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第21話:チョコレートテリーヌと三姉妹とぴよぴよさん1:魔導具ペット「ぴよぴよさん」

魔導具ペット「ぴよぴよさん」


朝の「月の庭」は、いつもと変わらない静かな空気に包まれていた。

しかし、その日は少しだけ異変があった。


「……何、この小鳥?」

店のカウンターで紅茶を飲んでいた雪乃が、不思議そうに頭上を見上げる。


そこには、小さな鳥――ぴよぴよさん――が旋回して飛び回っていた。


「ずっと頭の上を飛んでるんだけど?」

雪乃が首を傾げると、奥から出てきた月がすぐにその状況を察した。


「花!あんたのペット、ちゃんとしまってよ!」

月が鋭く花を呼びつける。


「え?ぴよぴよさん?」

呼ばれた花は、のんびりと現れると、小鳥を手招きする。


「おいで、ぴよぴよさん。」

すると、小鳥は花の手のひらにピタリと止まり、可愛らしく鳴いた。


「……これ、魔導具よね?」

弥生が小声で呟いた。雪乃以外の店員たちは、ぴよぴよさんの正体を知っている。

先日の雪乃のデートの監視に利用された「魔道ドローン」であることを――。


だが、それを雪乃には知られてはいけない。

弥生がすかさずフォローする。

「雪乃様、この子は花様が作った『魔導具ペット』なんですよ。」


「魔導具ペット?」

雪乃が怪訝な表情を浮かべる。


花は慌ててポシェットからケーブルを取り出すと、ぴよぴよさんの頭に突き刺した。


「……なにしてるの?」

雪乃の視線が険しくなる。


「データをチェックしてるの。」

花は慌てながらも端末を操作し始める。魔道端末の画面には、ぴよぴよさんが記録した映像や音声データが次々と表示される。


「これ、絶対に普通のペットじゃないよね?」雪乃が怪しむ。


弥生が冷や汗をかきながら、ごまかすように笑う。

「いえいえ、ほら、観察用の魔導具で、野鳥の動きを真似してるだけですから!」


「野鳥の動きって……データを取る必要があるの?」


「はい!」

弥生、忍、セリーヌの全員が揃って返事をする。そのあまりの勢いに、雪乃は少し気圧される。


「そういうものなの?」

「そういうものです!」


花は端末をいじりながら、小声で呟いた。

「……プログラムにバグがあるなぁ……雪姉様の追跡命令がまだ消えてない……普通は自動でデリートされるのに。」


それを聞いていた弥生が、慌てて花を肘でつついた。

「花様!声に出して言わない!」


「え?」花は顔を上げたが、周りの焦りには気づかず、画面を睨み続ける。


「とにかく、この子はペットのふりをしておいて!」

月が冷静にフォローに入る。


「……まあいいわ。可愛いから許すけど。」

雪乃がそう言うと、店員たちは全員安堵のため息をついた。


「でも、早くそのケーブル外して、ポシェットにしまいなさい。」


「わかったわ。」

花は端末の操作を終え、ぴよぴよさんのプログラムを修正した。そしてケーブルを外し、ポシェットにしまおうとしたが――。


「あれ?」


ぴよぴよさんはポシェットに入らず、ふわりと舞い上がると、今度は花の頭の上に止まった。


「なんで?」

花が不思議そうに呟く。


月は苦笑しながら言った。

「それ、まだ完全には直せてないんじゃない?」


「いや、データの削除は終わったはずだけど……ああ、優先指令の優先順位が入れ替わってる!」

花は端末を見つめながら、プログラムのエラーを見つけて頭を抱えた。


「どういうこと?」雪乃が首をかしげる。


「えーっと、この子、私の頭の上に乗るのがデフォルト動作になっちゃってるみたいで……。」


「そんなの直してよ!」


「うん……でも、これ以上は解析に時間がかかるから、閉店後じゃないと無理。」


花はため息をつきながら、頭の上に止まったぴよぴよさんをそっと撫でた。


こうして、花は一日中、頭にぴよぴよさんを乗せて働く羽目になった。お客たちからは「可愛い!」と好評だったが、花にとっては、恥ずかしさでいっぱいの一日になる予感しかしなかった――。



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