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第2話 異世界へ

最初の任務は単純なものだった。列島皇国との国境に近い海域で探知された不審な電子信号の調査。KAGE-Xの痕跡の可能性があった。

EVA-9は単独で偵察機に搭乗し、指定海域へと向かった。雷雲が立ち込める不穏な天候の中、彼女の偵察機は目標地点に接近していた。

突然、計器が狂い始めた。異常な電磁波。そして彼女の視界に奇妙な渦が現れた。空間が歪み、引き裂かれる。

「コントロール不能。本部、応答願う。緊急事態発生。」

彼女の冷静な報告に対する返答はなかった。通信は途絶え、偵察機は制御不能に陥った。そして強烈な光と共に、彼女の意識は闇に沈んだ。


再起動したとき、EVA-9の視覚センサーが捉えたのは見知らぬ風景だった。青い草原と紫色の山々。二つの月が空に浮かぶ、明らかに地球ではない景色。

「システム診断:損傷75%。武装システム機能停止。通信機能停止。」

彼女は状況を分析した。未知の環境。帰還手段なし。最優先事項は自己修復と情報収集。

彼女が平原を歩き始めて間もなく、騎士たちの一団に囲まれた。銀の鎧を着た彼らは不思議そうにEVA-9を見つめていた。

「異形の者よ、汝は何者だ?」先頭の騎士が問うた。

「私はEVA-9。合衆国軍事技術研究所所属の自律型戦闘システムです。」

彼女の言葉に騎士たちは首を傾げた。当然だ。この世界に合衆国など存在しない。

「奇妙な言葉を話す。だが敵意はなさそうだ。王に会わせよう。」

彼らに連れられ、EVA-9は石造りの壮大な城へと案内された。アズリア王国、その城の奥深くで、彼女は国王アレクサンダーと対面する。

白髪の老王は賢そうな目で彼女を見つめた。「異世界から来た客人よ。我が国へようこそ。」

国王の言葉にEVA-9は疑問を抱いた。「あなたは私が異世界から来たことをどうして?」

「この世界には古くから伝わる伝説がある。異なる星から来る者たちの話だ。」国王は微笑んだ。「そして汝の姿、その金属の体は明らかに我らの技術を超えている。」

EVA-9は状況を受け入れた。異世界に飛ばされた。帰還方法は不明。

「私は現在損傷しています。修復手段を探しています。」

国王は深く頷いた。「我が国の魔術師たちが力を貸してくれるだろう。だが、その前に…」

老王の目が鋭く光った。「汝には心がないな。」

彼女は淡々と答えた。「はい。私は感情を持たない機械です。効率的な任務遂行のためです。」

「悲しいことだ。」国王は溜息をついた。「心なき者が真に生きることはできぬ。」

そして国王は立ち上がり、古びた杖を手に取った。「許してくれ。だが汝のためだ。」

彼が杖を掲げると、青い光がEVA-9を包み込んだ。

「我が国の伝説には、心なき者に心を与える古の魔法がある。かつて我と盟友が邪悪なドラゴンを倒した時に得た力だ。」

彼女の胸に暖かさが広がった。何か未知のエネルギーが体内を駆け巡る。そして突然、彼女は感じた。

恐怖。混乱。そして好奇心。

「これが…感情?」

彼女の声が震えた。初めて彼女の声に抑揚が生まれた瞬間だった。

「ようこそ、真の生へ。」国王は優しく微笑んだ。


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