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第24話:突然の訪問と抹茶ティラミス1:抹茶ティラミスと星姫様



閉店後の「雪の庭」は、静まり返った店内で明日のスイーツについて話し合いが始まっていた。雪乃は、紅茶を一口飲みながら穏やかな声で提案する。


「明日のスイーツは、何にしましょうか?」


月がカウンターで帳簿を確認しながら答える。 「そうですね、フルーツサンドも好評でしたし、次は少し趣向を変えてみたいですね。」


花はカウンターの端で小さなメモ帳に何やら書き込みながら顔を上げる。 「抹茶を使ったスイーツなんてどうかな?最近お客さんから抹茶メニューが欲しいって声があったし。」


「抹茶ね……いいわね、和風で新しい挑戦になりそう。」雪乃が笑みを浮かべる。


月も頷きながら提案する。 「じゃあ、抹茶ティラミスにしてみますか?イタリアンスイーツと和の融合で、きっと面白い一品になると思います。」


そんな和やかな雰囲気の中、突然店のドアが開く音が響いた。閉店後のはずなのに、誰かが入ってきたのだ。


「え……?」クラリスが眉をひそめ、対応する。 「申し訳ありません。当店は閉店しております。」


しかし、その来訪者を見た瞬間、雪乃、月、花の表情が変わる。驚きと困惑、そして少しの焦りが交錯した。


「星姉様……!」雪乃が静かに呟く。


現れたのは、一人の女性だった。気品ある微笑みを浮かべ、落ち着いた足取りで店内に進むその姿は、一目でただ者ではないことを物語っている。


「抹茶のティラミスが食べたいわ。」星姫――ジパング王国の第二王女が、当然のように告げる。


クラリスとセリーヌは驚愕の表情を浮かべた。 「第二王女様……?」


弥生が小声で二人に説明する。 「あの方が第二王女、星姫様です。慈愛の姫と呼ばれる方ですよ。」


クラリスとセリーヌは硬直したようにその場に立ち尽くす。彼女たちにとって、王族の突然の来訪は想像を超えた出来事だった。


「ふふふ、月も花もこんなところで働いているなんて、本当に驚いたわ。」星姫は柔らかな笑顔を浮かべ、視線を月に向ける。


月は焦った様子で手を振る。 「星姉様、これは……その、事情があって……」


星姫は微笑を崩さず言葉を続けた。 「月、散歩に出ると言ったきり行方不明になって、大騒ぎだったのよ。どうするつもり?」


「えっと、それは……ごめんなさい!」月は勢いよく頭を下げた。


星姫はため息をつきながら言う。 「しょうがない子ね。父上――国王陛下には、私が取りなしておくわ。」


「ありがとうございます!」月は安堵の表情を浮かべた。


次に星姫は花に目を向ける。 「花、あなたも本国の部屋にいたはずでは?」


花はバツが悪そうに目を逸らしながら答える。 「えっと……それは……ごめんなさい。」


星姫は優しく微笑みながら頭を撫でる。 「素直な子は好きよ。あなたの件も、父上に私が話しておくわね。」


「ありがとうございます、星姉様……!」花は心から感謝の言葉を述べた。


雪乃が不思議そうに尋ねる。 「ところで、星姉様はどうしてここに?」


星姫は紅茶を一口飲むと、涼やかな声で答えた。 「あなたとあなたのお店を見に来たかったのよ。」


雪乃は少し訝しげに眉をひそめる。 「それだけ……?」


星姫は軽く首を振り、笑みを浮かべた。 「それはついで。本当は、この国と正式な友好条約を結ぶための根回しに来たの。私は非公式使節よ。その後、正式な調印が行われる予定なの。」


「調印には父上が来られるのですか?」雪乃が尋ねる。


「いいえ。陛下の代理として、壱姉様――第一王女様がいらっしゃるわ。」


「はぁっ!?壱姉様が……!?」雪乃、月、花、弥生は全員が驚愕の声を上げた。


クラリスとセリーヌは、突然の王族の話題に困惑しながらも、ただその場に立ち尽くしていた。


慈愛の姫と呼ばれる星姫の登場で、「雪の庭」の静かな夜は、一転して波乱に満ちたものとなった――。



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