朝の静けさに包まれた雪の庭。まだ開店前の厨房では、月が真剣な表情で作業台に向かっていた。
「本日のスイーツは、フランです!」
月はエプロン姿で宣言しながら、試作を始めていた。ボウルに卵を割り入れ、砂糖を加えて泡立て器で丁寧に混ぜていく。その動きはリズミカルで、まるで舞を踊っているようだった。
「卵と牛乳、それに砂糖……シンプルだけど奥が深いのよね、フランって。」
月はそう呟きながら、慎重に温めた牛乳を卵液に少しずつ注ぎ込む。
雪乃の見守り
遊びテーブルに座って紅茶を飲んでいた雪乃が、そんな月の様子を穏やかな笑顔で見守っていた。
「月、手際がいいわね。さすが、雪の庭の名物シェフだわ。」
その声に月は少しだけ振り返り、照れくさそうに笑った。
「やめてよ、雪乃。そんな大げさに言わないで。まだ試作の段階なんだから。」
雪乃はカップを置き、優雅に椅子から立ち上がると、月のそばに近づいて作業を覗き込んだ。
「でも、ちゃんと美味しそうな香りがしてるわよ。きっと今日のお客様にも喜ばれるわ。」
「そうだといいけど……でも、まだ仕上げが残ってるからね。」
試作の仕上げ
月はカラメルソースを作るため、小鍋に砂糖を入れて火にかけた。
「焦がさないように……でも、甘い香ばしさを引き出すにはギリギリまで待つ……。」
小鍋から立ち上る香ばしい香りが広がり、雪乃はその香りを楽しむように目を閉じた。
「いい香りね。これがフランの魅力なのね。」
月は慎重にカラメルを型に流し込み、その上に卵液を静かに注ぎ込むと、オーブンにそっと入れた。
「よし、あとは焼き上がりを待つだけ。」
月はそう言いながら、少しだけほっとした表情を浮かべた。
期待の膨らむ朝
雪乃は月の肩に手を置き、微笑んで言った。
「きっと美味しく仕上がるわよ。そして、今日のお客様にとっても忘れられないスイーツになるはず。」
月はその言葉に頷きながら、オーブンの中で焼き上がるフランを見つめていた。
雪の庭の新しい一日は、こうして始まろうとしていた――。