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第18話:雪乃の帰還と天災(天才)の来襲5:「閉店後の一幕」

「時間調整ストレージ」


花が微笑みながら説明を続ける。

「今考えてるのは、時間調整ができるストレージ。」


弥生が首を傾げた。

「時間調整って、どういうことですか?」


花は嬉しそうに話し始めた。

「今、一般的に使われているのは、内部の時間を停止できるマジックバッグでしょ?でも私は、内部の時間を進めたり遅くしたりできるストレージを作りたいの。」


クラリスが驚いて声を上げる。

「それって、すごい技術じゃないですか!でも、何に使えるんです?」


花は得意げに指を一本立てた。

「たとえば、発酵にかかる時間を短縮できるの。」


弥生が目を丸くして身を乗り出した。

「え?じゃあ、パネットーネの発酵時間も短くできるってことですか?」


花はにっこり微笑みながら頷いた。

「そうそう。それが目標。理想はね、1秒で発酵を終えられるようにしたいの。」


クラリスが目を輝かせて答えた。

「それができたら、どれだけ便利になるか……すごい発明ですね!」


忍が半信半疑の表情で尋ねる。

「でも、それって実現可能なんですか?」


花は自信満々に胸を張った。

「もちろん!今、試作段階だけど、あと少しで完成する予定。これができれば、どんなスイーツも効率よく作れるわ。」


弥生が感嘆しながら呟いた。

「本当に恐ろしい子……。」


花は楽しそうに次の計画を語り続け、店員たちはその天才的な発想に驚きつつも、どこか圧倒されていた。



「秘密厳守」


花が自信満々に次の発明を語る中、月が突然大きな声で制止した。

「花、お話はちょっと待って!」


花はきょとんとした表情で月を見上げる。

「月姉様?」


月はクラリスとセリーヌに視線を向け、真剣な表情で言った。

「クラリスちゃん、セリーヌちゃん!花の能力について、この国の王室に報告しないでね!」


クラリスとセリーヌは驚きながら答える。

「そ、そんなことしませんよ!」


月は鋭い目つきで念を押す。

「いい?もし情報が漏れたら、二度とうちのスイーツを提供しないわよ!」


クラリスが慌てて手を振る。

「し、しません!そもそも、こんな話を誰かにしても、誰も信じないと思いますし……。」


セリーヌも頷きながら言葉を添える。

「そうです。花姫様の能力なんて、私たちが見ているから信じられるだけで、他の人にはまるで魔法の物語のようです。」


花は首をかしげながら月に問いかける。

「月姉様、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?私は秘密を守れる人が周りにいるって信じてるよ。」


月は微笑みながらも真剣な表情で答える。

「花、私たちの家族の力がどれだけ特別か、あなたもわかってるでしょ?だからこそ慎重にならないといけないのよ。」


雪乃がふわっとした笑顔で会話に加わる。

「そうよ。秘密は秘密のままにしておきましょう。ね?」


クラリスとセリーヌは改めて深く頭を下げた。

「もちろんです。花姫様の秘密は、私たちだけのものとして守ります!」


月はようやく満足したように頷き、再び笑顔を取り戻した。

「それならいいわ。さ、次は明日のスイーツの準備を始めましょうか!」


店内は再びいつもの穏やかな空気に包まれたが、月の言葉の重みが店員たちの心に深く刻まれていた。


「お菓子で買収」


花がココアを飲みながら、ふとした調子で呟いた。

「でも、お菓子で買収できるなんてチョロい人たち。」


クラリスとセリーヌが同時にむせかけた。

「買収って……!」


月が額に手を当てながらため息をつく。

「花、それは言い方が悪すぎるわよ。クラリスちゃんとセリーヌちゃんが誤解するでしょ。」


花は首を傾げながら無邪気に言い返す。

「え?だって事実じゃない?さっきも『スイーツが食べられなくなるのは困る』って言ってたし。」


クラリスとセリーヌは顔を真っ赤にして必死に弁解した。

「そ、それは……!だって雪乃店長や月店長のスイーツは、他では絶対に味わえない特別なものなんです!」


セリーヌも困ったようにうなずく。

「そうです!別に買収されてるわけではなくて、ただ純粋に……!」


雪乃が笑いをこらえながら口を挟んだ。

「まあまあ、いいじゃない。クラリスちゃんたちが味方でいてくれるのは事実なんだから。」


花は肩をすくめながらニコリと笑った。

「そういうこと。これからもお菓子でよろしくね!」


弥生が冷静な声でまとめた。

「……花姫様、そういう発言は控えてください。いろいろ誤解を招きますので。」


店内に微妙な空気が流れる中、花は満足げにココアを飲み干した。


「姉としての苦悩」


花がココアを飲みながら、何気なく呟いた。

「それにしても、月姉様がそんなに心配してくれるなんて意外。」


月がピタリと動きを止め、花に向き直る。

「花!私のこと、なんだと思ってるの?!」


花は首を傾げ、無邪気に一言。

「姉」


その瞬間、月はその場にへたり込んだ。

「そうだけど……そうだけど……!」


雪乃が苦笑しながら月の肩に手を置いた。

「まぁまぁ、月。この子はこういう子なんだから。」


月は天を仰ぎながらため息をつく。

「わかってるわよ……わかってるとも……何年もこの子の姉をやってるんですもの……。」


花は不思議そうに二人を見つめた。

「なに?私、何か変なこと言った?」


月は顔を覆いながら小さく呟いた。

「変じゃないけど……破壊力がすごいのよ、花は。」


弥生と忍が少し距離を取りながらその様子を見守る。

「……姫様たちの会話、ちょっとした嵐みたいですね。」

「平和に見えるけど、一瞬で空気が変わる……。これが『魔の奇数姫』の恐ろしさか……。」


クラリスとセリーヌがそっと同意を示しながら、微妙な距離感を保っていた。



エピローグ:魔の奇数姫


開店準備を進める店内で、忍が小声で呟く。

「ところで、『魔の奇数姫』という言葉が、私たち家臣の間で囁かれているんです。」


クラリスとセリーヌが驚きながら問い返す。

「魔の奇数姫?それってどういうことですか?」


忍が少し困った表情で答える。

「奇数の王女様たち、つまり第3、第5、第7王女様が、揃って天才的で……まぁ、言葉を選ばずに言えば、少々個性が強すぎるんです。」


クラリスが納得したように頷く。

「なるほど。確かに雪乃様や月様、そして花様も……。」


セリーヌが興味津々で尋ねる。

「でも、偶数の王女様たちはどうなんですか?」


忍は苦笑いを浮かべて言う。

「第2、第4、第6王女様たちは、ごく普通の方々です。むしろ、王家のバランスを保つために生まれたのかと思うほど穏やかです。」


セリーヌがさらに質問する。

「でも……あの、第1王女様は?」


その瞬間、弥生が慌てて話題を変えようとする。

「さぁ、開店準備を急ぎましょう。今日も忙しくなりますから。」


忍もそれに続き、そそくさと掃除を始める。

「ええ、そうですね。もうお客様が外で並んでますし。」


クラリスとセリーヌは不思議そうに見つめ合いながらも、深く追及はしなかった。










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