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第32話壱姉の登場 ヴィクトリアの帰還3:壱姫という女


執務室での休憩宣言


壱姫の執務室は静寂に包まれていた。書類をめくる音だけが響く中、壱姫は玉座のような椅子に深く腰掛け、鋭い視線で書類を読み進めていた。その手がふと止まり、彼女はゆっくりと立ち上がった。


両腕を伸ばして大きく背伸びをすると、軽く肩を回しながら呟いた。

「うむ、肩が凝った。休憩する。茶が飲みとうなった。」


その一言に反応して、控えていたヴィクトリアがすぐさま動き出す。

「かしこまりました。すぐにお茶を準備いたします。」


しかし、壱姫は手を軽く振り、否定した。

「いや、そうではない。外に飲みに行く。夕影の店じゃ。」


急な外出の提案


ヴィクトリアはその言葉に驚きつつも、冷静に返答した。

「お出かけ……ですか?しかし、ご予約等が……。」


壱姫は少し不機嫌そうに眉をひそめた。

「夕影の店は予約などいらぬ喫茶店であろう。」


ヴィクトリアは頭を下げながら言葉を続ける。

「ですが、王女である壱姫様がいらっしゃるとなれば、話は別でございます。店側も突然のご来店に戸惑われるかと……。」


壱姫は鋭い目でヴィクトリアを見つめ、微笑を浮かべながら一言。

「ヴィクトリア……わかっているであろう。妾は誰にも許可を求めぬ。茶が飲みたいから行く。それだけのことじゃ。」


その堂々たる態度に、一瞬言葉を詰まらせたヴィクトリアだったが、すぐに深々と頭を下げた。

「失礼しました。すぐに準備を整えます。」


壱姫は満足そうに頷き、再び椅子に腰掛けた。

「うむ、やはりお前でなければならんな。」


迅速な準備


ヴィクトリアは素早く行動を開始した。

「夕影の店にお知らせを――」


彼女は伝令を手配し、壱姫が訪問することを夕影の店に伝える早馬を出すと同時に、壱姫の外出に必要な準備を進めていった。


「これで突然の訪問でも、最低限の準備は整えられるはず……。」

ヴィクトリアは呟きながら、壱姫の衣装や移動手段の確認を迅速にこなしていった。


壱姫の独特な姿勢


そんなヴィクトリアの行動を横目で見ながら、壱姫はどこか楽しげに微笑んだ。

「お前は実に優秀じゃな。だが、時々、妾の自由さを忘れておるようじゃ。」


ヴィクトリアは苦笑しながら答える。

「自由であることも、壱姫様の魅力の一つです。しかし、王女としての影響力は計り知れません。それを考慮するのも私の務めでございます。」


壱姫は顎に手を当てて少し考える素振りを見せた後、満足げに頷いた。

「ふむ、そうか。だが、堅苦しいのは嫌いじゃ。今回もその自由を満喫させてもらおう。」


その言葉を聞いて、ヴィクトリアは再び頭を下げた。

「壱姫様のお望み通りにいたします。」


壱姫は満足げに笑い、再び立ち上がった。その仕草は、これから何か楽しいことが起きるかのような期待を滲ませていた。



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