朝の準備が整い、いつものように月が店のドアを開ける。
「雪の庭、開店です。本日のスイーツは、フルーツサンドとパンの耳チョコレートラスクです。ラスクにはレシピをお付けしますので、ぜひご家庭でもお試しください!」
明るい声が店の外に響き渡ると、すぐにお客様たちが店内へと入ってきた。
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店内では雪乃がいつもの定位置でお茶を楽しんでいる。ただし、今日はいつもと少しだけ違う光景があった。雪乃の頭の上に、小さなぴよぴよさんがちょこんと止まっているのだ。
「……花なら可愛いけど、私だと間抜けにしか見えないわね。」
雪乃はため息をつきながら、頭の上の小鳥をちらりと目で確認した。
「雪姉様、ぴよぴよさんってば、本当に雪姉様が好きなんですね。」
月が笑顔を浮かべながら声をかける。
「好きというより、守っているつもりらしいわ。でもこのままじゃお客様に笑われてしまう。」
そう言って雪乃は軽く手で追い払おうとしたが、ぴよぴよさんは器用にバランスを保ち、どこまでも離れようとしない。
「雪乃様、それも可愛いですよ。」
クラリスが控えめに微笑みながらフォローを入れる。
「可愛いかどうかは別として、お客様が『店長さんがペットを飼い始めたのか』なんて勘違いしないか心配よ。」
雪乃は紅茶を一口飲みながら冷静に返す。
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スイーツを求めるお客様で店内は次第に賑やかになってきた。今日の目玉であるフルーツサンドとパンの耳チョコレートラスクは、開店直後から好評だった。
「フルーツサンド、見た目も可愛いし、フルーツの甘さとクリームが絶妙ね!」
「このラスク、パンの耳とは思えないくらい美味しいわ!」
お客様たちの感想が次々と飛び交う。
月がスイーツを提供しながら満足そうに微笑んだ。
「フルーツサンドは、新鮮なフルーツを贅沢に使っているので、より一層美味しく感じていただけるんです。ラスクは雪姉様のアイディアなんですよ。パンの耳でもここまでお洒落に仕上げられるんです。」
「ほんとだ、パンの耳なんて思えない!このレシピ、家でも作れるかしら?」
「もちろんです。ラスクにはレシピを添えておりますので、ぜひお試しください!」
弥生がフロアを回りながら、お客様の対応をしていると、雪乃の頭上のぴよぴよさんが注目を集め始めた。
「あら、小鳥さんが頭に乗っているわ!店長さん、可愛いペットをお持ちなんですね!」
「ペットではないんです。ただの……魔導具ペットみたいなものです。」
雪乃が苦笑しながら適当にごまかすと、周りのお客様たちは「かわいい!」と大盛り上がり。
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一方、厨房では月が次々とスイーツを仕上げながら弥生に声をかけていた。
「ラスクが思った以上に人気みたいね。雪姉様に感謝しないと。」
「本当に。パンの耳がこんなにお洒落になるなんて驚きです。」
弥生が感心したように答える。
厨房の片隅では、花が自分のポシェットを開き、何かをいじっていた。
「ぴよぴよさんの挙動、やっぱりちょっとおかしい気がする……。あとでチェックしないと。」
小声で呟きながら、魔導端末を取り出して設定を確認している。