執務室での休憩宣言
壱姫の執務室は静寂に包まれていた。書類をめくる音だけが響く中、壱姫は玉座のような椅子に深く腰掛け、鋭い視線で書類を読み進めていた。その手がふと止まり、彼女はゆっくりと立ち上がった。
両腕を伸ばして大きく背伸びをすると、軽く肩を回しながら呟いた。
「うむ、肩が凝った。休憩する。茶が飲みとうなった。」
その一言に反応して、控えていたヴィクトリアがすぐさま動き出す。
「かしこまりました。すぐにお茶を準備いたします。」
しかし、壱姫は手を軽く振り、否定した。
「いや、そうではない。外に飲みに行く。夕影の店じゃ。」
急な外出の提案
ヴィクトリアはその言葉に驚きつつも、冷静に返答した。
「お出かけ……ですか?しかし、ご予約等が……。」
壱姫は少し不機嫌そうに眉をひそめた。
「夕影の店は予約などいらぬ喫茶店であろう。」
ヴィクトリアは頭を下げながら言葉を続ける。
「ですが、王女である壱姫様がいらっしゃるとなれば、話は別でございます。店側も突然のご来店に戸惑われるかと……。」
壱姫は鋭い目でヴィクトリアを見つめ、微笑を浮かべながら一言。
「ヴィクトリア……わかっているであろう。妾は誰にも許可を求めぬ。茶が飲みたいから行く。それだけのことじゃ。」
その堂々たる態度に、一瞬言葉を詰まらせたヴィクトリアだったが、すぐに深々と頭を下げた。
「失礼しました。すぐに準備を整えます。」
壱姫は満足そうに頷き、再び椅子に腰掛けた。
「うむ、やはりお前でなければならんな。」
迅速な準備
ヴィクトリアは素早く行動を開始した。
「夕影の店にお知らせを――」
彼女は伝令を手配し、壱姫が訪問することを夕影の店に伝える早馬を出すと同時に、壱姫の外出に必要な準備を進めていった。
「これで突然の訪問でも、最低限の準備は整えられるはず……。」
ヴィクトリアは呟きながら、壱姫の衣装や移動手段の確認を迅速にこなしていった。
壱姫の独特な姿勢
そんなヴィクトリアの行動を横目で見ながら、壱姫はどこか楽しげに微笑んだ。
「お前は実に優秀じゃな。だが、時々、妾の自由さを忘れておるようじゃ。」
ヴィクトリアは苦笑しながら答える。
「自由であることも、壱姫様の魅力の一つです。しかし、王女としての影響力は計り知れません。それを考慮するのも私の務めでございます。」
壱姫は顎に手を当てて少し考える素振りを見せた後、満足げに頷いた。
「ふむ、そうか。だが、堅苦しいのは嫌いじゃ。今回もその自由を満喫させてもらおう。」
その言葉を聞いて、ヴィクトリアは再び頭を下げた。
「壱姫様のお望み通りにいたします。」
壱姫は満足げに笑い、再び立ち上がった。その仕草は、これから何か楽しいことが起きるかのような期待を滲ませていた。