雪の庭に漂ういつもの穏やかな空気は、すっかり消え失せていた。
その原因は明白――第一王子とスタードールの店長アルベルトの激しい討論だった。
カウンターに座る雪乃は、紅茶を飲みながらその様子をじっと見守っていたが、その表情には明らかに苛立ちの色が見え隠れしていた。
眉間にシワが寄り、こめかみがピクピクと動いている。
それでも彼女は何とか冷静を保とうとしていた。
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討論の始まり
「店長としての誇りを持つべきではないか!」
第一王子の厳しい声が店内に響く。
「雪の庭の店長に頼るような態度は、自立した店の在り方とは言えない!」
アルベルトは冷静さを保ちながら反論した。
「提携はお互いの利益に繋がるものであり、私はその利点を最大限活用しているだけだ。それの何が悪い?」
第一王子はさらに声を荒げた。
「それではまるで、他店に依存しているだけではないか!貴殿の店に足りないのは、自力で顧客を引き付ける工夫だ!」
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静まり返る店内
店内はその二人の激しいやり取りで、完全にピリピリとした緊張感に包まれていた。
常連客たちは言葉を失い、カップを手にしたまま動けずにいる。
セリーヌが小声で呟いた。
「こんな雰囲気、この店では初めてかも……。」
クラリスが頷きながら、さらに小さな声で続ける。
「この空気、他のお客様にも迷惑ですよね。」
忍は腕を組みながらカウンターの雪乃に視線を向けた。
「雪乃お嬢様、そろそろ何とかしてください。」
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我慢する雪乃
しかし、肝心の雪乃は紅茶を飲み干してから、再びカウンターにカップを置くと、静かに二人の様子を見守るだけだった。
その表情は一見無関心そうにも見えるが、よく見ると眉間には深いシワが刻まれている。
弥生が忍に耳打ちした。
「お嬢様、我慢してるみたいですけど……あの眉間のシワ、大丈夫ですか?」
忍が小声で答える。
「いや、明らかに限界が近いですね……。」
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討論はエスカレート
「では、あなたの店は本当に提携に値する店なのか?」
第一王子の厳しい言葉に、アルベルトは声を少し荒げた。
「提携に値するかどうかは、私ではなく雪乃店長が決めたことだ!」
その言葉に、王子はさらに反論する。
「その姿勢が問題だと言っているのだ!自分の店を誇りに思うなら、他店に頼らずに――」
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爆発寸前の雪乃
そのやり取りが続く中、雪乃はカウンターで手を組みながらじっと二人を見つめていたが、次第にそのこめかみの動きが激しくなる。
セリーヌが恐る恐る弥生に言った。
「お嬢様、今にも爆発しそうじゃないですか?」
弥生がため息をつきながら答える。
「そうですね。でも、誰かが止めないとこの討論は終わらないですし……。」
クラリスも心配そうに付け加える。
「でも、お嬢様が何を言うのか、少し怖いです……。」
店内がさらにピリつく中、雪乃がゆっくりと椅子から立ち上がった――。
雪乃の堪忍袋が爆発
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店内は、いつもの穏やかな雰囲気とはほど遠い重苦しさに包まれていた。
第一王子とアルベルトの討論は続き、その熱量が店内の空気をさらに押し潰しているようだった。
カウンターに座る雪乃は、じっと二人を見つめていた。
彼女の眉間には深いシワが刻まれ、こめかみはピクピクと動いている。
いつもなら気だるげに紅茶を楽しむ姿しか見せない雪乃が、このような表情を見せることは極めて珍しい。
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爆発寸前の雪乃
「貴殿のような態度では、他店の信用を失うだけだ!」
第一王子の強い非難の声が店内に響く。
アルベルトも負けじと声を張り上げた。
「信用を失うだと?私の店は十分に繁盛している!提携による恩恵を最大限に活用するのが何故悪い?」
そのやり取りに、常連客たちは固唾を飲んで見守るしかなかった。
一方で、セリーヌが弥生に小声で囁く。
「お嬢様、今にも爆発しそうじゃないですか?」
弥生も視線を雪乃に向けながら、深いため息をついた。
「確かに……あの眉間のシワは限界のサインですよね。」
その間にも二人の討論はヒートアップしていく。
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ついに堪忍袋の緒が切れる
「私に何か問題があると言うのなら、具体的に言ってみたまえ!」
アルベルトの声がさらに大きくなる。
その瞬間、雪乃は静かにカウンターに置いた紅茶のカップを持ち上げ、一気に飲み干した。
そして、テーブルを軽く叩きながら立ち上がると、店内全体を睨み渡すように見つめた。
「だーっ!もうっ!」
突然の大声に店内全員が驚き、一斉に雪乃の方を振り返る。
第一王子もアルベルトもその場で固まったまま、彼女の次の言葉を待つしかなかった。
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雪乃の宣言
雪乃はゆっくりと深呼吸し、声を張り上げた。
「ここは、ゆったりとした気分を楽しむための空間です!討論の場ではありません!」
その一言に、店員たちは驚きつつも思わずこくりと喉を鳴らした。
常連客たちも緊張しながら雪乃の次の言葉を待つ。
「お二人とも、お帰りください!今日はもう閉店です!」
その言葉は店内の全員を一瞬静まり返らせた。
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予想外の展開
第一王子はしばらく雪乃を見つめた後、小さく頷いた。
「……閉店、というのは本気で?」
雪乃は腕を組み、堂々とした態度で言い放った。
「もちろん。本日これ以上の営業はありません。」
アルベルトも肩をすくめながら苦笑を浮かべる。
「では、私たちは追い出される、ということですか?」
雪乃は冷たく頷きながら応じた。
「そうです。ここは討論の場ではありませんから。」
その毅然とした態度に、店内の緊張は徐々に解け始めた。
王子とアルベルトは互いに顔を見合わせ、やがて無言のうちに理解を示すように頷き合った。
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静かに帰る二人
第一王子は静かに席を立ち、雪乃に向かって頭を下げた。
「分かった。今日はここで終わりにしよう。迷惑をかけてしまったようだな。」
アルベルトも続けて頭を下げた。
「私も謝罪しよう。つい熱が入りすぎてしまった。申し訳ない。」
二人が店を出て行くと、店内はようやく静寂を取り戻した。
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店員たちの反応
セリーヌが雪乃に近づき、小声で話しかける。
「お嬢様……こんなに声を荒げるなんて、本当に珍しいですね。」
忍も少し驚いた様子で続けた。
「確かに。お嬢様が怒ると、こうなるんですね……。」
雪乃は再びカウンターに腰を下ろし、軽くため息をついた。
「本当はこんなことしたくなかったけど……もう、今日は何もしたくないわ。」
弥生が紅茶を差し出しながら、苦笑を浮かべる。
「お疲れさまでした、お嬢様。」
雪乃は一口紅茶を飲み、静かに呟いた。
「明日は休業にするから。絶対に誰にも邪魔させないわ。」
店員たちは心の中で「お嬢様の心を癒すには、少し時間が必要だな」と思いつつ、静かに片付けを始めた――。
店が静かになり、店員たちが呆れたように雪乃を見る。
弥生:「お嬢様……それを最初に言ってくださればよかったのに。」
忍:「ですが、あのお二人を追い返すとは……さすがです。」
雪乃は軽く肩をすくめて紅茶を新たに淹れながら呟く。
雪乃:「だって、私が一番平和を楽しみたいんだもの。お客様にもそれを守ってもらわないとね。」
店員たちは呆れながらも、雪乃の自由奔放な性格に納得して仕事を終える。
雪乃が自室に引きこもってから数時間が経った。
店内の片付けを終えた店員たちは、階段を見上げながらため息をつく。
弥生が腕を組み、困った顔で呟いた。
「完璧にへそを曲げてしまったわね。」
セリーヌが慎重に階段を一歩上がりながら声をかける。
「お嬢様、何かお持ちしましょうか?紅茶でも――」
しかし、扉の向こうから返ってきたのは、短い返事だけだった。
「いらない。」
クラリスは眉をひそめながら弥生に囁く。
「お嬢様、ここまで頑なになるのは珍しいですね。どうしましょう?」
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状況を見守る忍
一方、忍は冷静にティーカップを片付けながら言った。
「お嬢様は自分のペースを大事にする方です。こういう時は無理に動かそうとしない方がいいでしょう。」
「でも、明日は休業日なんですよね?本当に何もしないなんてことあるんでしょうか?」
セリーヌが不安そうに尋ねると、弥生が即答する。
「あり得ないわね。」
「ええ、きっと夜中にでも新作スイーツの準備を始めるでしょう。」
忍は微笑みながら紅茶を新たに淹れ、店内のテーブルに静かに置いた。
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静かな店内
店内はすっかり静まり返り、外の夜の闇が窓を覆い始めていた。
弥生はカウンターに座り、疲れた表情で呟く。
「それにしても、今日の出来事はちょっと異常だったわね。第一王子とアルベルト店長が同時に火花を散らすなんて。」
セリーヌがコーヒーポットを拭きながら同意する。
「確かに……お嬢様が声を荒げるなんて、初めて見ましたもの。」
クラリスは少し笑いながら付け加える。
「でも、お嬢様はいつも紅茶とスイーツで平和な雰囲気を大切にしているから、今回のことがよほど気に入らなかったんでしょうね。」
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雪乃の部屋の中で
一方、雪乃は自室でベッドに横たわりながら、膝の上に広げたメモ帳を見つめていた。
「ふん……店内の雰囲気を乱すなんて、許せないわ。」
だが、しばらく考え込んだ後、彼女は立ち上がり、冷蔵ストレージの前に立つ。
「でも、明日のスイーツの準備をしないのもなんだか気持ち悪いわね。」
冷蔵ストレージを開け、材料を取り出しながら小さく呟く。
「みんなの疲れた顔を見ていたら……何か甘いものを作りたくなるじゃない。」
雪乃は材料を手際よく混ぜ合わせ、新作スイーツの試作を始める。
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店員たちは深夜まで雪乃の動きを待ち構えていたが、結局彼女が階段を降りてくることはなかった。
弥生はため息をつきながら言った。
「お嬢様、完全にへそを曲げたかと思えば、どうせ部屋で何か作ってるに決まってるわ。」
忍が微笑みながら答える。
「まあ、明日にはまた新しいスイーツができているでしょう。それでお客様も満足するはずです。」
その夜、雪乃の部屋の窓から漏れる微かな明かりだけが、「雪の庭」の静かな夜を照らしていた――。
雪乃の誇りと怠け者の境界線
「今日は、何もしないから。」
その宣言に、店員たちは顔を見合わせた。
弥生が首をかしげて問いかける。 「お嬢様、本当に何もしないんですか?」
雪乃は大きく頷き、椅子に腰掛けて紅茶を一口。 「ええ、今日はただのんびり過ごすだけよ。」
――が、そんな宣言も束の間。
数分後、雪乃はふいに立ち上がると、ひょいと厨房へ向かう。
「……やっぱり動き出した!」
弥生が慌てて追いかける。
「お嬢様、さっき“何もしない”って――」
「何もしてないわよ。ただお腹が空いただけ。」
そう言って雪乃は冷蔵ストレージからバナナを取り出す。素早く一口大に切り分け、きなこをふりかけて皿に盛ると、ひょいと一つ摘んで口に運ぶ。
「はい、完成。簡単スイーツ、『きなこバナナ』。」
そんな雪乃の姿に、セリーヌとクラリスが興味津々で近づいた。
「お嬢様、それ……味見しても?」
「もちろん。でも、期待するほどの味じゃないわよ?」
セリーヌとクラリスが一口ずつ食べて目を丸くする。
「わ、美味しい!きなこの香ばしさとバナナの甘さ、絶妙です!」
「お客様にも喜ばれるかもしれませんね!」
セリーヌが目を輝かせて提案する。 「シンプルさが逆に新鮮ですし、軽食メニューとして出してみませんか?」
雪乃は小さく首を振った。
「こんなバナナにきなこをふっただけのもので、お金を取るつもりはないわ。」
弥生が少し食い下がる。 「でも、すぐ出せるし、混雑時には便利だと思いますよ?」
雪乃は考え込むふりをしたが、すぐに紅茶へ意識を戻す。 「やりたいならやれば? でも、これを店で出すなら、もう一工夫しないとね。」
クラリスが面白そうに食いつく。 「たとえば、どんな?」
雪乃は微笑む。 「たとえばバナナを焼いて、キャラメルソースをかけるとか――あ、それじゃ“きなこバナナ”じゃなくなるわね。」
クラリスが吹き出した。 「お嬢様、そういうところ好きです。」
雪乃は静かに紅茶を口に含み、窓の外をぼんやりと眺めた。
「今日は本当に何もしない……つもりよ。」
だが、店員たちは内心で“また何か始める気だな”と確信していた。
その日、「きなこバナナ」は店員たちのまかないスイーツとして密かに人気を集めたが、営業は静かに、穏やかに過ぎていった。
けれど――雪乃の気まぐれが、また新しい何かを生み出すのは、時間の問題だった。
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雪乃のこだわり
夕方、厨房でバナナをつまむ雪乃がぽつりと呟く。
「私が、こんな簡単なだけのスイーツを、お客様に出したいと思う?」
その一言に、厨房が静まり返る。
クラリスがそっと口を開く。 「でも、お嬢様の作るものは、どれも美味しいですし……お客様もきっと喜ぶかと。」
雪乃は微笑みながら、きなこバナナを皿に戻し、紅茶を一口。
「美味しいだけで満足していたら、それこそ本物の怠け者よ。この『きなこバナナ』は自分のためのもの。お客様には、もっと心に残る特別な一皿を出したいの。」
セリーヌが感心して言う。 「やっぱり、お嬢様の基準は高いですね。」
弥生も肩をすくめて苦笑い。 「お嬢様が手をかけたスイーツ、やっぱり特別ですから。」
雪乃は満足そうにきなこバナナを食べ終え、新しく淹れた紅茶を片手にカウンターへ戻った。
「さて、これでお腹も落ち着いたし……今日はもう、本当に何もしないわよ。」
店員たちは、そんな彼女の背中を見送りながら心の中で呟いた。
――きっと明日も、新しい“雪乃のこだわり”が生まれるに違いない、と。
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雪乃は紅茶を飲み干し、ふと立ち上がった。そして、店員たちに向かって少しけだるげに告げる。
「明日、説明するけど、明後日のスイーツは、バナナのオムレットよ……とりあえずもう少し寝るわ。」
セリーヌとクラリスが目を見合わせる。
セリーヌが困惑しながら尋ねた。
「お嬢様、それって新作スイーツということですか?」
雪乃は半分眠そうな目をして軽く頷く。
「そうよ。でも、今日はもう疲れたから……説明は明日ね。」
弥生が少し呆れた表情で肩をすくめる。
「お嬢様、本当にマイペースですね。休業日くらいしっかり休んでください。」
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店員たちの反応
雪乃が自室に戻るために階段を上がり始めると、セリーヌが小声で呟く。
「バナナのオムレット……どんなスイーツなんでしょうね?」
クラリスが頷きながら続ける。
「お嬢様のことですから、また何か斬新なアレンジを加えるに違いありません。」
弥生はため息をつきつつも、微笑みを浮かべる。
「まあ、どうせ私たちが試作することになるんですけどね。でも、それがこの店のやり方ですし……。」
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静かな閉店後
店内はすっかり静まり返り、雪乃が去った後の厨房で、店員たちは翌日の準備を進める。
セリーヌがバナナのストックを確認しながら言う。
「バナナ、足りますよね?」
クラリスが計算を終え、少し安心した表情で答える。
「大丈夫です。ただ、オムレット用の生地をどうするかは明日お嬢様に確認ですね。」
弥生は冷蔵ストレージを閉めながら呟いた。
「それにしても、お嬢様が突然何か言い出すと、いつも振り回されますよね。」
セリーヌが笑いながら答える。
「でも、それが『雪の庭』らしさなんじゃないですか?」
クラリスも微笑んで同意した。
「そうですね。お嬢様の自由さが、この店の雰囲気を作っているんですから。」
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雪乃の自室からは、かすかな寝息が聞こえる。
しかし、その枕元にはスイーツのアイデアが書き込まれたメモ帳が置かれていた。
彼女の気まぐれと情熱が、また新たなスイーツを生み出す準備を進めている。
「バナナのオムレット……明後日にはきっとお客様に喜んでもらえるわね。」
そう呟きながら、雪乃は穏やかな眠りについた――。
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