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第17話「パネットーネと月の可愛すぎる甘い復讐5 と次回予告

エピローグ:月の庭に咲く計算


「……つまり、最初から全部、計算されてたってことよね」


静かな店内に、弥生の声がぽつりと響いた。


カウンターの片隅、月が去った後のティーカップが、まだ温もりを残していた。


忍は腕を組みながら、深く息を吐く。


「最初の“オペラ”はまあ偶然かもしれないけど……その後に出したスイーツは、全部、手間がかかるものばかり。しかも月様、それを『ご厚意』として無償提供していたわけで……」


「それだけじゃないのよ」


弥生はテーブルの上に残されたメモを指でなぞりながら言った。


「パネットーネ。あれを完成させるのに、最低でも72時間は必要なの。発酵に時間がかかる上に、気温や湿度によって管理が左右される。普通の厨房なら途中で投げ出したくなるような代物よ」


「それを……混乱が起きるタイミングに合わせて、ちゃんと仕込んであった」


「最初から全部、計画されてたってことよね」


弥生の声には、もはや驚きよりも感嘆が混じっていた。


「しかも、表面上はまったく非の打ちどころがない。あの子、悪意なんて微塵も見せなかったわ。むしろ、親切な協力者の顔でスイーツを提供して……結果、スタードールは崩壊寸前」


忍はその場に座り込むようにして、天井を仰いだ。


「……あの子を敵に回したら、どうなるか。ちょっと想像しただけで背筋が寒くなるな」


「ええ、本当に」


弥生も苦笑しながら、肩をすくめた。


「雪乃様の妹じゃなかったら、私、絶対に距離を取るタイプよ。関わったら最後、絶対に振り回されるわ」


忍はこくりと頷き、そしてふと、紅茶のカップをそっと手に取る。


「でも、不思議と……嫌いにはなれない。きっと、あの子のやってることに一本筋が通ってるからかもしれないな」


「姫様のために、っていうところだけは、決してブレないからね……」


二人は紅茶を口に含み、少しだけ口元を緩めた。


その微笑みの奥には、月という少女の――計算と信念の混じり合った“怖さ”と“強さ”に対する、静かな敬意があった。



---


月が守る雪の庭には、今日も変わらぬ静けさと、密やかな覚悟が咲いている――。



---

第18話予告:雪乃の帰還と天災(天才)の来襲



「私は、帰ってきた!」

「雪姉様、おかえりなさい!」

月が満面の笑顔で迎える中、雪乃が店に姿を現した。


「月!なんでここにいるの?」

「雪姉様の代わりにお店を守ってました。」

「そうなんだ……そういえば、お客が減って落ち着いてるわね。」


月は自信満々に胸を張る。

「雪姉様のため、スタードールにお客様を流してあげました。あちらの店長さんも喜んでます。」

「それは、よかった。」


その言葉を聞きながら、弥生は呆然とした顔で心の中で呟く。

(…お、恐ろしい子。)


「弥生ちゃん、なんか言った?」

「いえ、別に……!」


すると、突然店のドアが開き、もう一人の少女が現れる。

「うちの二人の姉がお世話になってます。」


驚く月が声を上げる。

「花!なんでいるの?」


花は首をかしげながら答える。

「雪姉様についてきたの。ところで、散歩に行ったはずの月姉様がなぜここにいるの?」


その質問に、月がしれっとした顔で答える。

「えっと……なぜだろう?」


次回、「雪乃の帰還と天災(天才)の来襲」

3姉妹が揃い、喫茶店はさらなる嵐に――!




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