店内の奥、雪乃たちが座る遊びテーブルから、花の驚いた声が響いた。
「え? 嘘、いつの間に?」
魔道端末をいじっていた花が声を上げると、のんびり紅茶を飲んでいた雪乃が首を傾げる。
「どうしたの?」
花は眉をひそめながら端末をスクロールし続ける。
「ないとほーくとぴよぴよさんが、相互データ通信を度々してる。」
「相互データ通信?」月が首を傾げる。
「それって……?」
雪乃が紅茶を置き、意味を察したように言葉を続けた。
「私たちのデータログが、壱姉様に筒抜けということよね。」
「え?」月は驚きの声を上げる。
花は淡々と頷きながら答える。
「そうなる。」
---
月の動揺と花の冷静さ
「二人とも、何のんきな……!」月は苛立った声を上げた。
しかし、花は端末を操作しながらむしろ興味深げに呟く。
「いつの間にこんなものを構築したのかしら?さすが壱姉様……ないとほーくとぴよぴよさんのデータを基にアップデートされて、進化してたわけだ。どおりで予想外の進化を見せていたわけだわ。」
月は半ば呆れたように、そして焦りながら声を上げる。
「花、落ち着いてる場合じゃないでしょう?」
「ん? 見ず知らずの相手ならともかく、壱姉様は身内だから、慌てることもないでしょ。」
花の言葉に月は頭を抱える。
「慌てるわよ!むしろ、見ず知らぬ誰かの方がマシかもしれないくらいに慌てるわよ!」
---
雪乃の冷静さ
雪乃は二人のやり取りを静かに聞きながら、小さくため息をついた。
「まぁまぁ、今さら慌てても仕方ないわ。流れてしまったデータは、どうすることもできないもの。」
その言葉に、月は不満そうな表情を浮かべる。
「そうだけど、雪姉様、落ち着きすぎです!」
花も雪乃に同調するように言った。
「月姉様、データ共有はぴよぴよさんの進化に役立つし、悪いことばかりじゃないよ。」
---
月の反論
「花まで……情報漏洩は、大問題よ!」月はテーブルを叩きそうな勢いで叫んだ。
しかし、雪乃はどこまでも冷静なまま。
「確かに情報漏洩は問題だけど、壱姉様がこのデータをどう使うか次第よね。少なくとも、壱姉様が私たちに害をなすようなことはしないと思うわ。」
月はますます苛立った様子で返す。
「それが問題なのよ!壱姉様の場合、私たちに害はなくても、やりすぎる可能性が高いんだから!」
花は一瞬考え込んだ後、楽しそうに微笑む。
「それも確かに、壱姉様らしいかもね。」
:それぞれの考え方
三人それぞれの反応が交錯する中、遊びテーブルの周りには妙な空気が漂った。
雪乃は紅茶を一口飲み、穏やかな声で締めくくる。
「まぁ、今さら何を言っても壱姉様は止められないわ。私たちはできることをやりましょう。」
月は深いため息をつき、納得できないまま呟く。
「できること……って、具体的に何をするのよ。」
花は笑みを浮かべながら端末を閉じた。
「データ共有がもたらす進化を楽しむのも悪くないと思うけどね。」
三人のやり取りが続く中、雪の庭はいつも通りの賑やかさを取り戻していた――。
---
雪乃たちが座るテーブルには、険しい空気が漂っていた。花が魔道端末を操作しながら淡々と話す。
「相手が壱姉様の場合、問題が大きすぎる。ここで通信を遮断した場合のリアクションと、このまま通信をそのままにした場合、どちらで被害が拡大するか、まったく読めない。」
その言葉に、月は目を見開き、絶句する。
「遮断したことで壱姉様が直接ここに乗り込んでくる……なんてことも、普通に予想されるわ。」
月の顔に浮かぶのは焦りと困惑。そして、雪乃は紅茶を一口飲みながら冷静に提案を口にした。
「通信障壁を作って、当たり障りのないデータだけを流すようにするのはどうかしら。」
花はその提案に頷く。
「一種のフィルタリングね。可能だと思う。」
「それしかなさそうね……。」
諦めたような顔で月が呟いた。
---
データフィルタリングの構築
花は端末に向かい、指を走らせながらプログラムを組み始める。画面には複雑な魔法陣のようなコードが次々と表示されていく。
「でも、そうすると……ないとほーくも予想外の進化をしているってことになるわね。」
データの入力を続けながら、花は自分の考えをまとめるように呟いた。
「ないとほーくも……?それってどういうこと?」月が花を見つめて問いかける。
花は端末を操作しながら言葉を続けた。
「ないとほーくは、ぴよぴよさんのデータをもとにアップデートされて進化してる。しかも、そのデータが壱姉様の手でさらに強化されてる可能性が高い。」
「つまり……ないとほーくが、ぴよぴよさん以上に未知数の存在になっているってこと?」
雪乃が静かにまとめると、花は小さく頷いた。
「そう。データ通信が続いている間、壱姉様の技術力でどんどん進化している。だからこそ、フィルタリングである程度こちらの情報を制御しないと、こちらの手の内が完全に読まれる可能性があるわ。」
---
最善策を求めて
月は頭を抱えながら溜め息をついた。
「結局、壱姉様の方が一枚も二枚も上手ってことね……。」
「そうね。」雪乃は落ち着いた口調で答える。
「だから、できるだけ被害を抑えられる形にしておくのが最善策よ。」
花は手を止めずに続ける。
「フィルタリングで一定のデータだけ流せば、壱姉様が満足する可能性も高い。少なくとも、直接乗り込んでくるリスクは減らせるはず。」
「それに賭けるしかないわね。」月がしぶしぶ納得する。
---
結論:新たな進化への一歩
花が最後の入力を終え、端末の画面に「通信障壁設置完了」の文字が表示される。
「これで、最低限のデータだけが共有されるようにしたわ。」
雪乃が微笑みながら言った。
「ありがとう、花。これで少しは安心できるわね。」
月は納得しきれない表情を浮かべながらも、花の努力を認めるように頷く。
「まあ、これ以上の混乱は避けられるかもしれないわね……でも、相手が壱姉様だから気は抜けない。」
花は端末を閉じながら呟いた。
「そうね。でも、同時にないとほーくとぴよぴよさんの進化が楽しみでもあるわ。これからどうなるのか……。」
雪乃は静かに笑みを浮かべ、紅茶を再び手に取った。
「進化を恐れる必要はないわ。それをどう使うかが、私たちに問われているのよ。」
雪の庭に再び穏やかな空気が戻る中、三人はそれぞれに考えを巡らせていた――。
-