「時間調整ストレージ」
花が微笑みながら説明を続ける。
「今考えてるのは、時間調整ができるストレージ。」
弥生が首を傾げた。
「時間調整って、どういうことですか?」
花は嬉しそうに話し始めた。
「今、一般的に使われているのは、内部の時間を停止できるマジックバッグでしょ?でも私は、内部の時間を進めたり遅くしたりできるストレージを作りたいの。」
クラリスが驚いて声を上げる。
「それって、すごい技術じゃないですか!でも、何に使えるんです?」
花は得意げに指を一本立てた。
「たとえば、発酵にかかる時間を短縮できるの。」
弥生が目を丸くして身を乗り出した。
「え?じゃあ、パネットーネの発酵時間も短くできるってことですか?」
花はにっこり微笑みながら頷いた。
「そうそう。それが目標。理想はね、1秒で発酵を終えられるようにしたいの。」
クラリスが目を輝かせて答えた。
「それができたら、どれだけ便利になるか……すごい発明ですね!」
忍が半信半疑の表情で尋ねる。
「でも、それって実現可能なんですか?」
花は自信満々に胸を張った。
「もちろん!今、試作段階だけど、あと少しで完成する予定。これができれば、どんなスイーツも効率よく作れるわ。」
弥生が感嘆しながら呟いた。
「本当に恐ろしい子……。」
花は楽しそうに次の計画を語り続け、店員たちはその天才的な発想に驚きつつも、どこか圧倒されていた。
「秘密厳守」
花が自信満々に次の発明を語る中、月が突然大きな声で制止した。
「花、お話はちょっと待って!」
花はきょとんとした表情で月を見上げる。
「月姉様?」
月はクラリスとセリーヌに視線を向け、真剣な表情で言った。
「クラリスちゃん、セリーヌちゃん!花の能力について、この国の王室に報告しないでね!」
クラリスとセリーヌは驚きながら答える。
「そ、そんなことしませんよ!」
月は鋭い目つきで念を押す。
「いい?もし情報が漏れたら、二度とうちのスイーツを提供しないわよ!」
クラリスが慌てて手を振る。
「し、しません!そもそも、こんな話を誰かにしても、誰も信じないと思いますし……。」
セリーヌも頷きながら言葉を添える。
「そうです。花姫様の能力なんて、私たちが見ているから信じられるだけで、他の人にはまるで魔法の物語のようです。」
花は首をかしげながら月に問いかける。
「月姉様、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?私は秘密を守れる人が周りにいるって信じてるよ。」
月は微笑みながらも真剣な表情で答える。
「花、私たちの家族の力がどれだけ特別か、あなたもわかってるでしょ?だからこそ慎重にならないといけないのよ。」
雪乃がふわっとした笑顔で会話に加わる。
「そうよ。秘密は秘密のままにしておきましょう。ね?」
クラリスとセリーヌは改めて深く頭を下げた。
「もちろんです。花姫様の秘密は、私たちだけのものとして守ります!」
月はようやく満足したように頷き、再び笑顔を取り戻した。
「それならいいわ。さ、次は明日のスイーツの準備を始めましょうか!」
店内は再びいつもの穏やかな空気に包まれたが、月の言葉の重みが店員たちの心に深く刻まれていた。
「お菓子で買収」
花がココアを飲みながら、ふとした調子で呟いた。
「でも、お菓子で買収できるなんてチョロい人たち。」
クラリスとセリーヌが同時にむせかけた。
「買収って……!」
月が額に手を当てながらため息をつく。
「花、それは言い方が悪すぎるわよ。クラリスちゃんとセリーヌちゃんが誤解するでしょ。」
花は首を傾げながら無邪気に言い返す。
「え?だって事実じゃない?さっきも『スイーツが食べられなくなるのは困る』って言ってたし。」
クラリスとセリーヌは顔を真っ赤にして必死に弁解した。
「そ、それは……!だって雪乃店長や月店長のスイーツは、他では絶対に味わえない特別なものなんです!」
セリーヌも困ったようにうなずく。
「そうです!別に買収されてるわけではなくて、ただ純粋に……!」
雪乃が笑いをこらえながら口を挟んだ。
「まあまあ、いいじゃない。クラリスちゃんたちが味方でいてくれるのは事実なんだから。」
花は肩をすくめながらニコリと笑った。
「そういうこと。これからもお菓子でよろしくね!」
弥生が冷静な声でまとめた。
「……花姫様、そういう発言は控えてください。いろいろ誤解を招きますので。」
店内に微妙な空気が流れる中、花は満足げにココアを飲み干した。
「姉としての苦悩」
花がココアを飲みながら、何気なく呟いた。
「それにしても、月姉様がそんなに心配してくれるなんて意外。」
月がピタリと動きを止め、花に向き直る。
「花!私のこと、なんだと思ってるの?!」
花は首を傾げ、無邪気に一言。
「姉」
その瞬間、月はその場にへたり込んだ。
「そうだけど……そうだけど……!」
雪乃が苦笑しながら月の肩に手を置いた。
「まぁまぁ、月。この子はこういう子なんだから。」
月は天を仰ぎながらため息をつく。
「わかってるわよ……わかってるとも……何年もこの子の姉をやってるんですもの……。」
花は不思議そうに二人を見つめた。
「なに?私、何か変なこと言った?」
月は顔を覆いながら小さく呟いた。
「変じゃないけど……破壊力がすごいのよ、花は。」
弥生と忍が少し距離を取りながらその様子を見守る。
「……姫様たちの会話、ちょっとした嵐みたいですね。」
「平和に見えるけど、一瞬で空気が変わる……。これが『魔の奇数姫』の恐ろしさか……。」
クラリスとセリーヌがそっと同意を示しながら、微妙な距離感を保っていた。
エピローグ:魔の奇数姫
開店準備を進める店内で、忍が小声で呟く。
「ところで、『魔の奇数姫』という言葉が、私たち家臣の間で囁かれているんです。」
クラリスとセリーヌが驚きながら問い返す。
「魔の奇数姫?それってどういうことですか?」
忍が少し困った表情で答える。
「奇数の王女様たち、つまり第3、第5、第7王女様が、揃って天才的で……まぁ、言葉を選ばずに言えば、少々個性が強すぎるんです。」
クラリスが納得したように頷く。
「なるほど。確かに雪乃様や月様、そして花様も……。」
セリーヌが興味津々で尋ねる。
「でも、偶数の王女様たちはどうなんですか?」
忍は苦笑いを浮かべて言う。
「第2、第4、第6王女様たちは、ごく普通の方々です。むしろ、王家のバランスを保つために生まれたのかと思うほど穏やかです。」
セリーヌがさらに質問する。
「でも……あの、第1王女様は?」
その瞬間、弥生が慌てて話題を変えようとする。
「さぁ、開店準備を急ぎましょう。今日も忙しくなりますから。」
忍もそれに続き、そそくさと掃除を始める。
「ええ、そうですね。もうお客様が外で並んでますし。」
クラリスとセリーヌは不思議そうに見つめ合いながらも、深く追及はしなかった。