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第32話壱姉の登場 ヴィクトリアの帰還4:夕影




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ジパング王国の王都にある喫茶店「夕影」。静謐で上品な雰囲気を持つこの店は、来訪する人々に癒しの時間を提供していた。その店内に、他の喫茶店にはない独特の存在感を放つ物があった。大型の冷気を漂わせるストレージだ。店の奥に鎮座するそのストレージは、周囲の落ち着いた空気と対照的に、無言の存在感を放っていた。



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壱姫の視線


壱姫はスノーフラワータルトを一口楽しみながら、視線をストレージに向けた。眉を少し上げ、興味深げに呟く。

「にしても、そこにあるストレージ……花の作だな。」


夕影が驚いたように顔を上げると、壱姫はさらに言葉を続けた。

「あの子までここに来ておったか。」


夕影は少し困惑した表情を浮かべながらも、やがて微笑みを浮かべて答えた。

「ええ、花様にはこの店の冷蔵技術を手伝っていただき、大変助かっております。」


壱姫はストレージをしばらく見つめた後、スノーフラワータルトに視線を戻しながら静かに言った。

「妾の知らぬところまで行動範囲が広がっとるとは……やはり、夜を送ったのは正解じゃな。」


その一言に、夕影とヴィクトリアは互いに顔を見合わせ、壱姫の言葉の意味を測りかねていた。



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花の才能


ヴィクトリアが意を決したように尋ねる。

「壱姫様、このストレージを見て、何かお気付きになられましたか?」


壱姫は頷きながら答える。

「最近、特に花の行動と創作が妾の予想を超えておる。実に頼もしいが、あの子の能力を欲する者が現れぬかと危惧しているのじゃ。」


その言葉に、夕影が不安げな表情を浮かべる。

「では、花様を守るために何か対策を講じておられるのですか?」


壱姫は冷静な口調で答える。

「対策など必要ない。妾がそばにおれば、誰も手出しはできぬ。だが、万が一に備えて夜を送ったのも、花の行動を見守る一つの手段に過ぎぬ。」


ヴィクトリアは深く頷きながら言った。

「壱姫様のご配慮、花様にとって何よりの守りとなることでしょう。」


壱姫は満足げに頷きながらタルトをもう一口味わった。



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雪乃の自由


壱姫はふとスノーフラワータルトを手に取り、少し懐かしそうに呟いた。

「雪乃もまた得難い才能の持ち主であるが、あれは組織に縛られるのを嫌う。せめて、妾が姉として自由だけは守ってやりたいと考えておる。」


その言葉に、ヴィクトリアは少し驚いた表情を浮かべた。

「壱姫様が雪乃様の自由を尊重されるとは、少し意外でございます。」


壱姫は微笑みを浮かべながら頷いた。

「雪乃はあの奔放さがあるからこそ、独自の道を切り開ける。それを妾が押さえつけるなど、愚策じゃ。自由奔放であることこそが、あの子の持ち味じゃからな。」


夕影がそっと口を挟む。

「確かに、雪乃様の自由奔放な姿勢には目を見張るものがあります。それが彼女の魅力であり、才能を最大限に発揮させる原動力かもしれませんね。」


壱姫は満足げに頷き、続けた。

「妾はあの子の才能を潰すつもりはない。だが、それが危険に晒されるようなことがあれば、妾が盾となるつもりじゃ。」



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月の未来


ヴィクトリアは話題を変えるように尋ねた。

「では、月様についてはどのようにお考えでしょうか?」


壱姫は少し考え込んだ後、静かに言った。

「あやもまた、妾たちの中で得難い存在じゃ。一見、自由を望んでいるように見えるが、あれは組織にあってこそ才能を発揮するタイプじゃ。」


ヴィクトリアはその言葉に納得するように頷いた。

「確かに、月様は責任感が強く、細やかな気配りができるお方です。それゆえに、組織の中で力を発揮するのでしょうね。」


壱姫は軽く微笑みながら答えた。

「そうじゃ。あやつのような存在は、皆をまとめ、導く力を持っておる。いずれはしかるべき組織のトップに立つべきじゃ。」


夕影が再び口を開く。

「では、月様がその自覚を持たれるように、壱姫様が何かお考えなのでしょうか?」


壱姫は意味深に笑いながら答えた。

「妾が手を貸すまでもない。あやつは自分で道を見つけるじゃろう。だが、必要なら妾が支える準備はしておる。」



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姉妹の絆


壱姫は一息つくと、静かに紅茶を口に運んだ。そして満足げに言った。

「雪乃も花も、そして月も、妾にとって誇るべき妹たちじゃ。それぞれ違う才能を持っておる。それを見守り、必要に応じて支えるのが妾の役目じゃ。」


その力強い言葉に、ヴィクトリアと夕影は深く頭を下げた。

壱姫の視線は再びスノーフラワータルトに戻り、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。






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