対に負けたくないという思いが、赤城SCのパフォーマンスを向上させていた。


(今だ!)


赤城SCのボランチは自分に来たパスを受け取って前に向き、左SHにパスするように見せかけて奥のWBへパスをした。そのままWBはパスを受け取るとすぐにSHへとパスを出した。そしてそれは通る。相手のSHについていた浅川が相手のパスに一瞬目を話した隙に裏へと抜けていたためであった。


(頼んだぞ!)


そのSHはすぐに自分のFWへとパスを出した。大川SSのCBの守谷と斎藤はパスをトラップしたところでインターセプトしてカウンターを仕掛けようとした。しかしそれは叶わなかった。赤城SCのFWはボールをトラップせず、そのままボレーでシュートをした。


(甘ぇよ)


しかしそのボールは星島によって難なくセーブされた。そしてそのこぼれ球を先程FWへパスを行ったSHが拾い、再びシュートを放った。


(届け!)


星島はボールをセーブした後、すぐに体勢を直した。そしてそのまま横跳びをして再びボールに触れた。そしてそのボールはゴールに届かず、大川SSのSBが大きくクリアをした。赤城SCのスローインから再開される事になった。そしてそのまま時間は過ぎ、後半残り6分となった。そこで試合は再び動くこととなった。


(だめだ! クリアされる!)


玉緒はCBとボランチ二人の三人にプレッシャーをかけられていたため、林の外したシュートのこぼれ球に反応ができなかった。そしてそのボールは別のCBによりクリアされた。


(まずい! 取られる!)


月岡はクリアされたボールを奪取しようとしたが、月岡よりも良いポジションを取っていた相手SHにボールを保持された。そしてそのままSHは一気にドリブルで前線へと上がっていた。しかしそれに月岡も食らいついていった。


(大川の10番もめちゃくちゃ上手い! 頼んだぞ!)


ボール保持者のSHは自陣から猛スピードでピッチを上がっていたWBへとパスを出した。そのままWBは大川SSの左SB佐藤にマークされながらもサイドを駆け上がっていった。


「来い!」


赤城SCの声と同タイミングでWBはクロスをあげた。赤城SCのFWは叫びながらジャンプをしてヘディングシュートを行った。そのシュートはファーサイドへと飛んでいった。


「うぉぉぉぉぉ!」


 星島も叫びながら横跳びで食らいつき、片手でボールを弾いた。


(大川のGKも上手い。だから正直ブロックされると思ったよ)


しかしボールを弾いた先にいたのは最初にボールを受けた赤城SCのSHだった。そのSHは自分のFWのヘディングがブロックされると踏んでいた。もちろんFWの力を信じていないわけではない。自分のチームのFWならあそこでファーサイドのヘディングを確実に決めるという信頼があったからこそ、完璧な位置取りができた。そのためボールはSHの足元に収まって、そのままボールは大川SSのネットへと突き刺さった。後半残り3分を残して2対2の同点となった。


「おっしゃああぁぁぁぁぁ!」


「・・・・」


喜び合う赤城イレブンとは打って変わって大川イレブンの様子は暗かった。もう少しで逃げ切れると思ったところでの同点弾。点よりも精神的に来るものが多かった。


「まだだ! あと3分はある! それにアディショナルタイムも! 諦めるな!」


その暗い雰囲気に喝を入れたのはキャプテン久森だった。久森はすぐにボールを持ってセンターサークルへと運んだ。その姿を見た玉緒を始めとした大川イレブンは再び闘志をあらわにした。


「・・・翔真、多分もう俺がゴールを決められるような瞬間は無いと思う。だから頼んだ」


「あぁ。任せて・・・」


大川イレブンの意思は集まらなくても一つだった。自分のチームのストライカーとエースに全てを預ける覚悟をした。そして本戦リーグ出場をかけた最後の攻防が始まった。


(頼んだぞ! 翔真!)


玉緒がボールを月岡に蹴り出した。そしてその瞬間大川のCBである守谷と斎藤もDFラインを上げて前線に上がろうとしていた。


(完全パワープレイか、ならカウンターさせてもらうよ!)


赤城SCも前線に枚数をかけた。このまま同点でも赤城SCは西東京地区のリーグ本戦へと進むことができる。しかしそれでも赤城SCは勝利にこだわった。そうしなければリーグ本戦で勝つことは不可能であるし、なにより大川SSの奮闘に答えたいと赤城イレブンは考えていた。


(玉緒がだめなら、守谷! 頼んだぞ!)


大川SSは相手陣地へとボールを運んだ。そのボール保持者の大川SSの左SBである佐藤は守谷にヘディングで合わせるようなクロスをあげた。守谷は大川SSの中で一番背が高いため、少し高めのクロスにも反応ができた。しかしそのシュートは残念ながらゴールポストを直撃した。


(これをクリアしてカウンターだ!)


(させない!)


こぼれ球を赤城SCのCBがボールをクリアしようとするが、そのボールへと先に触れたのは大川SSの左SHである浅川だった。浅川はスライディングをしてボールを赤城SCへと渡さなかった。そしてそのボールを拾ったのは詰めていた大川SSのボランチである細田。


(頼んだよ! 月岡!)


細田はボールをサイドに展開した。そしてそのボールを受け取ったのは大川SSの10番である月岡だった。しかしそれにすぐ赤城SCは反応して、玉緒についていたボランチと合わせて二人が月岡のマークに付いた。

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