お茶会当日。喫茶店「雪の庭」は、いつもとは違う洗練された雰囲気に包まれていた。店内の装飾は華やかに仕立て直され、テーブルには刺繍入りのクロスと繊細な花瓶が並ぶ。忍と弥生の努力が光る中、店主である雪乃は――いつも通りカウンターで紅茶を飲んでいた。
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貴族たちの来店
時刻になると、続々と貴族たちが店内へ入ってきた。
フォレスト男爵家のクレアを中心に、優雅な仕草で椅子に腰を下ろす女性たち。男性陣も彼女たちに続き、それぞれが雪乃たちを興味深そうに観察している。
「お噂はかねがね耳にしておりますわ。この喫茶店には、とても美味しいスイーツがあると。」
クレアがにこやかに話すと、他の貴族たちも期待に満ちた視線を雪乃に向けた。
「ようこそ『雪の庭』へ。今日は特別なお茶会にお選びいただき、光栄です。」
雪乃はにっこりと微笑みながら挨拶をした。その姿は一見完璧な優雅さだったが、弥生は小声で忍に耳打ちする。
「お嬢様、普段と違ってずいぶん真面目ですね……。」
「今だけだと思います。」
忍が淡々と返しながら、準備を進める。
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雪の庭特製エクレアの披露
お茶会が始まり、紅茶が運ばれると、いよいよ新作スイーツ「雪の庭特製エクレア」が披露される。
弥生が丁寧に盛り付けたエクレアを一人一人の前に運ぶと、貴族たちの間から感嘆の声が上がった。
「まぁ、なんて美しいスイーツなの! これがエクレアですの?」
「上に金箔が散りばめられていて、本当に豪華ですね。」
雪乃は微笑みながら一言付け加える。
「こちらは当店特製のエクレアです。繊細なカスタードクリームと、ほろ苦いチョコレートが絶妙なハーモニーを奏でます。どうぞお楽しみください。」
その優雅な言葉に、貴族たちは期待を込めて一口ずつスイーツを味わった。
「これは……素晴らしい! 口の中でとろけるようなカスタードクリームと、この生地の軽やかさ!」
「確かに稲妻のように一瞬で消えてしまいそうな味ね。」
「これほどのスイーツを作れるなんて、店主の腕前に感服です。」
雪乃は内心で「実際に作ったのは弥生なんだけど」と思いつつ、にこやかに応じた。
「皆様に喜んでいただけて光栄です。」
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雪乃の応対と忍のフォロー
貴族たちの絶賛の声に、雪乃は次第にリラックスし始めた。彼らと談笑しながら、紅茶のおかわりを提供したり、次々と褒め言葉を受け取ったりしている。
「この喫茶店の雰囲気も素晴らしいわ。まるで別世界にいるような気分です。」
「ありがとうございます。この空間が皆様にとって特別なひとときになるよう心がけております。」
しかし、そんな雪乃の言葉を裏で聞いていた忍は小さく呟いた。
「本当に心がけているのは弥生と私ですがね。」
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問題発生!追加注文の嵐
お茶会が進むにつれ、貴族たちから追加注文のリクエストが次々と飛び出した。
「このエクレア、もう一ついただけるかしら?」
「紅茶を少し濃い目に淹れていただける?」
「次回はこのスイーツをぜひ王宮にお届けしてほしいわ。」
忍と弥生は必死に対応するが、雪乃はカウンターの奥で紅茶を飲みながら優雅に過ごしている。
「お嬢様、少しはお手伝いを!」
弥生が忍び声で呼びかけると、雪乃はカップを置いて応じた。
「私は接客で忙しいの。裏方は任せたわ。」
「……接客しているのは私たちなんですが。」
弥生と忍は顔を見合わせ、再びため息をついた。
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フィリップの登場
そんな中、一人の男性貴族が雪乃に話しかけてきた。フォレスト男爵家の親族であるフィリップ・オルヴィエ男爵だった。
「店主様、こちらのエクレア、私が今まで食べたどのスイーツよりも素晴らしいです。」
フィリップは柔らかな笑みを浮かべ、雪乃に深々と礼をした。
「こんな美しいスイーツを作る方とは、ぜひお近づきになりたいものです。」
雪乃は一瞬困惑したが、すぐに優雅な微笑みを浮かべて答えた。
「ありがとうございます。お褒めの言葉、光栄ですわ。」
フィリップはさらに言葉を続ける。
「ところで、店主様は普段、どのようにしてこのようなアイデアを生み出しておられるのですか?」
「ええ、愛情を込めて作ることを大切にしています。」
そう答える雪乃の背後で、弥生が小声で呟いた。
「愛情を込めて見守っていただけですよね……。」
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お茶会の終了と不穏な予感
お茶会は無事に終了し、貴族たちは大満足の様子で店を後にした。
クレアは雪乃に感謝を伝えながらこう言った。
「今日の素晴らしい時間をありがとうございました。またぜひ利用させていただきますわ。」
しかし、忍は静かに呟いた。
「これ以上お客様が増えると大変なことになりますね。」
弥生も同意するように頷く。
「そうですね。でも、今日のところは何とか無事に済んでよかったです。」
その一方で、雪乃はエクレアの評判に満足しながらも、心の中でこう思った。
「こんなに疲れるなら、もう貴族のお茶会なんて受けないわ。」
だが彼女の予想を裏切るかのように、後日さらなる波乱が待ち受けていることを、まだ誰も知らなかった。