ヴィクトリアが去った後、雪の庭は以前の体制に戻っていた。
月は厨房と客席を忙しく行き来し、その器用さと手際の良さで店内を支えている。
「本日のスイーツはロブロです!」
月の明るい声が店内に響き、客たちは興味津々でスイーツを注文する。
花は相変わらずの人気ぶりで、客席を回りながら、にこやかな笑顔と親しみやすい態度で客を魅了していた。彼女の存在感は、店に欠かせないものだった。
そして雪乃は、変わらず遊びテーブルでお茶を楽しんでいる。
「ロブロの香ばしい香り、いいわね……きっと今日もお客様に喜ばれるわ。」
一方、新たに加わった鷹乃 夜(たかの よる)。彼女はその完璧な接客スキルと穏やかな雰囲気で、客たちを次々と魅了していた。
客席では「夜ちゃん」と呼ばれるほど親しみを込められ、今や花と人気を二分する存在となっていた。
2. 閉店後の異変
営業が終わり、店内が静けさを取り戻した頃、天井の梁からぴよぴよさんがふわりと降りてきた。
「ぴよぴよぴよ……」
その声に夜が反応し、そっと手を差し出すと、ぴよぴよさんが彼女の手に止まった。
夜は優しく微笑みながらぴよぴよさんに話しかける。
「どうしたの、ぴよぴよさん?」
すると、ぴよぴよさんは「ぴよぴよ」と鳴いた後、夜自身が突然「ピーッピーピーピロピロピーッ」と謎の発信音を発した。
その異様な音に、雪乃、月、花、そしてスタッフたちは驚き、目を丸くして夜を見つめた。
3. 夜の行動
夜は平然とした表情のまま、自らの髪に手を伸ばし、隠れていた細いケーブルを引き出す。そして、そのケーブルをぴよぴよさんの頭にあるコネクターに接続した。
月が慌てた声を上げる。
「夜ちゃん、ちょっと!それ何してるの?」
夜は冷静に答える。
「少々お待ちください。データ交換を行っています。」
ケーブルを接続したまま、夜は端末を取り出し、ケーブルをそちらに繋げた。端末の画面には膨大なデータが表示され、次々と解析が進んでいく。
花がその画面を覗き込むと、何かに気づいたように声を上げた。
「これ……どういうこと?」
4. 夜の正体が明らかに
端末に表示されたデータを見つめながら、花が呟くように言った。
「ないとほーく……人間型筐体……!」
月が驚いた表情で尋ねる。
「ないとほーく?それってどういうことなの?」
夜は端末を閉じ、全員の方に向き直ると冷静に答えた。
「私は、ないとほーくの人間型筐体です。壱姫様の命令により、雪の庭で働きながら監視を行うために派遣されました。」
その言葉に一同が凍りつく。
「監視って……どういう意味?」月が声を震わせながら聞く。
夜は真剣な表情で説明を続ける。
「ぴよぴよさんのデータ通信にフィルタリングがかけられたことを壱姫様が察知しました。その結果、より正確で直接的な情報を得るために、私が派遣されました。」
5. 雪乃たちの反応
雪乃はその説明を静かに聞き終え、落ち着いた声で言った。
「つまり、壱姉様がさらに進化したないとほーくを送り込んで、私たちを見守るようにしたってことね。」
夜は丁寧に一礼し、答える。
「その通りです。監視といっても、皆様の行動を邪魔する意図はございません。ただ、状況を壱姫様に報告するのが私の役目です。」
花は腕を組みながら考え込むような表情を浮かべた。
「壱姉様らしいわね……ここまで徹底するなんて。」
月はまだ動揺を隠せない様子だったが、雪乃が柔らかく微笑みながら夜に言った。
「夜ちゃん、これからもよろしくね。雪の庭の一員として、私たちと一緒に楽しくやりましょう。」
夜は感謝の意を込めて微笑み、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。」
6. 新たな日常の幕開け
その夜、雪乃たちは夜の正体に驚きながらも、新たな雪の庭の日常が始まることを予感していた。
「壱姉様の意図がどこまで及ぶのかはわからないけど……この店がさらに面白くなりそうね。」
雪乃の言葉に、花と月も小さく頷いた。
鷹乃 夜が加わった雪の庭は、さらなる波乱と進化を迎えようとしていた――。