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第12話 店長VS第一王子

 雪の庭に漂ういつもの穏やかな空気は、すっかり消え失せていた。

その原因は明白――第一王子とスタードールの店長アルベルトの激しい討論だった。


カウンターに座る雪乃は、紅茶を飲みながらその様子をじっと見守っていたが、その表情には明らかに苛立ちの色が見え隠れしていた。


眉間にシワが寄り、こめかみがピクピクと動いている。

それでも彼女は何とか冷静を保とうとしていた。



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討論の始まり


「店長としての誇りを持つべきではないか!」

第一王子の厳しい声が店内に響く。

「雪の庭の店長に頼るような態度は、自立した店の在り方とは言えない!」


アルベルトは冷静さを保ちながら反論した。

「提携はお互いの利益に繋がるものであり、私はその利点を最大限活用しているだけだ。それの何が悪い?」


第一王子はさらに声を荒げた。

「それではまるで、他店に依存しているだけではないか!貴殿の店に足りないのは、自力で顧客を引き付ける工夫だ!」



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静まり返る店内


店内はその二人の激しいやり取りで、完全にピリピリとした緊張感に包まれていた。

常連客たちは言葉を失い、カップを手にしたまま動けずにいる。


セリーヌが小声で呟いた。

「こんな雰囲気、この店では初めてかも……。」


クラリスが頷きながら、さらに小さな声で続ける。

「この空気、他のお客様にも迷惑ですよね。」


忍は腕を組みながらカウンターの雪乃に視線を向けた。

「雪乃お嬢様、そろそろ何とかしてください。」



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我慢する雪乃


しかし、肝心の雪乃は紅茶を飲み干してから、再びカウンターにカップを置くと、静かに二人の様子を見守るだけだった。

その表情は一見無関心そうにも見えるが、よく見ると眉間には深いシワが刻まれている。


弥生が忍に耳打ちした。

「お嬢様、我慢してるみたいですけど……あの眉間のシワ、大丈夫ですか?」


忍が小声で答える。

「いや、明らかに限界が近いですね……。」



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討論はエスカレート


「では、あなたの店は本当に提携に値する店なのか?」

第一王子の厳しい言葉に、アルベルトは声を少し荒げた。

「提携に値するかどうかは、私ではなく雪乃店長が決めたことだ!」


その言葉に、王子はさらに反論する。

「その姿勢が問題だと言っているのだ!自分の店を誇りに思うなら、他店に頼らずに――」



---


爆発寸前の雪乃


そのやり取りが続く中、雪乃はカウンターで手を組みながらじっと二人を見つめていたが、次第にそのこめかみの動きが激しくなる。


セリーヌが恐る恐る弥生に言った。

「お嬢様、今にも爆発しそうじゃないですか?」


弥生がため息をつきながら答える。

「そうですね。でも、誰かが止めないとこの討論は終わらないですし……。」


クラリスも心配そうに付け加える。

「でも、お嬢様が何を言うのか、少し怖いです……。」


店内がさらにピリつく中、雪乃がゆっくりと椅子から立ち上がった――。


雪乃の堪忍袋が爆発



---


店内は、いつもの穏やかな雰囲気とはほど遠い重苦しさに包まれていた。

第一王子とアルベルトの討論は続き、その熱量が店内の空気をさらに押し潰しているようだった。


カウンターに座る雪乃は、じっと二人を見つめていた。

彼女の眉間には深いシワが刻まれ、こめかみはピクピクと動いている。

いつもなら気だるげに紅茶を楽しむ姿しか見せない雪乃が、このような表情を見せることは極めて珍しい。



---


爆発寸前の雪乃


「貴殿のような態度では、他店の信用を失うだけだ!」

第一王子の強い非難の声が店内に響く。


アルベルトも負けじと声を張り上げた。

「信用を失うだと?私の店は十分に繁盛している!提携による恩恵を最大限に活用するのが何故悪い?」


そのやり取りに、常連客たちは固唾を飲んで見守るしかなかった。

一方で、セリーヌが弥生に小声で囁く。

「お嬢様、今にも爆発しそうじゃないですか?」


弥生も視線を雪乃に向けながら、深いため息をついた。

「確かに……あの眉間のシワは限界のサインですよね。」


その間にも二人の討論はヒートアップしていく。



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ついに堪忍袋の緒が切れる


「私に何か問題があると言うのなら、具体的に言ってみたまえ!」

アルベルトの声がさらに大きくなる。


その瞬間、雪乃は静かにカウンターに置いた紅茶のカップを持ち上げ、一気に飲み干した。

そして、テーブルを軽く叩きながら立ち上がると、店内全体を睨み渡すように見つめた。


「だーっ!もうっ!」


突然の大声に店内全員が驚き、一斉に雪乃の方を振り返る。

第一王子もアルベルトもその場で固まったまま、彼女の次の言葉を待つしかなかった。



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雪乃の宣言


雪乃はゆっくりと深呼吸し、声を張り上げた。

「ここは、ゆったりとした気分を楽しむための空間です!討論の場ではありません!」


その一言に、店員たちは驚きつつも思わずこくりと喉を鳴らした。

常連客たちも緊張しながら雪乃の次の言葉を待つ。


「お二人とも、お帰りください!今日はもう閉店です!」


その言葉は店内の全員を一瞬静まり返らせた。



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予想外の展開


第一王子はしばらく雪乃を見つめた後、小さく頷いた。

「……閉店、というのは本気で?」


雪乃は腕を組み、堂々とした態度で言い放った。

「もちろん。本日これ以上の営業はありません。」


アルベルトも肩をすくめながら苦笑を浮かべる。

「では、私たちは追い出される、ということですか?」


雪乃は冷たく頷きながら応じた。

「そうです。ここは討論の場ではありませんから。」


その毅然とした態度に、店内の緊張は徐々に解け始めた。

王子とアルベルトは互いに顔を見合わせ、やがて無言のうちに理解を示すように頷き合った。



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静かに帰る二人


第一王子は静かに席を立ち、雪乃に向かって頭を下げた。

「分かった。今日はここで終わりにしよう。迷惑をかけてしまったようだな。」


アルベルトも続けて頭を下げた。

「私も謝罪しよう。つい熱が入りすぎてしまった。申し訳ない。」


二人が店を出て行くと、店内はようやく静寂を取り戻した。



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店員たちの反応


セリーヌが雪乃に近づき、小声で話しかける。

「お嬢様……こんなに声を荒げるなんて、本当に珍しいですね。」


忍も少し驚いた様子で続けた。

「確かに。お嬢様が怒ると、こうなるんですね……。」


雪乃は再びカウンターに腰を下ろし、軽くため息をついた。

「本当はこんなことしたくなかったけど……もう、今日は何もしたくないわ。」


弥生が紅茶を差し出しながら、苦笑を浮かべる。

「お疲れさまでした、お嬢様。」


雪乃は一口紅茶を飲み、静かに呟いた。

「明日は休業にするから。絶対に誰にも邪魔させないわ。」


店員たちは心の中で「お嬢様の心を癒すには、少し時間が必要だな」と思いつつ、静かに片付けを始めた――。




店が静かになり、店員たちが呆れたように雪乃を見る。


弥生:「お嬢様……それを最初に言ってくださればよかったのに。」


忍:「ですが、あのお二人を追い返すとは……さすがです。」



雪乃は軽く肩をすくめて紅茶を新たに淹れながら呟く。


雪乃:「だって、私が一番平和を楽しみたいんだもの。お客様にもそれを守ってもらわないとね。」



店員たちは呆れながらも、雪乃の自由奔放な性格に納得して仕事を終える。


 雪乃が自室に引きこもってから数時間が経った。

店内の片付けを終えた店員たちは、階段を見上げながらため息をつく。


弥生が腕を組み、困った顔で呟いた。

「完璧にへそを曲げてしまったわね。」


セリーヌが慎重に階段を一歩上がりながら声をかける。

「お嬢様、何かお持ちしましょうか?紅茶でも――」


しかし、扉の向こうから返ってきたのは、短い返事だけだった。

「いらない。」


クラリスは眉をひそめながら弥生に囁く。

「お嬢様、ここまで頑なになるのは珍しいですね。どうしましょう?」



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状況を見守る忍


一方、忍は冷静にティーカップを片付けながら言った。

「お嬢様は自分のペースを大事にする方です。こういう時は無理に動かそうとしない方がいいでしょう。」


「でも、明日は休業日なんですよね?本当に何もしないなんてことあるんでしょうか?」

セリーヌが不安そうに尋ねると、弥生が即答する。

「あり得ないわね。」


「ええ、きっと夜中にでも新作スイーツの準備を始めるでしょう。」

忍は微笑みながら紅茶を新たに淹れ、店内のテーブルに静かに置いた。



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静かな店内


店内はすっかり静まり返り、外の夜の闇が窓を覆い始めていた。

弥生はカウンターに座り、疲れた表情で呟く。

「それにしても、今日の出来事はちょっと異常だったわね。第一王子とアルベルト店長が同時に火花を散らすなんて。」


セリーヌがコーヒーポットを拭きながら同意する。

「確かに……お嬢様が声を荒げるなんて、初めて見ましたもの。」


クラリスは少し笑いながら付け加える。

「でも、お嬢様はいつも紅茶とスイーツで平和な雰囲気を大切にしているから、今回のことがよほど気に入らなかったんでしょうね。」



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雪乃の部屋の中で


一方、雪乃は自室でベッドに横たわりながら、膝の上に広げたメモ帳を見つめていた。

「ふん……店内の雰囲気を乱すなんて、許せないわ。」


だが、しばらく考え込んだ後、彼女は立ち上がり、冷蔵ストレージの前に立つ。

「でも、明日のスイーツの準備をしないのもなんだか気持ち悪いわね。」


冷蔵ストレージを開け、材料を取り出しながら小さく呟く。

「みんなの疲れた顔を見ていたら……何か甘いものを作りたくなるじゃない。」


雪乃は材料を手際よく混ぜ合わせ、新作スイーツの試作を始める。



---



店員たちは深夜まで雪乃の動きを待ち構えていたが、結局彼女が階段を降りてくることはなかった。

弥生はため息をつきながら言った。

「お嬢様、完全にへそを曲げたかと思えば、どうせ部屋で何か作ってるに決まってるわ。」


忍が微笑みながら答える。

「まあ、明日にはまた新しいスイーツができているでしょう。それでお客様も満足するはずです。」


その夜、雪乃の部屋の窓から漏れる微かな明かりだけが、「雪の庭」の静かな夜を照らしていた――。



雪乃の誇りと怠け者の境界線


「今日は、何もしないから。」


その宣言に、店員たちは顔を見合わせた。


弥生が首をかしげて問いかける。 「お嬢様、本当に何もしないんですか?」


雪乃は大きく頷き、椅子に腰掛けて紅茶を一口。 「ええ、今日はただのんびり過ごすだけよ。」


――が、そんな宣言も束の間。

数分後、雪乃はふいに立ち上がると、ひょいと厨房へ向かう。


「……やっぱり動き出した!」


弥生が慌てて追いかける。


「お嬢様、さっき“何もしない”って――」


「何もしてないわよ。ただお腹が空いただけ。」


そう言って雪乃は冷蔵ストレージからバナナを取り出す。素早く一口大に切り分け、きなこをふりかけて皿に盛ると、ひょいと一つ摘んで口に運ぶ。


「はい、完成。簡単スイーツ、『きなこバナナ』。」


そんな雪乃の姿に、セリーヌとクラリスが興味津々で近づいた。


「お嬢様、それ……味見しても?」

「もちろん。でも、期待するほどの味じゃないわよ?」


セリーヌとクラリスが一口ずつ食べて目を丸くする。


「わ、美味しい!きなこの香ばしさとバナナの甘さ、絶妙です!」

「お客様にも喜ばれるかもしれませんね!」


セリーヌが目を輝かせて提案する。 「シンプルさが逆に新鮮ですし、軽食メニューとして出してみませんか?」


雪乃は小さく首を振った。


「こんなバナナにきなこをふっただけのもので、お金を取るつもりはないわ。」


弥生が少し食い下がる。 「でも、すぐ出せるし、混雑時には便利だと思いますよ?」


雪乃は考え込むふりをしたが、すぐに紅茶へ意識を戻す。 「やりたいならやれば? でも、これを店で出すなら、もう一工夫しないとね。」


クラリスが面白そうに食いつく。 「たとえば、どんな?」


雪乃は微笑む。 「たとえばバナナを焼いて、キャラメルソースをかけるとか――あ、それじゃ“きなこバナナ”じゃなくなるわね。」


クラリスが吹き出した。 「お嬢様、そういうところ好きです。」


雪乃は静かに紅茶を口に含み、窓の外をぼんやりと眺めた。


「今日は本当に何もしない……つもりよ。」


だが、店員たちは内心で“また何か始める気だな”と確信していた。


その日、「きなこバナナ」は店員たちのまかないスイーツとして密かに人気を集めたが、営業は静かに、穏やかに過ぎていった。


けれど――雪乃の気まぐれが、また新しい何かを生み出すのは、時間の問題だった。



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雪乃のこだわり


夕方、厨房でバナナをつまむ雪乃がぽつりと呟く。


「私が、こんな簡単なだけのスイーツを、お客様に出したいと思う?」


その一言に、厨房が静まり返る。


クラリスがそっと口を開く。 「でも、お嬢様の作るものは、どれも美味しいですし……お客様もきっと喜ぶかと。」


雪乃は微笑みながら、きなこバナナを皿に戻し、紅茶を一口。


「美味しいだけで満足していたら、それこそ本物の怠け者よ。この『きなこバナナ』は自分のためのもの。お客様には、もっと心に残る特別な一皿を出したいの。」


セリーヌが感心して言う。 「やっぱり、お嬢様の基準は高いですね。」


弥生も肩をすくめて苦笑い。 「お嬢様が手をかけたスイーツ、やっぱり特別ですから。」


雪乃は満足そうにきなこバナナを食べ終え、新しく淹れた紅茶を片手にカウンターへ戻った。


「さて、これでお腹も落ち着いたし……今日はもう、本当に何もしないわよ。」


店員たちは、そんな彼女の背中を見送りながら心の中で呟いた。


――きっと明日も、新しい“雪乃のこだわり”が生まれるに違いない、と。





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雪乃は紅茶を飲み干し、ふと立ち上がった。そして、店員たちに向かって少しけだるげに告げる。


「明日、説明するけど、明後日のスイーツは、バナナのオムレットよ……とりあえずもう少し寝るわ。」


セリーヌとクラリスが目を見合わせる。


セリーヌが困惑しながら尋ねた。

「お嬢様、それって新作スイーツということですか?」


雪乃は半分眠そうな目をして軽く頷く。

「そうよ。でも、今日はもう疲れたから……説明は明日ね。」


弥生が少し呆れた表情で肩をすくめる。

「お嬢様、本当にマイペースですね。休業日くらいしっかり休んでください。」



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店員たちの反応


雪乃が自室に戻るために階段を上がり始めると、セリーヌが小声で呟く。

「バナナのオムレット……どんなスイーツなんでしょうね?」


クラリスが頷きながら続ける。

「お嬢様のことですから、また何か斬新なアレンジを加えるに違いありません。」


弥生はため息をつきつつも、微笑みを浮かべる。

「まあ、どうせ私たちが試作することになるんですけどね。でも、それがこの店のやり方ですし……。」



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静かな閉店後


店内はすっかり静まり返り、雪乃が去った後の厨房で、店員たちは翌日の準備を進める。


セリーヌがバナナのストックを確認しながら言う。

「バナナ、足りますよね?」


クラリスが計算を終え、少し安心した表情で答える。

「大丈夫です。ただ、オムレット用の生地をどうするかは明日お嬢様に確認ですね。」


弥生は冷蔵ストレージを閉めながら呟いた。

「それにしても、お嬢様が突然何か言い出すと、いつも振り回されますよね。」


セリーヌが笑いながら答える。

「でも、それが『雪の庭』らしさなんじゃないですか?」


クラリスも微笑んで同意した。

「そうですね。お嬢様の自由さが、この店の雰囲気を作っているんですから。」



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雪乃の自室からは、かすかな寝息が聞こえる。


しかし、その枕元にはスイーツのアイデアが書き込まれたメモ帳が置かれていた。

彼女の気まぐれと情熱が、また新たなスイーツを生み出す準備を進めている。


「バナナのオムレット……明後日にはきっとお客様に喜んでもらえるわね。」


そう呟きながら、雪乃は穏やかな眠りについた――。







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