朝の柔らかな陽射しが雪の庭を包む中、ヴィクトリアは厨房でエプロンを整え、スイーツの準備を進めていた。
「本日のスイーツはマドレーヌでございます。」
彼女の落ち着いた声が響き、スタッフたちはその声に促されるように動き始める。
ヴィクトリアは材料を丁寧に計量しながら、工程を説明していく。
「バターと砂糖をクリーム状になるまでしっかり混ぜることがポイントです。この工程を丁寧に行うことで、生地がふんわりと焼き上がります。」
彼女の動作は一切の無駄がなく、見ているだけで自然と手順が理解できるほどに整然としていた。
弥生が感嘆の声を漏らす。
「さすがヴィクトリアさん、手際が良すぎますね。」
ヴィクトリアは控えめに微笑みながら答える。
「ありがとうございます。でも、皆様がしっかり動いてくださるからこそ、スムーズに進められるのです。」
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遊びテーブルの三姉妹
一方、店の奥の遊びテーブルでは、雪乃、月、花の三人がそれぞれの時間を過ごしていた。
雪乃は紅茶を片手にのんびりとした表情で厨房を眺めている。
「マドレーヌね……今日のお客様にも喜ばれそうだわ。」
月は少し不満げにテーブルに肘をつきながら小さくため息をついた。
「どうして私たちは、いつもここに座ってるだけなんだろう……。」
雪乃は紅茶を一口飲みながら答える。
「無理して働かなくても、ヴィクトリアがいれば安心でしょ?」
月は唇を尖らせながら言い返した。
「そういう問題じゃないの!店長代理としての役割があるのに、何もさせてもらえないなんて……。」
その隣で花は、魔道端末をいじりながら何かを調整していた。
「ぴよぴよさんの新しいアルゴリズムを微調整してるの。昨日のフィルタリングが影響して、少し挙動が変わったみたいだから。」
月は呆れたように肩をすくめた。
「花って、本当にマイペースよね。」
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扉が開く音
その時、店の扉が静かに開いた。軽やかな足音が響き、一人の少女が店内に入ってきた。
少女は黒髪を持ち、鋭い眼差しをしている。彼女の佇まいには威厳があり、どこか冷たい雰囲気を纏っていた。
少女は店の中央で立ち止まり、静かに口を開いた。
「お初にお目にかかります。私は鷹乃 夜と申します。壱姫様の使いで参りました。」
その名を聞いた瞬間、店内の空気が一変する。雪乃、月、花、さらにはヴィクトリアも驚きの表情を浮かべた。
雪乃が静かに立ち上がり、鷹乃 夜に向き直る。
「壱姉様の使い……?どういうご用件かしら。」
鷹乃 夜は冷静な表情のままヴィクトリアの方へ向き直り、丁寧に書状を差し出した。
「ヴィクトリア、これは壱姫様からの命令です。」
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緊張する店内
ヴィクトリアは一瞬戸惑いながらも書状を受け取り、その場で開く。中には厳然たる命令が記されていた。
「帰国せよ――。」
その言葉に、ヴィクトリアの表情が微かに揺らぐ。雪乃たちも言葉を失い、ただ彼女を見つめていた。
やがてヴィクトリアは静かに書状を畳み、深呼吸して冷静さを取り戻す。そして毅然とした態度で頭を下げた。
「雪乃様、月様、花様……私は壱姫様の命令に従います。」
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月と花の反応
その言葉に店内は一層の静寂に包まれた。
月が声を荒げる。
「そんな! ヴィクトリアがいなくなったら、店はどうなるのよ?」
雪乃は冷静を装いながらも心中では動揺を隠せない。
「ヴィクトリア、あなたの決断は固いのね?」
「はい。壱姫様の命令には逆らえません。」
その言葉に、月は悔しそうに唇を噛む。
花は端末を操作しながら、小さなため息をついた。
「壱姉様がわざわざ使者を送るなんて、相当重要な理由があるんでしょうね。」
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ヴィクトリアの覚悟
ヴィクトリアは雪乃たちを見回し、静かに微笑んだ。
「短い間でしたが、皆様と共に過ごせた時間は、私にとってかけがえのないものでした。」
その言葉に、雪乃は小さく頷き、月はそれ以上何も言えなくなってしまう。