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第20話:2人の時間 いちごのモンブラン2:開店時の時間



いつものように月が店外に出て、開店の看板を出してお客を迎えようとすると、そこには既に列ができていた。

列の先頭に立つ一人の男性を見て、月は軽く微笑む。変装しているつもりの第一王子だとすぐに気づいたが、それを悟られないよう、いつも通りの優雅な態度で声をかける。


「お待たせしました。雪の庭、開店です。」


王子は軽く会釈をしながら、開店と同時に店内へと入り、迷うことなくまっすぐ雪乃のもとに向かう。


雪乃は紅茶を手にしていたが、突然の王子の訪問に少し驚いた表情を見せる。


王子は真摯な声で言った。

「雪乃店長、この間の件のお詫びを兼ねて、ぜひ食事にお付き合いいただきたい。」


雪乃は少し戸惑いながら返事をする。

「え?食事ですか?」


迷っている様子の雪乃を見た王子は、優しい笑みを浮かべながら続けた。

「落ち着いた雰囲気のいいレストランを予約しました。きっと気に入っていただけると思います。ぜひお付き合いください。」


雪乃はその言葉にさらに驚く。

「もう予約を?ずるいですわ。」


その場の雰囲気に押される形で、雪乃は招待を受けることにした。

「わかりました。それではお言葉に甘えて……。」


店内では、店員たち、月、花がさりげなく仕事をするふりをしながら、全員が聞き耳を立てていた。


弥生が小声で忍に話しかける。

「第一王子が自ら店長を食事に招待だなんて……これってすごいことですよね。」


忍も小さく頷きながら、花をちらりと見た。

「花様まで気にしているようですね……いや、むしろ楽しんでいる顔にも見えますが。」


花はあざとい笑みを浮かべて、月にささやく。

「月姉様、これって、雪姉様がこの国の王妃になるかもしれないってこと?」


月はため息をつきながら答える。

「気が早いわよ。それに雪姉様、全然気づいていないみたいだし。」


花が不思議そうに首を傾げた。

「雪姉様、やっぱ、鈍感?」


月は花の額を軽く叩きながら、呆れたように言った。

「また、そういうことは言わないの。でも、そうね……雪姉様は案外、気づいていないかもしれないわね。」


そんなやり取りをよそに、雪乃と王子の会話は穏やかに続いていた。

王子の誠意ある態度に、雪乃は少しだけ心を開き始めたようだった――。


「妹としての責任」


月は王子と雪乃のやり取りを少し距離を取って見守りながら、小さく呟いた。

「これは、妹として見守らなくては……。」


その声を聞いた弥生が、真剣な顔で頷きながら言う。

「確かに、何かあっては一大事です。護衛のため、尾行する必要がありますね。」


忍も同意するように腕を組みながら口を挟む。

「そうだな、雪乃様が王子と二人きりだなんて心配すぎますからね。」


クラリスとセリーヌも意気揚々と声を揃える。

「私たちもお供します!絶対に見逃せません!」


そんな彼女たちの様子を見ていた花は、呆れたように肩をすくめながらぽつりと呟いた。

「みんな、ただの野次馬じゃない……。」


月が花を振り返り、少し困った顔をしながら言った。

「野次馬じゃないわよ。これは、姉を思う妹として当然の行動なの。」


花は冷ややかな目で月を見つめる。

「でも、月姉様、護衛って言いながら、ただの興味本位でしょ?」


月は反論しようとしたが、思わず目をそらしてしまう。

「そ、そんなことないわ……きっと……。」


弥生が気を取り直したように口を開いた。

「ともかく、雪乃様を一人にしてはいけません!私たちでしっかり見守りましょう!」


花は再び溜息をつきながら、ボソリと呟いた。

「結局、誰も止められないんだから仕方ないわね……。」


こうして、雪乃の食事会を見守る(という名の尾行)計画が密かに動き始めたのだった――。





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