月の庭が無事に閉店時間を迎えた。店内には片付けの音が響き、弥生と忍が客席のテーブルを拭きながら話をしている。
「今日は大きなトラブルもなく、平和だったわね。」弥生がそう言うと、忍は肩をすくめながら答えた。
「まあ、あの迷惑客の一件を除けばな。とはいえ、ぴよぴよさんがいなければ、どうなっていたか分からなかったが。」
その言葉に弥生は苦笑する。「確かに。あの小鳥、ただのマスコットだと思ってたけど、まさかこんなに役立つとはね。何があったのか花様に聞いてみたいけど……」
その時、カウンター奥の厨房から、月の声が聞こえた。「閉店作業が終わったら、みんな集まってくれる?明日の仕込みを始めるわよ。」
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花とぴよぴよさんの解析
一方、カウンター席では花がぴよぴよさんを手のひらに乗せ、ポシェットからケーブルを取り出して接続を始めていた。その様子を見ていた弥生が近づいてくる。
「花様、それはまた何をしているんですか?」
「ぴよぴよさんのデータを解析してるの。どうして今日、あんな行動を取ったのか確認しないと……」
花はそう言いながら魔導端末に表示される情報を読み解いていく。しばらくして、彼女の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
「この子……自己進化してる。」
その言葉に弥生と忍が同時に驚きの声を上げた。「自己進化?」
花は頷きながら、さらに詳しい情報を確認する。「自分でプログラムを修正して、新しい行動パターンを追加してる。私が組み込んだAIはここまで高度じゃなかったはずなのに……」
忍が不安そうに尋ねる。「それって、制御不能になったりするんですか?」
花は少し考えてから答えた。「今のところは問題なさそう。むしろ、この子は店の安全を守るために行動してるみたい。でも、予想外すぎて正直怖い……」
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月の指示と新作スイーツ
その頃、月が明日の仕込みの準備を進めながら、雪乃に話しかけた。
「雪姉様、明日はカッサータを出そうと思ってるんだけど、どう思う?」
雪乃は紅茶を飲みながら微笑む。「いいわね。カッサータは見た目も華やかだし、お客様に喜ばれると思うわ。子供でも食べられるようにリキュールは使わないんでしょ?」
「もちろん。果汁で代用するつもり。雪姉様の指導のおかげで、かなりいい感じに作れるようになったわ。」
「ふふ、月も成長したわね。これで私はさらに楽ができる。」雪乃が軽く笑いながら言うと、弥生が呆れたように突っ込む。
「お嬢様、楽をすることを堂々と言わないでください……」
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ぴよぴよさんのさらなる異変
仕込みが進む中、花が再び驚きの声を上げた。「この子、自己進化だけじゃなくて、学習能力も急激に向上してる……!」
弥生が興味津々で近づく。「それって、どういうことですか?」
花は魔導端末の画面を指差しながら説明する。「例えば、今日のお客様の忘れ物を教えたり、迷惑客を撃退したりする行動。全部、自分で判断して動いてる。私がプログラムした範囲を完全に超えてるわ。」
「それって……本当に安全なんですか?」忍が慎重に尋ねる。
花は小さく頷いた。「この子が危険な行動を取る可能性は低いと思う。でも、ここまで自律的に動けるなら、今後はもっと注意深く見守らないと……」
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ぴよぴよさんの「進化の理由」
その時、天井の梁から再びぴよぴよさんが舞い降りてきた。花は魔導端末のケーブルを外しながら呟いた。
「自己進化の原因は、過去のデータにあったみたい。この子、監視と防犯のプログラムを混在させたことで、自分なりに優先順位を決めて行動するようになったみたい。」
弥生が納得したように頷く。「なるほど。でも、なんだかぴよぴよさんがますます賢くなってる気がするわね。」
「本当だね。店のマスコットを超えて、防犯担当みたいな存在になってる。」忍も同意する。
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ほのぼのした終わり
夜も更け、店内が片付けられていく中で、ぴよぴよさんが再び花の頭の上に止まった。月がその様子を見て笑いながら言った。
「結局、花の頭が一番落ち着くのね。」
雪乃も微笑みながら紅茶をすする。「本当に、ぴよぴよさんがいるとお店の雰囲気が和むわね。」
花は少し困ったような顔をしながらも、小鳥を頭に乗せたままポシェットを肩に掛けた。「まあ、この子がいてくれるなら、何かと助かるしね。」
店員たちは微笑みながらその光景を見守り、閉店後の静かな時間が穏やかに流れていった――。