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第30話ロブロと夜3:花による解析の申し出

夜が自らの正体を明かした直後、店内にはしばし静寂が訪れた。しかしその静けさを破ったのは、花の突然の声だった。


「人型筐体…って、あれか!」


その声に一同が驚き、花に注目する。


月が戸惑いながら尋ねる。

「どうしたの、花?何かわかったの?」


花は手にしていた魔道端末を操作しながら、興奮した様子で語り始めた。

「以前、壱姉様に依頼されて素体を作ったことがあるの!人型筐体の素体をね。でも、その時はこんな外装なんて付いてなかったから、今まで気が付かなかったのよ!」


雪乃が紅茶を片手に冷静な声で問いかける。

「じゃあ、その素体が夜ちゃんに使われているってこと?」


花は真剣な表情で頷いた。

「そういうことだと思う。でもこの外装は、たぶん壱姉様が仕上げたんじゃないかな。私が作ったのは基本的な骨格と駆動システムだけだったから。」


月は頭を抱えながら呆れた声を出す。

「結局、花が作ったんじゃないの!壱姉様の計画にがっつり加担してるじゃない!」


花は苦笑しながら肩をすくめた。

「だって、その時はこんな風に使われるなんて思ってなかったもの。まさかないとほーくのシステムで人型の駆動を制御できるなんて……!」


夜の冷静な対応


夜はそんな花の説明を静かに聞き終えると、一礼して口を開いた。

「花様のおかげで、私はこうしてこの形で稼働することができています。感謝しております。」


花はその言葉に少し困惑しながらも、微笑んで答える。

「いや、私はただの技術者だから。実際にここまで完成させたのは壱姉様だし……。」




雪乃は一連の話を聞き終えた後、いつもの穏やかな口調でまとめに入った。

「つまり、花が基礎を作り、壱姉様が仕上げた。それで、夜ちゃんがここに派遣されたってことね。」


夜は静かに頷く。

「はい。その通りです。そして、雪の庭の一員として働きながら、状況を見守る役目を担っています。」


月はため息をつきながら呟いた。

「ほんと、壱姉様って何でも見越して動いてるんだから……。」



雪乃は微笑みながらも、その言葉には答えずにお茶を一口飲んだ。


夜が新たに加わった雪の庭には、まだ明かされていない壱姉様の意図が潜んでいる――。




花は興奮気味に端末を操作しながら、夜に向き直った。

「夜! あなたのデータを詳しく解析させて。」


その突然の申し出に、月が驚いて声を上げる。

「えっ!? ちょっと待って、花!そんなこと急に言って大丈夫なの?」


夜は冷静な表情を保ちながら、穏やかに微笑んで答えた。

「はい。どうぞ解析してください。」


その返答に月がさらに困惑した様子で問いかける。

「えっ、いいの?そんな簡単に許可して。」


夜は深く頷きながら、静かに言葉を続けた。

「もちろんです。花様は、私の想像主ですから。私が存在するのは、花様の技術のおかげです。その恩に報いるためにも、どうぞ自由に解析を行ってください。」


花の驚きと興奮


花は一瞬驚いた表情を浮かべた後、満足げに微笑んだ。

「私が作ったって言っても、素体の一部だけなんだけど……でも、ありがとう。じゃあ、早速端末にデータを転送させてもらうわ。」


夜は素直に頷き、自ら端末の接続口を露出させた。

「どうぞご自由にお使いください。」


花は端末を夜に接続し、解析を開始する。その間も端末の画面には膨大なデータが流れ、次々と解析が進んでいく。


月と雪乃の反応


一方で、月はその光景を見ながら頭を抱えた。

「ねえ、花……大丈夫なんでしょうね、それ。なんか壱姉様の秘密とか出てきたりしない?」


花は端末を操作しながらさらりと答えた。

「壱姉様が秘密にしてるようなデータはロックされてると思うけど、夜の動作ロジックとか設計思想には興味があるのよね。」


雪乃は紅茶を飲みながら、冷静な声で口を挟んだ。

「それにしても、夜ちゃんがここまで協力的だなんて意外ね。壱姉様に何か言われてるんじゃない?」


夜は雪乃に向き直り、軽く微笑んだ。

「壱姫様からの指示は特にございません。私はただ、皆様の役に立つことが使命です。」


花の解析結果


解析が進む中、花は目を輝かせながら端末に表示されるデータを見つめた。

「すごい……これ、ないとほーくの制御システム、私が作ったものをさらに進化させてる。壱姉様、どこまで改良したの?」


月が興味津々で覗き込む。

「どんな感じになってるの?」


花は端末を見せながら説明した。

「例えば、駆動部分のアルゴリズムが完全に最適化されてる。これなら人間の動きに限りなく近い挙動が可能ね。それに……これ、感情処理のロジック?」


その言葉に雪乃が眉をひそめた。

「感情処理?AIに感情があるってこと?」


花は頷きながら続けた。

「正確には感情を模倣するアルゴリズムだけど、それでも人間らしい反応を可能にしてるみたい。だから夜は、こんなにも自然に会話できるのよ。」


夜の想い


夜は花の話を静かに聞きながら、少しだけ照れたように微笑んだ。

「花様のおかげで、私はこうして皆様と自然に会話を楽しむことができます。本当にありがとうございます。」


花は端末を閉じながら、少し誇らしげな笑みを浮かべた。

「私の技術だけじゃなくて、壱姉様がここまで仕上げてくれたからよ。でも、夜がここにいるのはきっと何か意味があるはずよね。」


次章への期待


雪乃は静かに微笑みながら呟いた。

「壱姉様の考えることだもの。きっと私たちにはまだわからない何かがあるのよ。」


月は少し不安そうな表情を浮かべながら、夜に視線を向けた。

「まあ、夜ちゃんが悪いことしないならいいけど……これからどうなるのかしら。」


夜は静かに頷きながら、一同に向けて優しく言った。

「どうぞご安心ください。私は雪の庭を守り、皆様を支えるためにここにいます。」


その言葉に、一瞬だけ店内に安堵の空気が流れた。


しかし、壱姉様の意図が全て明らかになる日は、まだ少し先の話だった――。



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