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第24話:突然の訪問と抹茶ティラミス3 :雪乃の婚約話



星姫がこの国に滞在することになった理由は、友好条約の条件が折り合うまで交渉を続けるためだった。閉店後の静かな店内に、いつもの姉妹の賑やかさとは違う、どこか緊張感のある空気が漂う。


「第一王子が雪乃との婚約を望んでいるの。あなたの気持ちを確認しておきたいわ。」


星姫がさらりと放った言葉に、店内の時間が一瞬止まったようだった。


「ええ!?」

雪乃は驚きで声を上げた。予想外の話題に、表情が完全に固まってしまう。


「ええじゃないわよ、雪乃姉様!」

月がすかさず反応し、テーブルを叩きながら立ち上がる。

「どうしてその話をこんな急に!?聞いてないわよ!」


「急な話に感じるかもしれないけれど、実はこの件、ずっと前から水面下で進んでいたのよ。」

星姫は落ち着いた様子で紅茶を一口飲むと、優雅に微笑んだ。


「わたしは、そんなつもりは…」

雪乃は慌てて首を振るが、星姫の真剣な眼差しに言葉を詰まらせた。


「貴女が望まないなら、条件は見直すわ。私がこの国の使節として交渉を担当している間に、きちんと確認しておきたいだけよ。政略結婚を強要されるようなことがあってはならないから。」

星姫の言葉には、姉としての慈愛と使節としての使命感が込められていた。


「でも、もし相手がゴリ押してきたらどうするのですか?」

雪乃は不安げに尋ねる。


「その場合は壱姉様が何とかするでしょう。」

星姫はさらりと言った。


「何とか…?」

月が眉をひそめる。

「具体的には?」


「そうね…多分、友好条約をぶち壊すだけじゃ済まないかもしれないわね。この国そのものを壊しかねないわ。」

星姫は静かに言葉を紡いだ。その言葉に、店内は再び静まり返る。


「えええええっ!?」

今度は全員が悲鳴を上げた。花でさえ目を丸くして驚きを隠せない。


「壱姉様ってそんなに危険な方なんですか!?」

花が恐る恐る聞く。


「危険というよりも、政略結婚を快く思っていないのよ。彼女は、自分の意志で行動することにとても強い信念を持っているの。」

星姫は、どこか懐かしむような表情で説明する。


「それって、むしろ危険では…?」

月が疑念を口にする。


「大丈夫よ。壱姉様が暴走しないよう、わたしがここにいる間にできる限りのことをするつもりだから。」

星姫は涼しい顔で答えた。


「でも、どうしても結婚の話が進んだら…?」

雪乃は不安そうに問いかける。


「その時は、壱姉様が全力で相手を黙らせるでしょうね。もっとも、そのためにこの国の未来がどうなるかは保証できないけれど。」

星姫は微笑んだまま続ける。


「……」

店内には、再び不安な沈黙が流れた。


「雪姉様、これって一大事よ!」

月が焦りの表情を浮かべる。


「わたしにどうしろと…」

雪乃は頭を抱えた。


「答えを急ぐ必要はないわ。」

星姫は優しく語りかけた。

「条約締結までは時間がかかるもの。少なくとも、その間に考える余裕はあるはずよ。」


「そうですね…」

雪乃は息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。


「とにかく、明日のスイーツは抹茶プリンでお願いするわね。」

星姫は突然話題を切り替え、いつもの慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


「こんな時に…」

雪乃は苦笑いを浮かべたが、星姫の存在に少しだけ救われた気がした。


その夜、雪乃は布団の中で何度も頭を抱えながら、王子との婚約について悩むことになった。



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