花の部屋は魔道具や端末で溢れており、研究所さながらの雰囲気を醸し出していた。その中央にある作業台には、鷹乃 夜が静かに横たわっている。
夜の髪の中から引き出されたケーブルが、花の大型魔道電脳機に接続されていた。それは花が普段使うポータブル端末とは比べ物にならないほどの高性能を誇り、部屋全体に設置されたモニターには複雑なデータが流れ続けている。
花はそのデータを見つめ、眉をひそめながら唸っていた。
データ解析の驚き
「どうして、ないとほーくで筐体を制御してるのかと思ったら……なるほどね。」
花は画面に映し出された回路の詳細を指差しながら、小さく呟いた。
「これ、魔道集積回路……それも、とんでもないレベルのものを複数使ってる。普通じゃ考えられないくらいの高度な設計だわ。」
さらにモニターを拡大し、回路図を詳細に確認すると、彼女の目がさらに驚きに見開かれる。
「しかも、この複数の魔道集積回路が直列回路と並列回路のデュアルコントロールになってる……。」
花は椅子に深く座り直し、頭を抱えながら独り言を呟いた。
「これ、私が基礎理論を構築したやつじゃない。あの時、壱姉様から『面白いものを作れ』って言われて適当に出した理論だけど……まさかこんな形で使われてるなんて。」
花の葛藤
彼女は深いため息をつき、額を手で押さえた。
「また月姉様に怒られちゃうわね。『また壱姉様に加担してるのか』って。」
花はモニターに映し出されたデータを睨むように見つめながら、ぼそりと呟いた。
「でも……これ、本当にコスト度外視だわ。一体、壱姉様は何を考えてるのかしら?こんな高性能な筐体を作って、何が目的なの?」
ふと、花の唇が少しだけ微笑む。
「まあ、面白いことなら協力してもいいんだけどね。」
彼女の指先は魔道電脳機のキーボードをリズミカルに叩き続け、さらに詳細な解析を進めていく。その様子は、好奇心と探求心が入り混じった楽しげな雰囲気さえ感じられるものだった。
夜の反応
作業台の上で静かに横たわる夜は、目を閉じたまま口を開いた。
「花様、私の構造についてここまで興味を持っていただけること、光栄に思います。」
花はその言葉に少しだけ驚きながら、軽く笑った。
「夜、あなたって本当に面白いわね。自分のデータを解析されるのに、嫌がる素振りひとつないなんて。」
夜は穏やかな声で答えた。
「私の存在は、花様の理論があってこそ成り立っています。その恩に報いるためにも、花様の知識の糧になれることを喜ばしく思います。」
その言葉に、花は一瞬だけ手を止め、じっと夜を見つめた。
「……本当に忠実ね。でも、壱姉様に忠実すぎて、私たちにとって問題を起こすことはないでしょうね?」
夜は静かに目を開け、花を真っ直ぐに見つめて答えた。
「私の目的は、壱姫様の命令に従い、雪の庭を守ることです。皆様に害を及ぼす意図はありません。」
その言葉に、花は再び微笑み、端末に視線を戻した。
「なら、安心して解析させてもらうわ。このデータ、見れば見るほど面白いもの。」
続く謎
解析が進むにつれ、花の端末にはさらに驚くべきデータが表示され始める。それを見た花は、思わず呟いた。
「これ……壱姉様、どこまで未来を見越して作ってるの?これって、ただの筐体じゃない……?」
夜は花の言葉を聞きながら、静かに目を閉じたまま何も答えなかった。
壱姫様の評価
解析を進める花は、モニターに映し出される複雑なデータを眺めながら、次々と新しい発見に驚いていた。その様子を静かに見守っていた夜が、口を開いた。
「壱姫様は、花様のことをとても評価されています。」
その言葉に、花は作業の手を止め、顔を上げた。
「評価されてる?……どういうこと?」
夜は丁寧な口調で続ける。
「壱姫様は以前から、花様の才能と成果を高く評価されており、将来的には側に置きたいと仰っています。」
その言葉に花は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに肩をすくめて苦笑した。
「壱姉様がそんなことを言うなんて珍しいわね。でも、何をやるかによるけど……考えておくわ。」
-花は再びモニターに視線を戻しながら、ぼそりと呟いた。
「また月姉様に『壱姉様に加担してる』って怒られそうだけど……まあ、面白いからいいわ。」
夜はそんな花の言葉に静かに微笑んで答えた。
「壱姫様も花様のそういった探究心を信頼されているのでしょう。花様が壱姫様の期待に応えられることを願っています。」
壱姉様の意図と花の反応
花はその言葉に小さくため息をつき、作業を一旦中断して椅子に深く腰を下ろした。
「期待に応えるね……。壱姉様って本当に何を考えてるのかわからないんだもの。こんな高性能な筐体を作って、目的は何?ただの監視にしては、規模が大きすぎる気がするけど。」
夜はその問いかけには答えず、静かに目を閉じた。
花は少し考え込むように目を細め、呟いた。
「まあ、どうせ壱姉様のことだから、私には計り知れない何かを企んでるんでしょうね。」
その言葉とともに、花の手は再びキーボードに戻り、解析が再開された――。
-