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ジパング王国の王都にある喫茶店「夕影」。静謐で上品な雰囲気を持つこの店は、来訪する人々に癒しの時間を提供していた。その店内に、他の喫茶店にはない独特の存在感を放つ物があった。大型の冷気を漂わせるストレージだ。店の奥に鎮座するそのストレージは、周囲の落ち着いた空気と対照的に、無言の存在感を放っていた。
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壱姫の視線
壱姫はスノーフラワータルトを一口楽しみながら、視線をストレージに向けた。眉を少し上げ、興味深げに呟く。
「にしても、そこにあるストレージ……花の作だな。」
夕影が驚いたように顔を上げると、壱姫はさらに言葉を続けた。
「あの子までここに来ておったか。」
夕影は少し困惑した表情を浮かべながらも、やがて微笑みを浮かべて答えた。
「ええ、花様にはこの店の冷蔵技術を手伝っていただき、大変助かっております。」
壱姫はストレージをしばらく見つめた後、スノーフラワータルトに視線を戻しながら静かに言った。
「妾の知らぬところまで行動範囲が広がっとるとは……やはり、夜を送ったのは正解じゃな。」
その一言に、夕影とヴィクトリアは互いに顔を見合わせ、壱姫の言葉の意味を測りかねていた。
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花の才能
ヴィクトリアが意を決したように尋ねる。
「壱姫様、このストレージを見て、何かお気付きになられましたか?」
壱姫は頷きながら答える。
「最近、特に花の行動と創作が妾の予想を超えておる。実に頼もしいが、あの子の能力を欲する者が現れぬかと危惧しているのじゃ。」
その言葉に、夕影が不安げな表情を浮かべる。
「では、花様を守るために何か対策を講じておられるのですか?」
壱姫は冷静な口調で答える。
「対策など必要ない。妾がそばにおれば、誰も手出しはできぬ。だが、万が一に備えて夜を送ったのも、花の行動を見守る一つの手段に過ぎぬ。」
ヴィクトリアは深く頷きながら言った。
「壱姫様のご配慮、花様にとって何よりの守りとなることでしょう。」
壱姫は満足げに頷きながらタルトをもう一口味わった。
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雪乃の自由
壱姫はふとスノーフラワータルトを手に取り、少し懐かしそうに呟いた。
「雪乃もまた得難い才能の持ち主であるが、あれは組織に縛られるのを嫌う。せめて、妾が姉として自由だけは守ってやりたいと考えておる。」
その言葉に、ヴィクトリアは少し驚いた表情を浮かべた。
「壱姫様が雪乃様の自由を尊重されるとは、少し意外でございます。」
壱姫は微笑みを浮かべながら頷いた。
「雪乃はあの奔放さがあるからこそ、独自の道を切り開ける。それを妾が押さえつけるなど、愚策じゃ。自由奔放であることこそが、あの子の持ち味じゃからな。」
夕影がそっと口を挟む。
「確かに、雪乃様の自由奔放な姿勢には目を見張るものがあります。それが彼女の魅力であり、才能を最大限に発揮させる原動力かもしれませんね。」
壱姫は満足げに頷き、続けた。
「妾はあの子の才能を潰すつもりはない。だが、それが危険に晒されるようなことがあれば、妾が盾となるつもりじゃ。」
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月の未来
ヴィクトリアは話題を変えるように尋ねた。
「では、月様についてはどのようにお考えでしょうか?」
壱姫は少し考え込んだ後、静かに言った。
「あやもまた、妾たちの中で得難い存在じゃ。一見、自由を望んでいるように見えるが、あれは組織にあってこそ才能を発揮するタイプじゃ。」
ヴィクトリアはその言葉に納得するように頷いた。
「確かに、月様は責任感が強く、細やかな気配りができるお方です。それゆえに、組織の中で力を発揮するのでしょうね。」
壱姫は軽く微笑みながら答えた。
「そうじゃ。あやつのような存在は、皆をまとめ、導く力を持っておる。いずれはしかるべき組織のトップに立つべきじゃ。」
夕影が再び口を開く。
「では、月様がその自覚を持たれるように、壱姫様が何かお考えなのでしょうか?」
壱姫は意味深に笑いながら答えた。
「妾が手を貸すまでもない。あやつは自分で道を見つけるじゃろう。だが、必要なら妾が支える準備はしておる。」
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姉妹の絆
壱姫は一息つくと、静かに紅茶を口に運んだ。そして満足げに言った。
「雪乃も花も、そして月も、妾にとって誇るべき妹たちじゃ。それぞれ違う才能を持っておる。それを見守り、必要に応じて支えるのが妾の役目じゃ。」
その力強い言葉に、ヴィクトリアと夕影は深く頭を下げた。
壱姫の視線は再びスノーフラワータルトに戻り、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。