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第29話 マドレーヌとヴィクトリア1:いつも通りの日常



朝の柔らかな陽射しが雪の庭を包む中、ヴィクトリアは厨房でエプロンを整え、スイーツの準備を進めていた。


「本日のスイーツはマドレーヌでございます。」


彼女の落ち着いた声が響き、スタッフたちはその声に促されるように動き始める。

ヴィクトリアは材料を丁寧に計量しながら、工程を説明していく。


「バターと砂糖をクリーム状になるまでしっかり混ぜることがポイントです。この工程を丁寧に行うことで、生地がふんわりと焼き上がります。」


彼女の動作は一切の無駄がなく、見ているだけで自然と手順が理解できるほどに整然としていた。


弥生が感嘆の声を漏らす。

「さすがヴィクトリアさん、手際が良すぎますね。」


ヴィクトリアは控えめに微笑みながら答える。

「ありがとうございます。でも、皆様がしっかり動いてくださるからこそ、スムーズに進められるのです。」



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遊びテーブルの三姉妹


一方、店の奥の遊びテーブルでは、雪乃、月、花の三人がそれぞれの時間を過ごしていた。


雪乃は紅茶を片手にのんびりとした表情で厨房を眺めている。

「マドレーヌね……今日のお客様にも喜ばれそうだわ。」


月は少し不満げにテーブルに肘をつきながら小さくため息をついた。

「どうして私たちは、いつもここに座ってるだけなんだろう……。」


雪乃は紅茶を一口飲みながら答える。

「無理して働かなくても、ヴィクトリアがいれば安心でしょ?」


月は唇を尖らせながら言い返した。

「そういう問題じゃないの!店長代理としての役割があるのに、何もさせてもらえないなんて……。」


その隣で花は、魔道端末をいじりながら何かを調整していた。

「ぴよぴよさんの新しいアルゴリズムを微調整してるの。昨日のフィルタリングが影響して、少し挙動が変わったみたいだから。」


月は呆れたように肩をすくめた。

「花って、本当にマイペースよね。」



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扉が開く音


その時、店の扉が静かに開いた。軽やかな足音が響き、一人の少女が店内に入ってきた。


少女は黒髪を持ち、鋭い眼差しをしている。彼女の佇まいには威厳があり、どこか冷たい雰囲気を纏っていた。


少女は店の中央で立ち止まり、静かに口を開いた。

「お初にお目にかかります。私は鷹乃 夜と申します。壱姫様の使いで参りました。」


その名を聞いた瞬間、店内の空気が一変する。雪乃、月、花、さらにはヴィクトリアも驚きの表情を浮かべた。


雪乃が静かに立ち上がり、鷹乃 夜に向き直る。

「壱姉様の使い……?どういうご用件かしら。」


鷹乃 夜は冷静な表情のままヴィクトリアの方へ向き直り、丁寧に書状を差し出した。

「ヴィクトリア、これは壱姫様からの命令です。」



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緊張する店内


ヴィクトリアは一瞬戸惑いながらも書状を受け取り、その場で開く。中には厳然たる命令が記されていた。

「帰国せよ――。」


その言葉に、ヴィクトリアの表情が微かに揺らぐ。雪乃たちも言葉を失い、ただ彼女を見つめていた。


やがてヴィクトリアは静かに書状を畳み、深呼吸して冷静さを取り戻す。そして毅然とした態度で頭を下げた。


「雪乃様、月様、花様……私は壱姫様の命令に従います。」



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月と花の反応


その言葉に店内は一層の静寂に包まれた。


月が声を荒げる。

「そんな! ヴィクトリアがいなくなったら、店はどうなるのよ?」


雪乃は冷静を装いながらも心中では動揺を隠せない。

「ヴィクトリア、あなたの決断は固いのね?」


「はい。壱姫様の命令には逆らえません。」


その言葉に、月は悔しそうに唇を噛む。


花は端末を操作しながら、小さなため息をついた。

「壱姉様がわざわざ使者を送るなんて、相当重要な理由があるんでしょうね。」



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ヴィクトリアの覚悟


ヴィクトリアは雪乃たちを見回し、静かに微笑んだ。

「短い間でしたが、皆様と共に過ごせた時間は、私にとってかけがえのないものでした。」


その言葉に、雪乃は小さく頷き、月はそれ以上何も言えなくなってしまう。




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