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第27話:本日のスイーツはフルーツ大福セット 開店 3:トラブル発生



雪の庭は、フルーツ大福セット目当ての客で満席状態だった。店内は和やかな雰囲気に包まれていたが、その空気を一変させる怒号が響いた。


「テメー!ふざけるなよ!」

赤ら顔の小太りの中年男が、立ち上がりながら怒鳴る。向かいには、やせ型の若い男性が困惑しつつも苛立った様子で応じた。

「だから、謝ってるじゃないか!」


その一言でさらにヒートアップする中年男が、椅子を蹴るようにして詰め寄る。

「謝った?ふざけんな!何が『すまん』だ!それが謝罪になると思ってんのか!」

「ちょっと肩が触れただけだろ!そんなことで大騒ぎするなよ!」


二人の声が店内に響き渡り、周囲の客たちは小声でざわつき始めた。カップを持つ手を止め、事態を見守る者もいる。店内の平和だった空気が緊張感に飲まれていった。


その中、ヴィクトリアが音もなく二人の間に割って入った。冷静で柔らかな声が響く。

「お客様、こちらのお客様も謝罪されたことですし、お怒りを鎮めてくださらないでしょうか?」


しかし、中年男は顔を歪め、さらに声を荒げた。

「あんな態度で謝ったって、謝ったうちに入るかよ!」


ヴィクトリアは微笑みを崩さず、やせた若い男性に視線を向けた。

「もう一度、謝罪されてはいかがでしょうか?」


不満げに眉をひそめた若い男性は、渋々と頭を下げた。

「申し訳なかった。」


ヴィクトリアは再び中年男に向き直り、穏やかに語りかける。

「こちらのお客様は、このように謝罪されています。どうぞお怒りをお鎮めくださいませ。」


だが、中年男の怒りは収まる気配を見せなかった。

「誠意が感じられない!」


その言葉に若い男性もついに苛立ちを爆発させる。

「なんだと!お前、何様のつもりだ!」


再び緊張が高まり、二人の間に火花が散る。店内の空気は一層張り詰めたものになった。


「これ以上騒ぎ立てるようであれば、お帰りいただくしかございませんが?」

ヴィクトリアの声は穏やかだが、明確な警告が含まれていた。


「なんだと!それが客に対する言い草かよ!」

中年男が逆上し、拳を振り上げた。だが、その瞬間、天井の梁に隠れていたぴよぴよさんが急降下してきた。攻撃態勢に入るぴよぴよさん。しかし、それより早くヴィクトリアが動いた。


中年男の腕を素早く掴み、ひねり上げる。男は悲鳴を上げて身をよじらせた。

「い、痛え!何しやがる!」


ヴィクトリアは冷静な顔を崩さぬまま、男を店の外へと誘導する。

「申し訳ございませんが、こちらへどうぞ。」


扉の外で一礼しながら、ヴィクトリアは言った。

「毎度ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております。」


その瞳には冷たい光が宿り、「二度と来るな」と言わんばかりの威圧感を漂わせていた。


店内に戻ると、ヴィクトリアはやせた若い男性に向き直り、穏やかな声をかけた。

「あなたもお帰りになられますか?」

男性は慌てて首を振り、苦笑いを浮かべた。

「い、いえ、まだコーヒーが残っていますので……。」

「では、ごゆっくりどうぞ。」


その対応に周囲の客たちもホッと胸を撫で下ろし、店内の空気が少しずつ元に戻っていく。


一方、急降下しかけていたぴよぴよさんは、空中でホバリング状態のままフリーズしていた。ヴィクトリアはその姿を見つめ、小さく微笑むと、そっと手で包み込むようにしながら囁いた。

「あなたの手を煩わせるほどのことではありません。またお店を見守っていてくださいね。」


その言葉に促されるように、ぴよぴよさんはふらふらと飛び立ち、なぜか花の頭の上に止まった。小さな頭をかしげ、目をパチクリとさせている。


「ぴよぴよさん、何してるの?」

花が不思議そうに呟きながら頭を軽く揺らすと、ぴよぴよさんはバランスを崩して小さく羽ばたいた。


遊びテーブルで一部始終を見ていた月が、大福をつまみながら呟いた。

「やっぱりヴィクトリアってすごいよね。あの大騒ぎをあっという間に収めちゃうなんて。」


雪乃は紅茶を飲みながら静かに微笑む。

「それがヴィクトリアの力よ。この店がどんなに忙しくても、彼女がいれば安心できる。」


雪の庭は再び静けさを取り戻し、穏やかな日常が戻ってきた。




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