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第13話:雪の庭 閉店の危機?

雪乃はカウンターの端に腰掛け、手元の小さな砂時計をじっと見つめていた。

砂が静かに落ちる音だけが店内に響き、緑茶をすする音すらかき消されそうな静けさだった。


「また、ひっくり返して……」

弥生がぼそっと呟きながら、雪乃の様子を遠目で伺う。

「……姫様がこんなにやる気をなくされるなんて……。」


忍が首を振りながら同意する。

「確かにあの討論はひどかったですけど、ここまで引きずるとは思いませんでしたね。」


雪乃は二人の会話など聞こえていないかのように、砂時計を再びひっくり返す。

そして、緑茶を一口飲んでぽつりと呟いた。

「もうお店を閉めて、親しい人にだけスイーツを作ろうかしら。ちょうど1クールで区切りもいいし」








困惑する店員たち


その言葉を聞いたクラリスとセリーヌが目を丸くして顔を見合わせる。

「お店を……閉める?」


クラリスが恐る恐る尋ねる。

「雪乃お嬢様、それはつまり、私たちはどうなるのでしょうか……?」


雪乃はぼんやりと砂時計を見つめたまま、気だるそうに答えた。

「そんなに私のスイーツが食べたいなら、個人的に作ってあげるわ。」


その言葉に、セリーヌが慌てて口を挟む。

「そういう問題ではありません!お店がなくなれば、私たちは護衛の任を解かれるかもしれません!」


雪乃は緑茶を飲み干し、砂時計を再びひっくり返しながら微笑む。

「そしたら、また新しい任務を見つければいいじゃない。」


クラリスが食い下がるように言った。

「ですが、私たちは『雪の庭』の護衛としてここに派遣されているのです!お店がなければ……。」


セリーヌも同調する。

「そうです!お嬢様のスイーツを楽しみにしているのはもちろんですが、お店の存続は私たちにとっても重要な問題なのです!」



---


雪乃の無関心


雪乃は二人の必死な様子にも気に留めず、砂時計をぼんやりと眺め続ける。

そして、呟くように言った。

「でもさ、騒がしいお客がいなければ、私の大切な空間も台無しにならないわよね……。」


忍が苛立ちを隠せず声を上げる。

「お嬢様!確かに先日の件は大変でしたが、それを理由に閉店を続けるのは……!」


雪乃は無表情のまま振り返り、忍を見つめた。

「だって、疲れちゃったんだもの。」


その言葉に、店員たちは一斉にため息をついた。

弥生が半ば呆れたように呟く。

「これではまるで、姫様が怠けたいだけみたいじゃないですか……。」



---


揺れる店員たちの不安


クラリスとセリーヌは、雪乃の態度に不安を募らせながら互いに小声で話し合う。

「お店がなくなれば、私たちはどうなるのでしょう?」

「護衛の任を解かれたら、今のように毎日スイーツを食べられなくなるかも……。」


その言葉に、二人は一瞬顔を青ざめさせた。

「それは……絶対に困ります!」


二人は揃って雪乃に向き直り、声を張り上げた。

「お嬢様!お店を閉めるなんて絶対に許しません!」


雪乃は少し驚いたように目を丸くしてから、小さくため息をついた。

「本当に私のスイーツが好きなのね……仕方ないわね。お店を閉めたら、個人的に作ってあげるから安心して。」


その言葉に、二人は頭を抱えた。

「そういうことではありません……。」



---


店内には再び静寂が訪れ、雪乃は砂時計をひっくり返す音だけが響く。

店員たちは、この状況をどう打開すればいいのか、頭を悩ませ続けるのだった――。



アルベルトと第一王子の謝罪


 閉店が続く「雪の庭」に、一人の男性が訪れた。

店の扉を軽くノックする音に、忍が対応に出る。


「申し訳ありません。本日は閉店しております。」

忍は淡々と告げるが、そこに立っていたのは「スタードール」の店長、アルベルトだった。


アルベルトは少し困った顔をしながら言葉を返す。

「それは分かっている。しかし、どうしても店長に謝罪したいのだ。」


忍は扉を少し閉じるようにして首を傾げた。

「店長……雪乃お嬢様は今、お会いする気分ではないと思います。」


アルベルトはため息をつきながら肩をすくめた。

「そりゃそうだろうな。原因の一端は私にもある。だが、それでも直接謝らないと気が済まないんだ。」



---


雪乃の拒絶


そのやり取りを奥で聞いていた雪乃は、紅茶を飲みながらぽつりと呟く。

「やだ。会わない。」


忍が戸惑いながら声をかける。

「お嬢様、本当にお会いしなくてもよろしいのですか?」


雪乃は砂時計をひっくり返しながら、そっけなく答えた。

「面倒だし、会ってもどうせ謝られるだけでしょ?それならいっそ、何もなかったことにしたほうが気楽だわ。」


その言葉に、忍は小さくため息をついた。

「かしこまりました。お伝えします。」


忍が扉の外でアルベルトに伝えると、彼は苦笑いを浮かべた。

「そうか……仕方ないな。また別の機会に来るとしよう。」


アルベルトは一礼してその場を後にした。



---


第一王子の訪問


アルベルトが去った数時間後、再び扉をノックする音が響いた。


忍が応対に出ると、そこには変装した第一王子が立っていた。

彼は帽子を深く被り、周囲を気にしながら小声で言った。

「謝罪をしたくて訪ねたのだが、店長はいるだろうか?」


忍はその言葉に少し驚きつつも、冷静に答える。

「申し訳ありません。お嬢様は現在、お会いすることを拒否されております。」


第一王子は一瞬眉をひそめたが、すぐに小さく頷き、静かに言った。

「そうか……会ってもらえないのは仕方がないな。正直、その可能性は考えていた。」


彼は懐から手紙と花束を取り出し、忍に手渡す。

「せめてこれをお渡しいただければと思う。」


忍はそれを受け取りながら、王子の気遣いに感心した。

「承知しました。確かにお嬢様にお渡しします。」



---


雪乃の反応


花束と手紙を持って店内に戻った忍は、雪乃の元にそれを差し出した。

「お嬢様、第一王子――いえ、あのお客様からこれを預かりました。」


雪乃はちらりと花束を見たが、そのままそっけなく呟いた。

「食べられないわね。」


忍は苦笑いしながら返す。

「お花ですから……。」


雪乃はふと椅子から立ち上がり、花束を指差した。

「店内に飾っておいて。それと手紙は後で読むわ。」


そして、ふらりと散歩に出る準備を始めた。

「どちらへ行かれるのですか?」

忍が尋ねるが、雪乃はただ肩をすくめて答えた。

「どこか気分転換になるところへ。」


そう言って、彼女は外へ出て行った。

店内に残された忍と他の店員たちは、溜め息をつきながら彼女の背中を見送った。


突然の来訪者


 雪乃が散歩に出かけ、店内が再び静まり返った頃、店の扉を叩く音が響いた。

「また誰か来た……?」

忍が警戒しながら扉を開けると、そこに立っていたのは意外な人物だった。


「忍ちゃん、久しぶり。」

目の前には、雪乃の妹・月姫が立っていた。彼女の柔らかな笑顔に、忍は一瞬言葉を失う。

「月姫様……なぜこちらに?」


月姫は手を軽く振って、忍の問いを軽くいなした。

「雪姉様は?ここにいるんでしょう?」

忍は困惑した表情を浮かべながら答えた。

「いえ、雪乃お嬢様は、今、外出中です……。」


その答えに月姫は少し首を傾げた。

「そっか、じゃあ、帰ってくるまで私が店長をやるから、お店、開けましょう。」



---


店員たちの困惑


その大胆な発言に、忍は目を見開いた。

「お店を開ける……月姫様が?」


月姫はにっこりと微笑みながら、店内に足を踏み入れる。

「あたりまえじゃない。こんな素敵な店が閉まったままなんて、もったいないもの。」


奥でその会話を聞いていた弥生が慌てて飛び出してきた。

「お待ちください、月姫様!雪姉様がいない間に勝手にお店を開けるなんて……!」


しかし、月姫は意に介さず、テーブルに置かれたメニュー表を手に取りながら話を続けた。

「で、この店のメニューってどんなのがあるの?」


弥生は呆れたように溜め息をつきつつ答える。

「メニューは日替わりで、本日はバナナのオムレットの予定でしたが、雪姫様が不在なので……。」


月姫はその言葉に目を輝かせた。

「大丈夫!それなら月でも作れるわ。エプロンだけ貸してちょうだい。」



月姫、店を開ける


 雪乃の留守中、月姫はエプロンをつけ、意気揚々と厨房から出てきた。

「それじゃ、開店しましょう。」


彼女は店の扉を開き、外に向かって笑顔で声をかける。

「いらっしゃいませ、『雪の庭』開店です!」


その声を聞いて待ち構えていた常連客たちが、次々と店内へと足を踏み入れる。

クラリスが慌てて席に案内し始めると、月姫は再び厨房に戻り、準備を整えた。



---


完璧な手際


月姫は厨房で軽やかに手を動かしながら、弥生に指示を出す。

「弥生ちゃん、飲み物ができたら教えてね。そのタイミングでバナナのオムレットを仕上げるから。」


その言葉通り、月姫は飲み物とスイーツが同時にテーブルに届くよう、ぴったりとタイミングを合わせていた。

クラリスが感心したように呟く。

「すごい……月姫様、まるで経験者みたい。」


セリーヌも頷きながら言う。

「こんなにスムーズに動けるなんて、どこかで喫茶店をやってたことがあるんですか?」


月姫は笑顔を浮かべながら首を振った。

「いいえ、初めてよ。でも、このお店の規模なら、満員になっても10人そこそこだし、慌てるような人数でもないわ。」


その自信に満ちた言葉に、店員たちは思わず納得してしまった。



---


店内の活気


月姫の手際が良いだけでなく、その明るい接客態度も店内を活気づけていた。

時々厨房から姿を消し、テーブルを回りながらお客に感想を聞いて回る。


「オムレットの甘さ、どう?ちょうどいい?」

「紅茶の淹れ方、好みに合ってる?」


彼女はお客の声に耳を傾けながら、絶妙なタイミングで厨房に戻り、調理を続ける。

その姿を見たクラリスは驚きの声を上げた。

「すごい……もしかして本当に喫茶店の経験があるんじゃ?」


弥生も感嘆の表情を浮かべる。

「いや、初めてって言ってたし……でも、まるでベテランみたい。」



---


月姫が最後のお客様を見送り、ふと厨房に戻ってきたところで弥生が声をかけた。

「月姫様、そろそろ閉店の時間です。」


月姫は驚いた表情を浮かべた。

「え?もう閉店?早くない?」


弥生は微笑みながら説明する。

「当店の営業時間は、雪姫様のご意向で3時間だけなのです。」


月姫はしばらく考え込むように指を顎に当てた後、納得したように頷いた。

「なるほど、だから急にお客様がいなくなったのね。」


クラリスが横から補足する。

「はい。皆様、常連のお客様がほとんどですので、当店の営業時間をよくご存じなのです。」


月姫は驚きつつも感心した表情を浮かべた。

「そうなんだ……喫茶店って初めてやったけど、案外面白いね。」


その言葉に、弥生は一瞬動きを止め、驚きの表情を浮かべた。

「えっ……初めて、ですか?」


月姫はにっこりと笑いながら頷く。

「うん、こういうお店で働くのは初めて。でも、雪姉様の作るスイーツをずっと見てたから、なんとなく動けたのかも。」


クラリスは信じられないという顔をしながら小声で呟いた。

「まるでベテラン店長のような手際だったのに……。」


忍も腕を組みながら困惑した様子で言葉を続ける。

「……初めてとは思えない動きでしたよね。」



―働くなんて許される?―



閉店後の振り返り


月姫はカウンターに腰掛けながら、満足げに紅茶をすすった。

「でも、本当に面白かった!雪姉様も、こんな風に楽しんでるのかな。」


弥生は少し複雑な表情を浮かべながら答える。

「そうですね……雪姫様も楽しんでいらっしゃる……はずです。」


月姫は紅茶を飲み干しながら、にっこりと笑った。

「また、雪姉様がいない時は、月が代わりにやってもいいよ!」


その言葉に、店員たちは一瞬顔を見合わせ、静かに溜息をついた。


クラリスが小声で呟く。

「できれば、そんな事態が二度と起きないように願いたいですね……。」


忍は少し笑みを浮かべながら答える。

「確かに。ただ、もしまた月姫様が店長をするなら、私たちも覚悟が必要ですね。」


弥生は静かに紅茶を飲みながら、心の中でこう思った。

(でも、今日の月姫様は……少なくとも今のお嬢様より、やる気があったのは確かね。)




月姫が紅茶を飲みながら、厨房の片付けをする弥生たちを眺めていると、ふと口を開いた。


「そう?でも、このお店の大きさだもの。満員になったって10人そこそこ、慌てるような人数でもないわよね。」


その言葉に弥生とクラリスが顔を見合わせた。


クラリスが少し困惑した表情で答える。

「確かにそうですが……慌てる慌てないの問題ではなく、お客様一人ひとりにしっかり対応するためには、やはり大変なんです。」


弥生も続けて言葉を付け足す。

「そうです、月姫様。特にお嬢様、いえ、雪姫様がいらっしゃると……お客様の対応は私たちだけになりますから。」


月姫は軽く首を傾げながら、納得がいかない様子で言う。

「でも、今日だってうまく回ったじゃない。月が少し手伝えば、十分なんじゃない?」


弥生は苦笑いを浮かべながら答えた。

「それは月姫様が素晴らしい動きをしてくださったからですよ。でも、普段は――」


クラリスが少し焦りながら弥生の言葉を遮った。

「……普段は、もっと穏やかなんです!」


その言葉に月姫は満足げに頷いた。

「ふーん、穏やかなら、それでいいのよ。今日は楽しかったし、またお手伝いする機会があれば声をかけてね。」


弥生とクラリスは再び顔を見合わせ、複雑な表情を浮かべながら深いため息をついた。



---


月姫の余裕


忍が片付けを終えて、厨房から出てくると月姫に声をかけた。

「月姫様、本当に初めてとは思えないほどの動きでした。……まるでお店を長年仕切っていたかのようでしたね。」


月姫は少し照れたように笑いながら答える。

「そんなことないよ。でも、お店って楽しいね。お客様の笑顔がこんなに近くで見られるんだもの。」


忍はその言葉に少し感心しながらも、小さく呟いた。

「……それが普段のお嬢様にもあれば。」


弥生が肩をすくめながら小声で答える。

「それは望みすぎかもね。」


月姫は二人の会話には気づかないまま、店内を見回してにっこりと微笑んだ。



-



---


月姫が紅茶を飲み干して満足げに微笑んでいると、忍が少しだけ眉をひそめながら言った。

「月姫様、本当に素晴らしい動きでした。……まるでお店を仕切っている店長のようでしたね。」


その言葉に月姫はくすりと笑いながら、軽く首を振る。

「でも、忍ちゃんまでそんなこと言うのね。」


忍が困惑した表情で尋ねる。

「え?」


月姫はおどけるように両手を広げて言った。

「私が働くことなんて、許されると思う?」

そう一国の姫君である。平民に混じって働くなどありえない。


その一言に、弥生とクラリスが一瞬固まり、忍は深いため息をついた。



---


働くことの意味


弥生が困惑を隠せないまま、慎重に言葉を選んで話しかける。

「月姫様……今日は特別ということで。」


月姫は弥生の言葉に満足げに頷きながら答えた。

「そうよね、今日は特別。でも楽しかったわ。雪姉様がこのお店をやってる理由が少しわかった気がする。」


クラリスが少し驚いた顔で月姫に尋ねた。

「月姫様、それはどういう意味でしょうか?」


月姫は目を細めながら、穏やかに答えた。

「だって、お客様の笑顔が直接見られるでしょ?それが嬉しいのよ。」


その言葉に弥生とクラリスは感心しながらも、どこか複雑な気持ちを抱いていた。



---


雪乃への思い


忍がふと真剣な表情で月姫に尋ねた。

「では、もし雪姫様がこのお店を辞めるとおっしゃったら、月姫様はどうされますか?」


月姫は少し考え込むようにしてから、力強く答えた。

「それは困るわ。雪姉様がここで楽しんでる姿を見るのが、月にとっても幸せなんだから。」


その言葉を聞いた弥生は小さく息をつきながら、心の中で思った。

(でも、最近のお嬢様はそんな風に見えないのよね……。)


クラリスも少し困ったように笑いながら答える。

「月姫様のそのお気持ちが、雪姫様に届くといいですね。」


月姫は笑顔を浮かべながら頷いた。

「そうね。だから、雪姉様が帰ってきたら、月がしっかり話をするわ!」




月姫の重要な案件


月姫がカウンターに腰を下ろし、紅茶をすすりながらぽつりと言った。

「このまま、ここに就職しちゃおうかな?」


その言葉に、弥生は思わず声を上げる。

「ええ?いやいや、そんなことより、何かご用があってこちらに来られたのではないですか?」


月姫は紅茶を置き、いたずらっぽく微笑んで答えた。

「もちろん、用があって来たのよ。」


弥生は少しほっとしながら、続けて尋ねる。

「それは、重要な案件でしょうか?」


月姫は自信満々に頷いた。

「もちろん!」


しかし次の瞬間、さらりとこう続ける。

「雪姉様に会いに来たの。」


その一言に、弥生と忍は絶句した。


弥生が慌てて聞き返す。

「え?それだけ……ですか?」


月姫は目を丸くしながら、不思議そうに言う。

「それだけ?雪姉様に会う以上に重要なことがあるの?」


その真っ直ぐな言葉に、弥生と忍はさらに言葉を失った。



---


店員たちの反応


クラリスが横から苦笑いを浮かべながら小声で呟く。

「……さすが月姫様、発想が違いますね。」


忍は額に手を当てながら、深いため息をついた。

「さすがに、雪姫様の妹だけあって……価値観が似ていらっしゃる。」


弥生はやや困惑しながら、それでも礼儀正しく対応を続ける。

「では、雪姫様が戻られるまで、どうかお待ちくださいませ。」


月姫は再び紅茶を一口飲み、にっこりと微笑む。

「うん、そうする。待ってる間に、何か手伝えることがあったら言ってね!」


その言葉に店員たちはまたしても顔を見合わせた。



月姫がカウンターで紅茶を楽しんでいると、ふと忍が真剣な表情で尋ねた。

「それより……従者や護衛はどうされたのですか?」


月姫は首を軽く振りながら、さらりと言った。

「いないわよ。」


その一言に、店内の空気が一瞬止まったように感じられた。


弥生が驚いた声を上げる。

「え……?」


月姫は気にする様子もなく、紅茶をもう一口飲んで続ける。

「最初、お庭を散歩していたの。でも急に雪姉様に会いたくなっちゃって、そのままここに来たの。」


弥生と忍は同時に頭を抱える。



---


無防備すぎる行動


弥生がやや動揺しながら尋ねた。

「え?では、本国には何も告げずに……?」


月姫はにっこり微笑みながら答えた。

「だって、散歩に出ただけだもの。」


その言葉に、弥生は額に手を当てながら小声で呟く。

「散歩と言っても……敷地外に出られてしまっては……。」


忍も苦い顔をしながら深いため息をつく。

「これでは、本国で大騒ぎになっているのでは……。」


月姫はそんな二人の反応をまったく気にすることなく、さらに続けた。

「まぁ、大丈夫よ。散歩の途中で寄り道しただけだもの。」



---


頭を抱える店員たち


忍が冷静を装いながらも、少しだけ声を荒げる。

「月姫様……それは、散歩の範囲を大きく超えています!」


弥生も半ば呆れながら付け足した。

「もし本国で何かあったら、私たちも責任を問われます……!」


月姫は軽く首を傾げながら、不思議そうに言った。

「え?そんなに大げさに考えなくてもいいじゃない。雪姉様に会いに来ただけなのに。」


弥生と忍は、思わず同時に頭を抱えた。



自由すぎる姫達




 月姫が紅茶を飲みながら無邪気に微笑む姿を見て、忍は疲れたように肩を落とし、小さく呟いた。

「自由すぎる……。確かにこれは、雪姫様の妹なのも納得ですね。」


弥生が同意するように頷きながら言う。

「本当に……このお二人、血のつながりを感じます。」


月姫は二人の会話には気づかないふりをしながら、楽しげにテーブルを指でなぞり、紅茶をすすった。

「だって、月も雪姉様の妹だもの。自由に生きるのが我が家の伝統なんじゃない?」


その言葉に、忍と弥生は同時にため息をつく。



---


呆れと納得の境界


弥生が少し厳しい口調で言う。

「ですが、自由にするにも限度というものがあります。月姫様、本当にご自身の行動がどれだけ周囲に影響を及ぼすかを考えていただけると助かります。」


月姫は目を丸くして、少しだけ困惑した様子で弥生を見つめた。

「周囲に影響?別に誰にも迷惑かけてないと思うけど?」


忍が苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。

「本国では、きっと月姫様の護衛や従者の皆さんが大騒ぎになっていることでしょうね。」


その言葉に月姫は小さく舌を出して笑った。

「まぁ、あとで謝れば済むでしょ?」


弥生はその言葉を聞いて、再びため息をついた。

「やっぱり、この自由さ……雪姫様とそっくりです。」


忍が頷きながら付け足す。

「はい。これはもう納得するしかありませんね。」



---


月姫の挑発


月姫は紅茶を飲み干し、楽しげに笑いながら言った。

「でも、自由だからこそ楽しいんじゃない?雪姉様もそう思ってるはずよ。」


その言葉に弥生と忍は同時に顔を見合わせた。

「……これは、手ごわい相手ですね。」


クラリスが横から小声で呟く。

「本当に姉妹揃って手に負えませんね……。」


月姫は紅茶をもう一口飲みながら、何気なく尋ねた。

「ところで、開店時間にどうして雪姉様がいなかったの?雪姉様って自由な人だけど、責任者という立場で、開店時間にいないなんてことは普通しないでしょ?」


その言葉に弥生と忍は一瞬顔を見合わせた。


弥生が慎重に言葉を選びながら答える。

「実は……今日は閉店の予定でした。」


月姫は目を丸くして驚く。

「えっ、そうだったの?」



 月姫が紅茶を飲み終えたタイミングで、弥生が意を決したように切り出した。

「実は……」


そこから、雪乃がここ最近抱えていた閉店の理由や、店を開ける意欲を失った経緯を詳しく説明し始める。


月姫は真剣に話を聞き、しばらく考え込むような表情を浮かべた後、ぽつりと呟いた。

「そんな事が……?しまったな、すれ違いになった。本国で待っていればよかった。」


その言葉に、忍と弥生は驚愕する。

「は?本国で待ってる?」


月姫は無邪気な表情で肩をすくめて言った。

「だって、散歩に行くって言ったのよね?」


弥生が困惑しながら頷く。

「はい、確かにそうおっしゃいました。」


月姫は思い出すように目を閉じて呟く。

「たぶん、途中で思い立って夕影あたりに行ったんだと思う。」



---


夕影とは――


その言葉に、忍と弥生は同時に声を上げた。

「え!?えーーっ!?」


クラリスが月姫に疑問をぶつける。

「あの、夕影とは何ですか?」


月姫はにっこり微笑みながら答えた。

「雪姉様の行きつけの喫茶店よ。」


その言葉に店員たちは一瞬安心しかけたが、次の言葉が続いた。

「もちろん、本国にある喫茶店だけどね。」


弥生は思わず椅子から立ち上がる勢いで声を上げる。

「いやいや、さすがにそれは――!」


しかし、月姫はゆっくりと首を横に振りながら断言する。

「雪姉様は月のお姉様よ。しばらく帰ってこないわね。」



---


青ざめる店員たち


その言葉に、忍と弥生、そしてクラリスとセリーヌも真っ青になる。

「護衛もなしに、そんな遠くまで行かれるなんて……!」


忍が震える声で呟く。

「いや、まさか……そんなことがあるわけ――」


しかし目の前にいる月姫の姿が、まさにその可能性を証明していた。


クラリスが驚愕の表情で月姫を見つめる。

「でも……本当にそんな遠くに?」


月姫は無邪気に頷いて言った。

「うん、だって雪姉様の行動力を知らないの?」



---


混乱の店内


店員たちはそれぞれ頭を抱えながら、この状況をどう対処すべきかを考え始めた。

「どうしますか……?」

弥生が困惑しながら忍に問いかけると、忍も答えに窮する。


「まずは、本国に確認の連絡を入れるしかないわね……。」


月姫はそんな混乱の中、再び紅茶を飲みながらのんびりと呟く。

「まぁ、雪姉様のことだから、心配しなくても平気だと思うけどね。」


その無邪気な言葉に、店員たちはさらに混乱を深めるのだった――。





月姫の決意

---


月姫が紅茶を飲み干し、穏やかな声で語り始めた。

「夕影はね、雪姉様が落ち込んだり、悩みがあったりしたときによく行ってた喫茶店なの。だから、たぶんそこだと思う。」


その言葉に弥生が信じられないという表情を浮かべる。

「しかし……あまりにも遠すぎるでしょう。」


月姫は軽く笑いながら首を傾げる。

「私もそう思う。でもね、雪姉様は目的のためなら手段も距離も選ばない人だから。」


その言葉に店員たちは再び頭を抱えた。



---


店員たちの動揺


忍が額に手を当てながら溜め息をついた。

「月姫様までそうおっしゃるということは……雪姫様が本当にそこに行った可能性が高いということですね。」


クラリスも混乱した表情で月姫に尋ねる。

「その夕影という喫茶店、本国のどこにあるのですか?」


月姫は少しだけ考え込むような仕草をしてから答えた。

「本国の王都の外れ。すごく静かなところにあるのよ。雪姉様が一番好きな場所。」


弥生が困惑しながら言葉を絞り出す。

「でも、それなら……護衛や従者を連れて行かずに行くなんて……常識的にありえないです!」


月姫は軽く肩をすくめ、さらりと答える。

「私もよくそうするけどね。雪姉様も同じような性格だから。」



---


困惑の極み


その一言に店員たちは再び沈黙した。


クラリスが恐る恐る忍に問いかける。

「どうしましょう……。私たち、雪姫様がいらっしゃらない間、ここで何をすれば……。」


忍は頭を抱えながら呟く。

「とりあえず本国に確認するしかないわね……。」


弥生も深いため息をつきながら言った。

「まさか、こんな状況になるなんて……。」



---


月姫の余裕


一方、月姫だけはそんな状況を全く気にしていない様子で微笑んでいた。

「大丈夫よ。雪姉様はそう簡単に何かに巻き込まれたりしないわ。むしろ、巻き込む側だから。」


その言葉に、店員たちはさらに頭を抱える。


「そういう問題じゃないんです……。」

弥生が疲れた声で呟いたが、月姫は聞いていないかのように、再び紅茶を楽しんでいた。





---


月姫はカップを置き、堂々と胸を張りながら宣言した。

「大丈夫。雪姉様が留守の間、私がこの店を守る。」


その言葉に、店員たちは一瞬固まり、次いで忍が慌てたように言った。

「ま、待ってください!月姫様がこのお店を守るというのは、一体どういう意味ですか?」


月姫は涼しげな笑みを浮かべながら答える。

「そのままの意味よ。雪姉様の代わりに私が店長として、ここをしっかり回すってこと。」


弥生が困惑しながら口を挟む。

「そ、それはありがたいお話ですけど……月姫様、本当に喫茶店の運営なんてできるんですか?」



---


月姫の自信


月姫は少し首を傾げながらも、堂々とした態度を崩さない。

「今日のお店の様子を見てたでしょ?お客様も満足してくれてたし、問題なく回ってたじゃない。」


クラリスが恐る恐る言う。

「確かに……お客様は満足されていましたけど、それは月姫様が想像以上に動ける方だからであって……。」


月姫は笑いながら肩をすくめた。

「そういうことなら、ますます問題ないわね。」


弥生が困ったように忍を見つめるが、忍もどう対応すればいいのか分からない様子だった。



---


本気の月姫


月姫は椅子から立ち上がり、軽く手を叩いて言った。

「それに、雪姉様が帰ってきたときに店がガタガタだったら困るでしょ?だから私がしっかり守るの。」


弥生が溜め息をつきながら言う。

「ですが、月姫様。本当にそんな簡単な話では――」


月姫は真剣な表情で弥生を見つめた。

「弥生ちゃん。雪姉様にとってこのお店がどれだけ大切な場所か分かってる?」


弥生はその言葉に思わず黙り込む。


月姫は続ける。

「だからこそ、私がこの店を守るの。雪姉様が帰ってくるまで安心していられるようにね。」



---


店員たちの動揺


クラリスが忍に小声で言う。

「どうしましょう……月姫様、本気みたいです。」


忍が深いため息をつきながら答える。

「この状況で反対しても無駄でしょうね……。」


弥生も渋々頷きながら言った。

「とりあえず、月姫様が本当にお店を守るつもりなら、私たちが全力でサポートするしかありませんね。」



---


月姫の指揮開始


月姫は再び笑顔を浮かべ、明るい声で言った。

「よし!それじゃあ、明日も開店するわよ。みんな、よろしくね!」


店員たちは心の中で不安を抱えながらも、月姫の前向きな態度に押されて、小さく頷くしかなかった。


「はい……頑張ります。」


こうして、月姫が指揮を執る「雪の庭」が再び動き出すことになったのだった――。




月姫は胸を張り、きっぱりとした声で言った。

「わかんないけど、雪姉様にできるなら、月にもできる。みんなの協力があればね。」


その言葉に、店員たちは再び驚きの表情を浮かべる。


弥生が慎重に言葉を選びながら答える。

「月姫様、それは……雪姫様だからこそできるのではないでしょうか?」


月姫は少し首を傾げて、にっこり微笑んだ。

「でも、雪姉様だって最初から上手くできたわけじゃないでしょ?それに、みんながサポートしてくれるなら大丈夫よ。」


その言葉に、クラリスがそっと忍に囁く。

「これ、断れませんね……。」


忍は額に手を当てながら溜め息をついた。

「月姫様は雪姫様に似て、とても強引なところがありますからね……。」



---


月姫の作戦


月姫は意気揚々と話を続けた。

「まず、明日は雪姉様が戻ってくるか分からないから、今日と同じように開店するわ。」


クラリスが小声で弥生に尋ねる。

「本当に大丈夫なんでしょうか?」


弥生は少しだけ困った顔を浮かべながら、月姫を見つめた。

「……こうなったら、全力でサポートするしかないわね。」




店員たちの動揺


セリーヌが少し戸惑いながら言った。

「でも、月姫様……私たちだけで回せるかどうか……。」


月姫はにっこり笑いながら答える。

「大丈夫!今日だってスムーズに回ったでしょ?」


忍が慎重な口調で言葉を挟む。

「それは、月姫様が的確に指揮をしてくださったからです。ですが、明日はもっとお客様が増える可能性があります。」


月姫は少し考え込むような仕草をした後、軽く笑いながら答えた。

「それなら、その時に考えればいいじゃない。お客様がたくさん来てくれるなら、それだけ楽しいじゃない。」


その言葉に店員たちは心の中で不安を抱えながらも、否定できずに黙り込むしかなかった。



---


月姫の締めくくり


月姫はテーブルを軽く叩き、元気よく言った。

「みんな、雪姉様が帰ってきたときにびっくりするくらい立派なお店にしておきましょう!」


その言葉に店員たちは微妙な表情を浮かべながらも、小さく頷いた。


「はい……頑張ります……。」


月姫は満足そうに微笑み、紅茶をもう一口飲みながら言った。

「よーし、明日は頑張るぞ!」


こうして、月姫主導の「雪の庭」の新しい一日が始まろうとしていた――。






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月姫がメニュー表を指で弾きながら、にっこりと微笑む。

「本日のスイーツって、毎日変わるの?」


クラリスが丁寧に答える。

「はい。閉店後、いつも雪姫様が明日のスイーツを決めていらっしゃいました。」


月姫は目を輝かせながら言った。

「そう。なら、明日は私が決めます!明日のスイーツはオペラにしましょう!」


その一言に店員たちは一瞬驚き、顔を見合わせる。

弥生が控えめに口を開いた。

「オペラは……少し難易度が高いのでは……?」


月姫は自信たっぷりに胸を張り、言葉を返す。

「大丈夫。任せて。雪姉様仕込みの腕を披露するいい機会だわ!」



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月姫の名前の変更


弥生が少し遠慮がちに口を挟む。

「あの、月姫様……少しよろしいでしょうか。」


月姫は手を止め、彼女を見つめる。

「なに?」


弥生は慎重に言葉を選びながら答えた。

「ここでは、雪姫様も『雪乃』と名乗っていらっしゃいましたので……できれば、月姫様も少し呼びやすいお名前を……。」


月姫はしばらく考え込むような表情を浮かべた後、軽く笑って答える。

「そういうことね。なら月でいいよ。」


その気軽な返答に、クラリスがほっとした表情を浮かべる。

「ありがとうございます。月……さん。」


月姫は笑顔のまま軽く頷き、再び指示を出し始める。

「よし、じゃあ閉店後に材料を確認して準備しましょう。明日のスイーツ、オペラをお客様に完璧な形でお届けするわ!」



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店員たちの反応


忍が心配そうに弥生に小声で話しかける。

「月姫様、いや、月様、本当にオペラを作れるのでしょうか……?」


弥生は少し悩むような表情を浮かべながら答えた。

「……あの自信を見る限り、きっと大丈夫でしょう。雪姫様の仕込みを受けているなら。」


クラリスが小さく息を吐きながら呟く。

「でも、難易度が高い分、材料や手間が増えそうですね……。」


セリーヌが肩をすくめて言った。

「どちらにしても、私たちは全力でサポートするしかないですね。」



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月姫の締めくくり


月姫はカウンターの向こうで紅茶を飲みながら、楽しそうに微笑んだ。

「明日の営業が楽しみだわ。きっとお客様も驚くでしょうね!」


店員たちはその言葉に困惑しながらも、月姫の自信に押されて小さく頷いた。


「はい……頑張りましょう……。」


こうして、「雪の庭」の明日のスイーツがオペラに決定し、新たな挑戦の日が訪れることになった――。



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第14話予告


「次回予告 第2クールにふさわしく新レギュラー加入(笑)

月は、雪を越えるのか?」

「お月様、誰に向かって話してるのです」 

「弥生ちゃん、おをつけないで衛星みたいだからって言ってるでしょう!」

「失礼しました」











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