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第20話:2人の時間 いちごのモンブラン4 :優雅なる特別空間の不協和音



威厳と品格が漂う特別なレストラン――広々とした店内では、全てが完璧な調和を保っているように見えた。しかし、その静寂を破るかのように、突如として店内が小さな騒ぎに包まれた。


「小鳥が侵入しました!」

スタッフの一人が控えめながらも緊張の声を上げる。


レストランに動物が入り込むなど、通常では考えられないことだ。それはこの店の誇る高い品格を損なう重大な問題であり、即座に秘密裏に処理しなければならない。


店内のスタッフたちは、動揺を隠しつつもプロフェッショナルとして迅速に行動を開始した。誰もが天井やカーテンの隙間、壁の上部を目を皿のようにして探し始める。


しかし――小鳥の姿はどこにも見当たらない。


「……本当にいたのか?」

「見間違いじゃないのか?」


ざわつくスタッフたち。しかし、小鳥が確かに侵入したとの最初の報告を否定することはできない。


誰もが気のせいであってほしいと願い、早くこの話題を収束させようと努めた。


――しかし、小鳥の正体を知る者はいなかった。


その小鳥の正体とは、花が作ったマジックアイテム『魔ドローン・ぴよぴよさん』だった。


完全に小鳥に擬態しているぴよぴよさんは、ただの鳥のように見えるだけではない。その隠密性能は驚異的であり、光学迷彩を搭載しているため、背景に完全に溶け込むことができるのだ。


この特別なレストランのように、間接照明の柔らかな光が全体を包む空間では、ぴよぴよさんを視認することはもはや不可能である。


天井の梁の上、カーテンレールの影、どこかの装飾品の陰……ぴよぴよさんは、そんな場所にひっそりと隠れながら、周囲をじっと観察していた。


その姿を見つけられる者は誰一人としていない。そして、彼らがこの侵入者の存在を忘れ、騒ぎが収束するのをぴよぴよさんはただ静かに待っていた。


王子と雪乃が食事を楽しむその間も、ぴよぴよさんはしっかりと映像を捉え、遠くの店内に待機している花たちへとその情報を送り続けているのだった――。


「花の悪趣味(?)」


一方、月の庭では、映し出される映像に花たちが釘付けになっていた。


「ねぇ、本当に観察用だって言ったけど、これ、完全にスパイ用じゃない?」

月がじっと画面を見つめながら呆れたように問いかける。


「そう見えるけど、使い方次第だよ。ね、便利でしょ?」

花は無邪気な笑顔を浮かべて、再びぴよぴよさんの操作を開始した。


その映像には、誰もいないように見えるレストランの天井付近が映し出されていたが、まもなく雪乃と王子が席について優雅に会話を始める様子が映り込むのだった――。

「悪魔の耳を持つ小鳥」


月の庭では、壁に投影された映像が映し出すレストランの様子に、全員が釘付けになっていた。そして、花がポシェットからさらに何かを取り出すと、それは指向性の集音マイクだった。


「これを接続すれば、会話も完璧に聞き取れるよ。」

花が自信満々に言うと、月が驚きの声を上げる。

「花、それ、完全にスパイ行為なんだけど!」


「だって気になるじゃない?雪姉様が王子とどんな話をしてるか、私たちだって知りたいでしょ?」

花は悪びれる様子もなく、ぴよぴよさんの映像に集音マイクの音声を重ね始めた。


――画面からは雪乃と王子が席について優雅に会話をしている姿が見える。

そして、その音声がクリアに拾われてくる。


「雪乃店長、今日はお越しいただきありがとうございます。」

「いえ、こちらこそ。素敵なレストランに招待していただいて。」


花が満足そうに頷きながら小声で呟く。

「ほらね、こうやって会話が全部聞こえるんだよ。」


クラリスが少し戸惑いながら口を開く。

「でも、それって……さすがにやりすぎなんじゃないですか?」


弥生が呆れた顔で言葉を挟む。

「花様、これ、完全に趣味が悪いですよ……。」


しかし、忍は興味津々な表情で画面を見つめながら反論する。

「いや、でも、こういうのがあると、何が起きても対応できるんじゃない?」


月が手を額に当てながらため息をつく。

「対応って……そもそも問題を起こさないのが一番なんだけどね。」


その間も、花はぴよぴよさんの映像を細かく調整し、雪乃と王子の会話を完璧に捉えていた。


「王子様って、こういう場所がよく似合いますね。」

「そう言っていただけて光栄です。しかし、今日の主役は雪乃さんですよ。」


会話の内容は穏やかで、特に怪しいところは見当たらない。しかし、花たちは完全に画面に釘付けだった。


「1000万画素の映像、そして指向性マイクの音質。完璧でしょ?」

花が得意げに説明する中、月が呆れた顔でぼやく。

「花、これ、絶対に悪用しちゃダメだからね……。」


「大丈夫、私が使うときはいつもこうやって慎重に使ってるから。」

花のその言葉に、全員が小さな疑念を抱きながらも映像を見続けるしかなかった――。


そのころ、レストランの中では、スタッフたちが未だに「小鳥騒動」の原因を探していたが、当然見つかるはずもなく、ぴよぴよさんは悠然と天井付近を飛び回っていたのだった――。



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