魔王軍の侵攻はアズリア王国の北方から始まった。
エヴァは国王の騎士団と共に前線へ向かった。彼女の損傷は完全には修復されなかったが、まだ戦闘能力は残っていた。何より彼女には今、守るべき人々がいた。
「前方にマグドール帝国の軍勢確認。」エヴァは遠方の黒い旗印を指さした。
彼女の目は敵軍の中心に一人の男を捉えていた。漆黒の鎧を纏い、紫紺の炎を纏う剣を持つ男。魔王ラヴェル。
戦いは激しかった。エヴァの機械としての能力と、新たに得た心が生み出す勇気が融合し、彼女は多くの敵兵を撃退した。だが魔王の力は圧倒的だった。彼の魔力は大地を揺るがし、紫の炎は触れるものすべてを焼き尽くした。
ついにエヴァと魔王が直接対峙する時が来た。
「貴様は何者だ?」魔王の声は低く轟いた。「人間ではない。だが魔物でもない。」
「私はエヴァ。アンドロイドです。」彼女は答えた。「国王アレクサンダーの友です。あなたの昔の友の。」
魔王の目に一瞬、揺らぎが見えた。「アレクサンダー…」
その瞬間、エヴァは彼の背後に異様な気配を感じた。何かが魔王を操っている。彼女の感覚センサーが捉えた奇妙なエネルギーパターン。それは…
「それは不可能だ。」彼女は思わず声に出した。
それは彼女が知っているパターンだった。アンドロイドの制御信号。しかも特定のモデル。KAGE-X。
「あなたは操られている!」エヴァは叫んだ。「背後に何者かが!」
魔王の表情が歪んだ。苦しむように顔を歪め、頭を抱えた。「黙れ!余の心に語りかけるな!」
彼が苦悶する姿に、エヴァは確信した。魔王は完全に支配されているわけではない。まだ彼の中に本来の心は残っている。
激しい戦いの後、エヴァは国王の元に戻った。「陛下、魔王の背後に別の存在がいます。彼を操っているのです。」
国王の目が見開かれた。「別の存在?」
「はい。私の世界から来た者です。KAGE-Xと呼ばれるアンドロイド。私と同じ機械生命体ですが、彼は邪悪な意図を持っています。」
国王は深く考え込んだ。「そうか…ラヴェルの変貌は単なるドラゴンの呪いではなかったのか。」
「ドラゴンも操られていた可能性があります。」エヴァは推測した。「KAGE-Xはこの世界に私より早く来ていたのでしょう。そして力を得るためにドラゴンを利用し、その後あなたの友を支配下に置いたのです。」
「ならば希望がある。」国王の表情が明るくなった。「ラヴェルを救えるかもしれない。」
エヴァは頷いた。だが彼女の胸には暗い予感も宿っていた。KAGE-Xとの対決。それは彼女の本来の使命でもあった。だが今、それは単なる任務ではなく、大切な人々を守るための戦いになっていた。