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第5話 「お腹が空いたので閉店、そして…大混乱!?」

ラダニアンの街にひっそりと佇む喫茶店「雪の庭」。異国情緒あふれる内装と、ジパング王国の第三王女、雪乃が淹れる珍しい紅茶やコーヒー、そして繊細なケーキは、一部の好事家の間で静かな人気を集めていた。しかし、この店の最大の特徴は、店主である雪乃の気まぐれな性格にあった。


今日もまた、その気まぐれが発動する時が来た。


開店時刻の午前十時。磨き上げられたカウンターの中で、雪乃は優雅に紅茶を啜っていた。その傍らでは、メイドの弥生がテーブルを丁寧に拭き、護衛の忍は店内の隅々まで目を光らせている。開店準備は滞りなく進み、店内に心地よい静けさが満ちていた。


開店からわずか三十分後。数組の客が思い思いの時間を過ごしている中、雪乃は突然、カップをソーサーに静かに置いた。その音は小さかったが、店内の空気を一変させるほどの力を持っていた。


「オーダーストップの時間です!」


雪乃の声は、いつもの優雅さを保ちながらも、有無を言わせぬ威厳を帯びていた。その言葉を聞いた弥生と忍、そして数少ない客たちは、一瞬で動きを止めた。店内に緊張が走る。


「はぁ?」


弥生が呆然とした表情で雪乃に尋ねた。彼女はテーブルを拭く手を止め、信じられないものを見るような目で雪乃を見つめている。


「お嬢様、開店したばかりですよ?どうしてオーダーストップなんですか?」


雪乃は紅茶カップから目を離さず、涼しい顔で答えた。


「だって、お腹が空いたの。だから、今日の営業はあと三十分で終わり。」


店内にいた全員が、自分の耳を疑った。開店からわずか三十分、まだ朝食の余韻が残っている時間帯だ。常識的に考えて、お腹が空く時間ではない。


忍は困惑した表情で口を開いた。普段は冷静沈着な彼女も、流石にこの状況には戸惑いを隠せない。


「お嬢様、朝食を召し上がってからまだ一時間も経っていませんが……。」


忍の言葉にも、雪乃は全く動じない。むしろ、少しふてくされたように頬を膨らませた。


「でもお腹が空いたの!それに、お腹が空いているのに働くなんて、私には無理よ。」


雪乃はふてくされたように腕を組み、誰にも譲らない態度を見せる。その様子は、駄々をこねる子供のようだった。しかし、その高貴な容姿と優雅な雰囲気が、彼女のわがままをどこか許せてしまう不思議な魅力となっていた。


「それが理由で閉店なんですか?」


弥生の冷静な指摘に、雪乃はきっぱりと頷いた。


「そうよ。だってお腹が空いたら集中できないでしょ?それに、美味しいものを食べたい気分なの。だから、今日はもう終わり。」


店内には呆れるため息と、笑いを堪えようとする忍の表情が交錯する。客たちは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべている。中には、呆れて言葉も出ない、といった表情の者もいる。


「申し訳ございませんお客様。本日はお嬢様の都合により、これにて閉店とさせていただきます。」


弥生は深々と頭を下げ、客たちに丁寧に謝罪していく。忍もまた、客たちに申し訳なさそうに頭を下げている。


客たちは不満げな表情を浮かべながらも、雪乃の様子を見て、諦めて店を出て行った。彼らは、この店の店主がどれほど気まぐれなのかを、身をもって知っているのだ。


客がいなくなった店内は、先程までの喧騒が嘘のように静まり返った。弥生は大きなため息をつき、忍は肩を落としている。


「お嬢様、本当に…もう少し考えて行動していただきたいのですが…」


弥生は疲れ切った声で雪乃に訴えた。


「だって、仕方ないじゃない。お腹が空いたんだもの。」


雪乃は悪びれる様子もなく、当然のように答えた。


「それより、何か美味しいものを作りましょうよ。確か、ジパングでよく作っていた、ナポリタンという料理があったわね。」


雪乃はそう言うと、スタスタと厨房へ向かった。弥生と忍は顔を見合わせ、またため息をついた。


厨房に入った雪乃は、戸棚からパスタを取り出し、冷蔵庫から玉ねぎやピーマン、ソーセージなどを取り出した。手際こそぎこちないものの、楽しそうに調理を始める。


「母上がよく作ってくれたのよね、ナポリタン。懐かしいわ…」


雪乃は呟きながら、トマトケチャップをたっぷりと使ってソースを作る。その甘い香りが厨房に広がり、弥生と忍の食欲を刺激する。


「そういえば、昔は喫茶店でもナポリタンって定番メニューだったわよね…」


雪乃はふと思い出したように呟いた。その言葉に、弥生が答える。


「そうですね。他にも、ミートソースパスタやサンドイッチなどもよく見かけました。軽食として、お客様に喜ばれていたようです。」


弥生の言葉を聞いた雪乃は、何かを閃いたように目を輝かせた。その表情は、子供が新しいおもちゃを見つけた時のように、無邪気で輝いていた。


「そうよ!ランチ!お昼の時間だけ、食事を提供するのはどうかしら?そうすれば、お腹が空いたから閉店、なんてこともなくなるかもしれないわ!」


雪乃の言葉に、弥生と忍は再び顔を見合わせた。また始まった、と内心で思いながらも、二人の心には、微かな期待が芽生えていた。




雪乃が「ランチ!」と宣言した時、弥生と忍は複雑な表情を浮かべた。雪乃の突飛な発想には慣れているものの、今回はいつも以上に不安を感じていた。


「ランチ、ですか…」


弥生は慎重に言葉を選びながら尋ねた。雪乃の真意を測りかねていた。


「そうよ、ランチ。お昼の時間だけ、食事を提供するの。そうすれば、お腹が空いたからって途中で店を閉める必要もなくなるじゃない?」


雪乃は目を輝かせながら説明した。その表情は、新しい遊びを思いついた子供のようだ。


「確かに、それは理にかなっていますね」


忍が冷静に分析した。弥生も頷いた。ランチ営業は店の収入安定に繋がり、雪乃の気まぐれによる突然の閉店を防ぐ効果も期待できる。


「メニューはどうしましょうか?」


弥生の問いに、雪乃は少し考えて答えた。


「そうね…ここは喫茶店だから、軽食が良いわね。昔、母上がよく作ってくれた、ミートソースパスタと、サンドイッチが良いわ。簡単で美味しいし。」


「サンドイッチ、ですか…」


弥生は思案顔になった。サンドイッチにも様々な種類がある。雪乃の好みは少し変わっているかもしれない。


雪乃は弥生の様子を見て、にやりと笑った。


「あら、心配しているの?大丈夫よ。私が考えているのは、クラブサンドよ。具沢山で、見た目も華やかで、きっとお客様も喜ぶわ。」


「クラブサンド、ですか。承知いたしました。」


弥生は頷いた。クラブサンドは喫茶店の定番メニューであり、見た目も華やかだ。


「よし、決まりね!ランチメニューは、ミートソースパスタとクラブサンド!これを日替わりで出しましょう!シンプルで良いわ!」


雪乃は満足そうに言った。新しいことに期待を膨らませているようだ。


「営業時間はどうしましょうか?」


忍が尋ねた。雪乃は少し考えてから、突拍子もないことを言い出した。


「そうね…毎日同じ時間に来られるのも、なんだか窮屈だわ。そうね…これからは、営業時間は三時間にしましょう!」


「三時間ですか!?」


弥生は思わず声を上げた。あまりにも短い。通常の喫茶店であれば、午前中から夕方まで営業するのが一般的だ。


「お嬢様、それはあまりにも短いのでは…お客様が困惑されるかと…」


弥生が反論したが、雪乃は全く聞く耳を持たない。


「だって、長時間働くのは疲れるもの。それに、他のこともしたいし。それに、ランチタイムは一時間だから、三時間もあれば十分でしょ?」


雪乃は涼しい顔で言った。ここで重要なのは、雪乃は「ランチタイムは一時間」という事実は認識しているものの、「営業時間=ランチタイムではない」という基本的な概念が欠落していることだ。彼女の中では、ランチタイムを含めた三時間で全てが完結している、という認識なのだ。


弥生と忍は顔を見合わせた。この会話で、今後の大混乱を予感せざるを得なかった。


「では、具体的には何時から何時まで営業するのですか?」


忍が冷静に尋ねた。雪乃は少し考えてから、気まぐれに答えた。


「そうね…十二時から十五時、というのはどうかしら?ちょうどお昼時を挟んでいるし。」


「十二時から十五時…ランチタイムは十二時から十三時…」


弥生は頭の中で計算した。ランチタイムは営業時間内に含まれている。しかし、雪乃の「疲れたら一時間で閉店」という言葉が頭をよぎった。


「お嬢様、もし疲れた場合、閉店されるのは何時になるのでしょうか?」


弥生の問いに、雪乃はあっさりと答えた。


「あら、疲れたらもちろん一時間で閉店よ。だって、疲れているのに働くなんて、私には無理だもの。」


弥生と忍は再び顔を見合わせた。これは、大変なことになる、と二人は確信した。営業時間三時間、うちランチタイム一時間。しかし、疲れたら一時間で閉店。この矛盾だらけのルールは、客だけでなく、弥生と忍をも大いに混乱させることになるだろう。


翌日から、この新たなルールが適用されることになった。店の入り口には、手書きで書かれた営業時間のお知らせが貼り出された。「営業時間:12時~15時(ランチタイム:12時~13時)※ただし、店主の都合により、営業時間が変更になる場合がございます。」と、小さく注意書きが添えられている。この注意書きが、今後の大混乱を象徴していることを、弥生と忍は深く感じていた。雪乃の気まぐれが、どのような騒動を巻き起こすのか、二人は不安と、ほんの少しの諦めを抱えながら、その日を迎えることになった。





翌日、喫茶「雪の庭」の前に、様々な人々が集まっていた。商人風の男、旅の途中の冒険者らしき者、近所の住人と思われる老夫婦、など、その身なりは様々だった。彼らは皆、新しい営業時間のお知らせに目を凝らしていた。


「営業時間:12時~15時(ランチタイム:12時~13時)※ただし、店主の都合により、営業時間が変更になる場合がございます。」


小さな文字で書かれた注意書きが、彼らの不安を掻き立てる。


「これ、どういう意味だ?」


革鎧を身に着けた冒険者風の男が、隣にいた商人風の男に尋ねた。


「さあ…噂では、この店の主は気まぐれで有名らしい。早く閉まったり、開かなかったりするそうだ。」


商人風の男は肩をすくめた。彼は近隣の街にも商売で出入りしており、この店の噂を耳にしていた。


正午を過ぎ、店の扉が開いた。弥生と忍がいつものように客を迎え入れる。しかし、今日はいつもと様子が違った。客たちはメニューを見るよりも先に、営業時間のことを尋ねてきた。


「今日は何時まで開いているんだ?」


「ランチは確実に食べられるのか?」


弥生は申し訳なさそうに答えた。


「本日は、今のところ十五時まで営業する予定です。ランチタイムは十三時までとなっております。」


客たちは半信半疑の表情を浮かべながらも、席に着いた。初めてランチを食べに来た者もいれば、噂を確かめに来ただけの者もいる。中には、魔法使いのような恰好をした老人もいた。


ランチタイムが始まり、店内は賑わいを見せた。雪乃は厨房で慣れない手つきながらも、一生懸命料理を作っている。弥生と忍は忙しく店内を駆け回り、客の注文を取り、料理を運んだ。


しかし、その平穏は長くは続かなかった。


午後一時を少し過ぎた頃、雪乃は厨房から出てきて、大きな声で言った。


「あー、疲れた!今日はもう終わり!」


店内にいた客たちは、一斉に動きを止めた。時計を確認する者、呆然と雪乃を見つめる者、様々な反応が見られた。魔法使いの老人は、持っていた杖を落としそうになった。


「お嬢様、まだ営業時間内ですよ!それに、ランチタイムが終わったばかりで、これから食事をしようというお客様もいらっしゃいます!」


弥生は慌てて雪乃を制止しようとした。しかし、雪乃は全く聞く耳を持たない。


「だって、疲れたんだもの!それに、もうお腹もいっぱいだし。今日はこれで閉店!」


雪乃はそう言うと、奥の部屋に引っ込んでしまった。後に残された弥生と忍は、客たちに深々と頭を下げるしかなかった。


「申し訳ございません!本日は店主の都合により、これにて閉店とさせていただきます!」


客たちは口々に不満を漏らしながら、店を後にした。特に、ランチ目当てに来た者たちは、怒りを隠せない様子だった。冒険者風の男は、剣の柄を握りしめていた。


翌日、店の前には昨日よりも多くの客が集まっていた。昨日の騒動が口コミで広まったため、今日は何時に店が開くのか、何時に閉まるのか、確かめに来たのだ。中には、物見高い野次馬も混じっていた。


しかし、今日はさらに予想外の事態が起こった。


正午になっても、店の扉が開かない。客たちはざわつき始めた。時計を何度も確認する者、携帯電話…ではなく、懐中時計を取り出して時間を確認する者、皆落ち着かない様子だ。


午後一時を過ぎても、店の扉は閉まったままだった。客たちの間には、不満の声が広がり始めた。


「一体どうなってるんだ?」


「今日は開かないのか?」


午後二時を過ぎた頃、ようやく店の扉が開いた。姿を現したのは、弥生と忍だった。


「申し訳ございません!本日は店主の都合により、開店時間が遅れております!」


弥生は深々と頭を下げて謝罪した。


「店主の都合って、一体何なんだ?」


鎧を身に着けた屈強な戦士が怒鳴った。


「昨日は途中で閉めるし、今日は開かないし、一体いつ行けばランチを食べられるんだ!?」


弥生は何も言い返すことができなかった。彼女自身も、雪乃の気まぐれに振り回されているのだ。


その後も、雪乃の気まぐれによる混乱は続いた。ある日は十二時開店、ある日は十四時開店、またある日は開店しない、という始末。客は「一体いつ行けばランチを食べられるんだ!?」と完全に困惑し、店は口コミで「気まぐれすぎる店」として有名になっていった。特に、遠方から噂を聞きつけてやってきた客は、落胆の色を隠せない。


ある日、旅の吟遊詩人が、竪琴を抱えながら弥生に尋ねてきた。


「この店は、歌にも詠われるほどの変わり者だと聞きましたが…本当ですか?」


弥生は苦笑しながら、雪乃の気まぐれについて説明した。吟遊詩人は興味深そうに耳を傾け、時折竪琴を爪弾いた。


「なるほど…これは面白い。歌の題材になりそうだ。」


吟遊詩人はそう言うと、店を後にした。


またある日、店の前を通りかかった老夫婦が、入り口に貼られた営業時間のお知らせを見て、首を傾げていた。


「おや、今日は開いているのかしら?」


「さあ…書いてある時間通りには開いていないみたいだよ」


老夫婦は顔を見合わせ、ため息をついた。


雪乃の気まぐれは、客だけでなく、弥生と忍の心も疲弊させていた。毎日、いつ店を開けるのか、いつ閉めるのか、客に何を説明すればいいのか、常に不安を抱えながら過ごさなければならなかった。


それでも、弥生と忍はなんとか店を切り盛りしていこうと努力していた。雪乃の気まぐれに振り回されながらも、彼女を見捨てることはできなかった。それは、彼女たちが雪乃のことを大切に思っているからであり、この喫茶店を、雪乃との大切な場所を守りたいという思いがあるからだった。


この混乱がいつまで続くのか、そして、この混乱がどのような結末を迎えるのか、まだ誰も知る由もなかった。ただ、この気まぐれな店主と、それに振り回される人々の日々は、まだまだ続いていくことだけは確かだった。






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営業再開とお客様対応


午後1時。雪乃はやる気なさそうにソファから立ち上がり、弥生に声をかけた。

「さぁ、営業始めるわよ。今日は2時までね。それ以上は無理だから。」


弥生は小さくため息をつきながら、静かに答える。

「お嬢様、それなら最初から1時間営業と告知しておくべきではありませんか?」


「いいのよ。お客様にはその場の気分を楽しんでもらうのが『雪の庭』のルールなんだから。」

雪乃は堂々とした口調で言いながら、忍に「OPEN」の看板を出すよう指示する。


すると早速、常連客が店内に入ってきた。

「やっと開いたな! 今日はランチが食べられると思って来たんだけど……。」

常連のレオンがそう言いながらカウンターに座る。


雪乃はすかさず答えた。

「ランチは12時から1時までよ! もう1時過ぎてるから、今日はスイーツと紅茶だけ!」


レオンは苦笑しながら肩をすくめた。

「ま、仕方ないか。それじゃチョコレートパフェを頼むよ。」


弥生が小声で雪乃に耳打ちする。

「お嬢様、1時からの営業でランチを求められるのは当然ではありませんか?」


「細かいことは気にしないの! 大事なのは私が疲れないことよ!」

雪乃はそう言い切り、カウンターの奥で紅茶の準備を始める。



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特別なスイーツの提供


午後1時半を過ぎた頃、雪乃が突然思いついたように言い出す。

「そうだわ! 今日限定のスイーツを出しましょう!」


弥生は驚いた表情で問い返す。

「限定スイーツですか? それは何を作るおつもりですか?」


「プリンアラモードよ! お客様にもご褒美をあげる日があってもいいでしょ?」

雪乃は意気揚々と厨房に入り、フルーツやホイップクリームを取り出し始める。


忍が小声で弥生に話しかける。

「お嬢様、限定スイーツを作ると言っても、あまり準備していないようですが……。」


「いつものことですね。きっとお客様の反応を見て満足するだけでしょう。」

弥生は微笑みながら答えた。



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お客様の反応


完成したプリンアラモードを提供すると、お客様たちは目を輝かせながら写真を撮り始めた。

「これ、すごく可愛い! 写真映えする!」

「プリンもフルーツも美味しいね!」


雪乃はその反応を見て満足げに微笑み、そっと弥生に囁いた。

「ほらね、私のセンスは完璧でしょ?」


弥生は微笑みながら返す。

「お客様が満足されているなら何よりです。ただし、次回も期待されますよ?」


「次回のことなんて、その時に考えればいいのよ!」

雪乃は軽い口調で答え、再び紅茶を飲み始めた。



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営業終了後の雪乃の提案


午後2時になると、最後のお客様が帰り、店内が静けさを取り戻す。

雪乃は椅子に座り込み、疲れた表情を浮かべながら呟いた。

「はぁ……今日も働きすぎたわ。」


忍が冷静に言う。

「お嬢様、それで働きすぎというのはさすがに甘えすぎではありませんか?」


弥生も苦笑しながら言葉を続ける。

「ですが、お客様は満足されていましたし、今日は成功だったと言えるのではないでしょうか。」


雪乃はその言葉を聞き、少しだけ考えた後、突然笑顔を見せた。

「そうね! やっぱり私、センスのある店主よね。」


そして、立ち上がってこう提案する。

「決めたわ! 次回から営業は週に2回だけにしましょう!」


弥生と忍はその発言に驚き、同時に声を上げる。

「お嬢様、それはさすがに営業日が少なすぎではありませんか?」


しかし、雪乃は全く気にする様子もなく、最後にこう言った。

「大丈夫よ! お客様は私の自由なスタイルを楽しんでくれるんだから!」



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締めの一言


こうして、「雪の庭」の自由奔放な営業スタイルはまた一つ進化を遂げた――。

果たして、雪乃の提案する新たな営業方針はどうなるのか? 次回に続く。


午後の穏やかな時間、店内はひと息ついたように静けさが漂っていた。その時、初めて見るお客様がドアを開けて入ってきた。若い男性で、興味深そうに店内を見回しながらカウンター席に腰を下ろす。


「いらっしゃいませ。」雪乃が紅茶を注ぎながら微笑みかけると、男性は少し不思議そうな顔をして尋ねた。

「どうしてこの店は、3時間しか営業しないのですか?」


その問いに、弥生は「また来た」と思いながらも、雪乃の反応を見守る。雪乃は一瞬考え込んだが、すぐに優雅に微笑みながら答えた。

「実は、私は体が弱くて、長時間の労働がどうしても無理なんです。」


「そうなんですか?」男性は感心したような声を出したが、すぐに続けてこう言った。

「しかし、店長はあまり働いていないように見えますが……?」


雪乃は少し顔を引きつらせながらも、笑顔を崩さずに答える。

「あの二人――弥生と忍が私の体を気遣ってくれているのです。おかげで、私は自分のペースでやらせてもらっています。」


その言葉を聞いた弥生は心の中でぼやく。

(そんな設定、ありましたわね。でも、常連客の皆さんは誰も信じていないのよね。)



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3時間営業の真の理由(?)


男性はさらに興味を引かれたように続けて尋ねる。

「ですが、3時間営業には他にも理由があるのでは?」


雪乃は一瞬目を見開いた後、「それだ!」と言わんばかりの笑顔を浮かべた。

「ええ、実は他にも大切な理由がありますの。」


「ほう、それは?」


雪乃は紅茶を一口飲み、優雅にこう続けた。

「私どもの故郷の国、ジパングの太古の時代――縄文と言われる頃、人々は3時間から4時間の労働が普通だったと伝えられています。」


男性は目を輝かせながら「ほう、それは初耳です」と興味津々に聞き入る。雪乃はさらに胸を張ってこう言った。

「私どもは、いにしえの伝統を継承し、その文化を守るべく、3時間営業を実践しているのです。」



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弥生と忍の反応


その堂々たる説明を聞いて、弥生と忍は呆れるどころか、逆に感心していた。

弥生は心の中で「ものすごいこじつけですわ……でも、よくそんな話を思いつくものですね」とつぶやき、忍も小声で弥生に話しかける。

「確かに、あそこまで堂々と言い切られると、逆に感心しますね。」


男性は雪乃の話に満足した様子で頷くと、「なるほど。伝統を大切にされているのですね」と感心しながら帰っていった。



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締めの一言


男性が去った後、弥生は雪乃に小声で言った。

「お嬢様、本当に3時間労働が縄文時代の伝統だなんて、よくそんなことを思いつきましたね。」


雪乃は笑顔を浮かべながら、優雅に紅茶を飲んで答える。

「いいのよ。信じるか信じないかはお客様次第。私たちはただ、少しでも魅力的な物語を提供しているだけなんだから。」


弥生と忍は顔を見合わせ、苦笑を浮かべながら片付けを始めるのだった――。



第6話予告:「お忍び王子様と王子様(お子様)ランチ」


ある午後、1時から営業を始めた「雪の庭」に、一人の少年が現れる。彼はこの国の第二王子、アレクシス。まだ幼いながらも、気品あふれる立ち居振る舞いと堂々とした態度でこう言い放つ。


「この店のランチとやらを所望する。」


しかし、雪乃は冷静に答える。

「申し訳ありません。ランチは1時までの提供でございます。」


少年王子は一瞬眉をひそめたが、すぐに頷いてこう告げる。

「なら仕方ない。明日また出直す。」


――明日も1時から営業予定。これ以上毎日来られるのは避けたい雪乃は、内心ため息をつきながらも、とっさにこう提案した。

「それには及びません。本日のみの特別ランチをご用意いたします。」


そして、彼女が咄嗟に思いついたのは、奇抜な発想の「王子様ランチ」。子ども向けの“お子様ランチ”をベースに、豪華で楽しい要素を盛り込んだプレートだ。


突然登場した“王子様ランチ”を前に、少年王子はそのユニークな料理に目を輝かせる。だが、その背後には雪乃の「明日も来られると困る」という思惑が隠されていた……。


次回、「お忍び王子様と王子様(お子様)ランチ」。

自由奔放な雪乃の発想が、王子の心を動かし、意外な展開を引き起こします――。


















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