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第29話 マドレーヌとヴィクトリア:ヴィクトリアの去り際




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店内は閉店後の静けさに包まれていた。ヴィクトリアは荷物をまとめ終え、最後の確認をするためにカウンターに立っていた。


雪乃、月、花、そしてスタッフたちも全員が集まり、見送る準備をしている。



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最後の挨拶


ヴィクトリアは一同を見回し、深く頭を下げる。


「短い間でしたが、皆様と共に過ごした時間は、私にとってかけがえのないものでした。本当にありがとうございました。」


その言葉に、雪乃は静かに微笑みながら答える。

「こちらこそ、ヴィクトリアのおかげでとても助かったわ。ありがとう。」


月は目に涙を浮かべながら声を震わせる。

「ヴィクトリア、本当に行っちゃうの……?まだ一緒にいてほしいのに……。」


ヴィクトリアは月の方を向き、優しい微笑みを浮かべた。

「月様、どうかお元気で。雪の庭は、皆様がいれば必ず素晴らしい場所であり続けます。」



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ぴよぴよさんのお別れ


その時、天井の梁からぴよぴよさんがふわりと降りてきた。ヴィクトリアの手のひらにそっと止まり、小さな声で「ぴよ」と鳴く。


ヴィクトリアは驚きながらも嬉しそうに微笑み、ぴよぴよさんの頭を優しく撫でた。

「ぴよぴよさん、お別れを言ってくれるのですね。ありがとう、あなたのことは一生忘れません。」


そう言うと、ヴィクトリアはぴよぴよさんをそっと抱き上げ、頬ずりをした。

「柔らかくて温かい……本当に可愛らしいですね。」



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花からの贈り物


その様子を見ていた花が、小さなバスケットを手に近づいてきた。


「ヴィクトリア、ちょっと待って。」


ヴィクトリアが振り返ると、花はバスケットを差し出した。

「これ、受け取って。」


ヴィクトリアがバスケットの蓋を開けると、中から黄色い羽毛のぴよぴよさんが顔を出した。


「ぴよ?」


ヴィクトリアは目を見開き、感動の表情を浮かべる。

「花様、これは……?」


花は微笑みながら言った。

「うちのぴよぴよさんは譲れないけど、この子を贈るわ。名前はヴィクトリアがつけてあげて。」


ヴィクトリアは涙ぐみながらバスケットを抱きしめた。

「ありがとうございます……では、名前を“花ぴよ”と付けさせていただきます。」


「いい名前ね。花ぴよ、ヴィクトリアをよろしくね。」


「ぴよ!」


元気よく応える花ぴよに、一同は少しだけ微笑んだ。



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見送り


ヴィクトリアはバスケットを大事そうに抱え、店の扉に向かう。そして、振り返りながら一礼する。


「皆様、どうかお元気で。そして、雪の庭をこれからもよろしくお願いいたします。」


雪乃、月、花、そしてスタッフたちは、静かに彼女の背中を見送る。


扉が閉まり、ヴィクトリアの姿が見えなくなると、月がぽつりと呟いた。

「本当に行っちゃったんだ……。」


雪乃はそっと月の肩に手を置き、柔らかく微笑む。

「またどこかで会えるわよ。ヴィクトリアなら、きっと元気でやっているわ。」


花は端末をいじりながら、小さく呟く。

「壱姉様がこんなことをするなんて……やっぱり裏には何かあるわね。」


雪の庭には静けさが戻った。しかし、その空気にはどこか寂しさとともに、新たな一歩を踏み出す予感が漂っていた。




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