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第17話 「パネットーネと月の可愛すぎる甘い復讐」 2 月のスタードール訪問

スタードールの店内に入った月は、店員に店長室へ案内される。

扉が開かれると、アルベルトが笑顔で迎えた。


「よく来てくれた。さあ、座ってくれたまえ。」


月は手に持っていたリボンで束ねた紙の束と、布に包まれた小瓶をしっかりと抱えながらソファに腰を下ろした。そして、持っていた紙の束を差し出す。

「これをどうぞ。」


アルベルトは目を丸くしながら、それを受け取る。

「これは?」

「オペラ、ザッハトルテ、タルトタタン、そしてパネットーネのレシピです。」


その言葉に、アルベルトは驚きと感心を隠せない。

「そんなに提供してくれるのか?」


月は頷きながら微笑む。

「実は、これらのメニューを多くのお客様からリクエストいただいているのですが、当店の規模では、毎日一種類のメニューしか提供することができません。姉がスタードールさんにレシピを提供したのも、同じ理由ではないかと思います。」


アルベルトは紙束を手に取りながら深く頷いた。

「君は、さすが雪乃店長の妹さんだ。状況をよく理解しているね。」


月は表情を引き締めて、続ける。

「ですが、一つお願いがあります。」


「お願い?」


「これらのレシピを、どれか一種類だけでなく、すべて同時に毎日提供していただきたいのです。」


アルベルトは眉をひそめ、意図を図りかねるように尋ねる。

「すべてを同時に?それはどういうことかな?」


「当店の規模では、メニューの中からお客様に選んでいただくことができません。ですから、スタードールさんでは、お客様の要望に応える形で、これらをすべて同時に提供していただければと思いまして。」


アルベルトは考え込みながらも納得したように頷いた。

「なるほど。当店なら確かにその対応ができるだろう。それに、これはお客様に喜んでいただけるだろうね。」


月はさらに布に包まれた小瓶を差し出した。

「それと、これをお渡ししないといけません。」


アルベルトは受け取りながら首をかしげた。

「これは?」


「パネットーネ用の酵母です。」


その言葉に、アルベルトは一層驚きの表情を浮かべた。

「そんな大切なものまで提供してくれるのか……。」


月は軽く笑いながら答える。

「これがなければ、本当のパネットーネにはなりません。お客様のために、ぜひご活用ください。」


アルベルトは小瓶を慎重に手に取りながら、感激した様子で深く頭を下げた。

「本当に感謝に堪えない。スタードールの名にかけて、このレシピと酵母を最大限活用させてもらうよ。」


月はその言葉に満足げに頷いたが、その瞳には一瞬だけ鋭い光が宿っていた――。



---


スタードールを後にして


スタードールを出た月は、店を振り返りながら小さく笑みを浮かべた。


「さて、あの店がどうなるのかしら?明日?それともあさってかしら?」


周囲の誰もが聞こえないような声で、月は独り言を漏らす。


「ふふ、楽しみですわ……オーホホホホホ!」


その高らかな笑い声が静かな通りに響いたが、彼女は気にする様子もなく、軽やかに歩き出した。


「さぁ、『月の庭』に戻りましょうか。明日の準備をしなくちゃ。」


その背中には、どこか企みを含んだ自信と誇りが漂っていた――。



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