雪乃が妹・花の背中に背負われた大きな荷物に気づく。
「花?何を持ってるの?」
花は床にしゃがみ込み、背負っていた布に包まれた荷物を下ろす。ゴトッと重たい音が響き、周囲の注目が集まる。
弥生が不思議そうに荷物を見つめながら問いかけた。
「花様、それは何ですか?」
花は布をほどいて中身を取り出した。それは見たことのない奇妙な形をした金属の道具だった。
「これは、沸騰水を加圧状態9 - 10気圧で濾すことで、コーヒーを抽出するマジックアイテムです。」
クラリスが驚きの声を上げる。
「…つまり、それってエスプレッソを抽出できるマジックアイテムってことですか!?」
花は満足げに頷きながら、にっこり笑う。
」
弥生は目を丸くしながら驚きの声をあげた。
「そんなもの、どこで入手したんですか!?」
花は当然のような表情でさらっと言い放つ。
「作った。」
「えっ!?」
店員たちの声が揃って響く。
雪乃が苦笑しながら花なでながら、説明を始める。
「この子、マジックアイテム作りの天才なの。」
クラリスが信じられないといった顔で呟く。
「つまり、これって手作り……?」
花は得意げに頷く。
忍が呆然としながら一言。
「そんな天才が、なぜここに……。」
雪乃と月が得意げに胸を張りながら微笑む。
「当然よ、私達の妹ですもの。」
弥生が驚きと困惑が入り混じった顔で雪乃を見る。
「この店の冷凍ストレージ。あれも花が作った作品。冷蔵ストレージだけじゃなくて、他にもいくつか便利なマジックアイテムを提供してもらってるわ。」
クラリスが感心した声を上げる。
「そんなすごい技術をお持ちなのに、なぜもっと大きな舞台で……?」
花は肩をすくめて、にっこり微笑む。
「舞台?演劇や芸事には興味ない」
忍がため息をつきながら言葉を続ける。
「姉妹そろって自由すぎる……。」
雪乃と花が顔を見合わせて笑い合うと、店内には和やかな空気が広がった。
しかし、弥生と忍の胸には一抹の不安が残る。
「これだけの才能が集まってるのに……なんでこんなに不安になるんだろう……。」
花はそんな彼女たちの心配をよそに、新しく持ち込んだマジックアイテムを雪乃に説明し始めた。
雪乃は笑顔で頷きながら、花を褒めた。
「さすが私の妹ね。本当に頼もしいわ。」
セリーヌとクラリスが驚きの声を上げる。
「えっ、まだ8歳……?」
雪乃は心配そうな表情を浮かべながらため息をつく。
「確かに、この子は天才よ。マジックアイテムを作る才能も突出してるわ。でも、まだ8歳。社会に出るのは早すぎるわ。」
クラリスが感心しながら言う。
「それでも、これだけの才能を持っているなら、将来はとんでもないことになりそうですね。」
花が少しむっとした表情を見せる。
「将来なんて待たなくても、今すぐにだって何だってできるわよ!雪姉様が許してくれるなら、私だってこのお店を完全に任されてもいいくらいよ!」
雪乃は苦笑いしながら花の頭を優しく撫でる。
「花。お店の仕事は大人だって大変なのよ。まだ遊んでいていいの。」
花は少し頬を膨らませて反論する。
「私だってちゃんとできるもん!エスプレッソマジックアイテムだって作れるし、冷蔵ストレージだって改良してみせるわ!」
忍が感心したようにぼそっと呟く。
「本当にすごい才能ですね……でも、8歳にしてこの完成度って……。」
弥生が少し困ったように雪乃に尋ねる。
「店長、雪乃様。このままだと花様が暴走しませんか?」
雪乃は少し考えた後、微笑みながら答えた。
「大丈夫、花は、私たちが思うよりずっとしっかりした子よ」
「発酵管理の救世主、保温ストレージ」
花は布に包まれていたもう一つのマジックアイテムを慎重に取り出し、テーブルに置いた。
「これもお土産。」
弥生が興味津々でそれを覗き込む。
「これは何ですか?」
花は誇らしげに答える。
「保温ストレージ。設定した温度で中身を一定に保つことができるストレージ。発酵食品や酵母の管理が楽になる。」
クラリスが目を輝かせながら尋ねる。
「それって……もしかして、パンやお菓子の発酵工程で役立つということですか?」
花は自信満々に頷いた。
弥生が驚きの声を上げる。
「それはすごい!発酵の温度がずれると台無しになりますからね……。こんな便利なものがあれば、かなり作業が楽になりますね!」
忍も感心したように呟いた。
「これがあれば、雪乃様や月様ももっと効率よくスイーツを作れますね。」
しかし、雪乃は少し心配そうに花に尋ねる。
「花、これを本当に作ったの?」
花は自信たっぷりに頷いた。
「もちろん!これも私が設計して作ったの。温度センサーと魔法の力を組み合わせて、どんな環境でも安定した保温ができるようにしたのよ。」
クラリスが試しにストレージの蓋を開け、中を確認する。
「中も広々としていて、かなりたくさんの材料を入れられそうですね。」
弥生が興奮気味に言った。
「これがあれば、お店の効率も上がりますし、新しいスイーツの試作もどんどんできそうです!」
雪乃は再びため息をつきながら花を見つめた。
「やっぱり花は天才ね……これなら、もっと楽ができそう」
花はニコッと笑う。