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第32話壱姉の登場 ヴィクトリアの帰還5:第4姫 風姫




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ジパング王国の王都にある喫茶店「夕影」。静かな午後、その空気を切り裂くように、新たな客が店内へ足を踏み入れた。


オーナーの夕影はその姿を認めると、すぐさま前に進み出て深々と頭を下げる。

「お待ちしておりました、風姫様。」


その言葉に応じたのは、優雅な物腰で現れた第4姫、風姫だった。彼女は微笑を浮かべながら店内を見渡すと、驚いたように声を上げた。

「あら、壱姉様。どうしてここにいらっしゃるの?」


壱姫はテーブル席にどっしりと腰を下ろしながら、紅茶を楽しんでいた。その顔には、いつもの堂々とした余裕が漂っている。

「喫茶店だ。茶を飲みに来たに決まっておろう。」


そのあまりにも当然のような答えに、風姫は軽く眉をひそめる。

「初耳ですわ。予約の際に教えてくださればよかったのに……。」


風姫は夕影の方を振り返る。


夕影は少し申し訳なさそうに頭を下げながら答えた。

「急にお見えになられたのです。」


「……あ。」

その言葉で一気に納得したように、風姫は肩をすくめた。



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予約の有無


「喫茶店に来るのに予約などせんだろう。」

壱姫が少し呆れたように言うと、風姫は毅然とした態度で答える。

「それは平民ならば、ですわ。」


「ふむ。では、お前は律儀に予約をしたというのか?」


「もちろんです。予約をしなければ、お店に迷惑をかけることもございますから。」


壱姫はその言葉に少しだけ眉を上げ、夕影に視線を向けた。

「妾は迷惑であったか?」


夕影は即座に頭を下げて答える。

「とんでもございません。しかし、前もってご一報いただけると、こちらとしては助かります。」


壱姫は腕を組みながら満足げに頷いた。

「いかんな。王族だと言っても、平民と差別されては困る。」


その言葉に、風姫は軽くため息をついて応じた。

「……差別の使い方がおかしいですわ、壱姉様。」


「そうか?」

壱姫は首を傾げたが、どこ吹く風といった様子だった。



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ヴィクトリアの帰還


ふと風姫は、壱姫の隣に控えるヴィクトリアに目を向けた。

「あら、ヴィクトリア。あなた、帰っていたのね。」


「はい、先日、無事に帰還いたしました。」


風姫はほっとしたように微笑みを浮かべた。

「よかったわ。あなたの代行を務めていた夕霧と言ったかしら?日増しにやつれていくので心配していましたの。」


ヴィクトリアは深々と一礼しながら答える。

「恐れ入ります。夕霧には、休暇を取らせております。」


壱姫はその言葉を聞いて笑みを浮かべた。

「あやつは、口を開けば『なりません』しか言わんので、窮屈でかなわんかった。」



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執務室での問題


風姫は眉を寄せながら、軽く咎めるような口調で壱姫に言った。

「壱姉様、だからといって、執務室に夕霧を置き去りにしてどこかに行ってしまうのは、いかがなものかと思いますわ。家老たちに『姫はどこに行ったのか』と問われても夕霧が答えられず、叱責されていましたから。」


壱姫はその言葉に少しだけ肩をすくめた。

「あんな爺どもの言うことなど、適当に聞き流しておればよいのに。」


「適当に聞き流せないのが夕霧の性格ですわ。だからこそ、あなたの代行を務めるのが難しかったのではありませんか?」


「ふむ。確かにあやつの性格は真面目すぎる。だが、それも妾にとっては少し厄介なだけじゃ。」


風姫は深くため息をつきながら答えた。

「壱姉様、もっと周りの方々の心労もお考えになられてはいかがですか?」


壱姫は軽く笑いながら、紅茶を一口飲み干した。

「考えた結果がこれじゃ。妾が心配しすぎると、周りも窮屈になるからの。」


その飄々とした答えに、風姫もまた言葉を詰まらせ、苦笑を浮かべるしかなかった――。





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風姫は壱姫をじっと見つめながら、少し呆れたような口調で言った。

「壱姉様、父上が嘆いておられましたよ。」


壱姫は紅茶を飲みながら、何事もなかったかのように首を傾げる。

「何のことじゃ?」


風姫はため息をつきながら続けた。

「これから、心臓に悪い出来事が多発するから、引退されたほうが良いと仰られて……。『あやつは、何をやらかす気だ?』と、心配なされていました。」


壱姫は軽く笑いながら、肩をすくめた。

「単に父上の身を案じただけじゃ。そんな心配をしなくてよいように引退を勧めたのに、まだ心配されておるのか?」


風姫はその言葉に思わず声を上げた。

「当然ではありませんか!これまでの壱姉様の行動を思い返せば、誰だって心配しますわ。」


壱姫はその指摘をどこ吹く風といった態度で、再び紅茶を口に運ぶ。

「そうか。妾には心当たりがないが、父上も心配性じゃのう。」



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ヴィクトリアの内心


その会話を黙って聞いていたヴィクトリアは、内心で冷ややかに思った。

(体のいい脅迫だな……。)


壱姫が父王の引退を勧める経緯を理解しているだけに、その口実に隠された「暗黙の圧力」を感じずにはいられなかった。



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風姫の苦言


風姫は目を細めながら、壱姫に向き直った。

「壱姉様、もっと父上のご心労をお考えになられてはいかがですか?」


壱姫は紅茶を置き、ふと真剣な表情を浮かべた。

「だからこそ、父上のために引退を勧めたのじゃ。妾がしっかり事を進めれば、父上も安心して過ごせるはずじゃろう。」


「それが本当に安心に繋がるのでしょうか?」

風姫の問いかけに、壱姫は少し口角を上げて笑った。


「案ずるな、風よ。妾がこの国を導く限り、何も問題は起こらぬ。それに……父上がこれ以上悩む必要もない。」


風姫はその自信満々な壱姫の言葉に、さらに深いため息をついた。


第32話 第六章:第4姫 風姫(追加セリフ:即位式への期待)



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風姫は壱姫の言葉に少し考え込むような仕草を見せた後、柔らかな笑みを浮かべて問いかけた。

「それは、そうと即位式は、いつ頃でしょうか?今から姉妹全員が揃う日が楽しみですわ。」


壱姫は紅茶を一口飲みながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。

「即位式か……。それはまだ少し先の話じゃ。妹たちの予定を調整せねばならんし、そう簡単にはいかぬ。」


風姫は頷きながらも、目を輝かせて続ける。

「それでも、姉妹全員が揃うなんて、めったにないことですもの。私たちが顔を揃える時が、国の新たな歴史の始まりになるのですね。」


壱姫はその言葉に満足そうに頷いた。

「その通りじゃ。七姫が揃うことで、この国の未来はさらに強固なものとなる。それが妾たちの使命じゃからのう。」



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ヴィクトリアの冷静な指摘


その場で控えていたヴィクトリアが一歩前に出て、静かに口を開いた。

「壱姫様、しかし、七姫の全員を一堂に集めるというのは、並大抵のことではございません。それぞれが異なる地で活躍されておりますし、日程の調整にも困難が伴うでしょう。」


壱姫は軽く笑いながら応じた。

「それも分かっておる。だが、妾に不可能はない。妹たちはいずれ皆、この場に集うさ。」


ヴィクトリアは深々と頭を下げ、言葉を返した。

「さすが壱姫様でございます。」



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風姫の期待


風姫は壱姫とヴィクトリアのやり取りを見つめながら、再び口を開いた。

「姉妹が揃えば、きっと国中が賑わいますわね。式典も盛大なものになるでしょうし、民衆もきっと喜びますわ。」


壱姫はその言葉に少し笑みを深めながら答えた。

「その通りじゃ。妾たちの姿を見せることが、この国にとって何よりの象徴となる。それを肝に銘じておるよ。」



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次への期待


風姫はその答えに満足し、壱姫の言葉を胸に刻むように頷いた。

「では、その日が来るのを楽しみにしております。姉様、どうかご準備をお忘れなく。」


壱姫は軽く手を振りながら笑った。

「準備なら心配いらぬ。妾はすでに全てを計画しておるのじゃから。」


その自信に満ちた言葉に、風姫も安心した表情を浮かべた――。


第32話 第六章:第4姫 風姫(追加セリフ:夢姫について)



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壱姫は風姫の期待に応えるように軽く微笑みながら言葉を続けた。

「心配いらぬ。この王都には星、風、そして妾が揃っておる。ラルベニアには、雪、月、花とそれぞれ固まっておる。調整は、さほど難しくない。」


ヴィクトリアが小さく頷きながらも、少し疑問を抱いたように尋ねた。

「では、どのような問題がございますか?」


壱姫は紅茶をゆっくりと飲み干し、少し目を細めて答えた。

「問題は、夢だけじゃ。第六王女夢姫は、今遠方の国に使者として出向いておるからな。だが逆に言えば、夢の予定に合わせれば済む話じゃ。」



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夢姫の特別な役割


風姫が少し眉をひそめながら口を開いた。

「夢は、いつ戻って来られるか、見通しがつくのでしょうか?」


壱姫はゆったりと椅子にもたれながら、考え込むように答えた。

「夢は妾たちの中でも特に交渉に長けた存在じゃ。あの子が動けば、どんなに厳しい条件でも互いに利益を生む形にまとめ上げる。だが、それゆえに向こうも簡単には手放さぬじゃろう。」


ヴィクトリアはその説明に納得したように頷きながら言った。

「夢姫様の能力は、確かにこの国にとって大きな資産ですね。」


壱姫は微笑みを浮かべながら、さらに続けた。

「とはいえ、妾の即位式とあらば、必ず帰国させる。いずれにせよ、夢を含めた七姫全員が揃わねば、この国の未来を象徴する式にはならぬからな。」



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未来への準備


風姫は壱姫の言葉に安堵の表情を浮かべつつも、静かに尋ねた。

「では、壱姉様はすでに全ての計画を立てておられるのですね?」


壱姫は満足そうに微笑み、力強く頷いた。

「そうじゃ。妾の手の内で全ては動いておる。夢さえ帰国すれば、全ての準備は整う。」


ヴィクトリアは深く一礼しながら応じた。

「さすが壱姫様でございます。七姫が揃うその日が待ち遠しくございます。」


壱姫は紅茶のカップを軽く掲げ、どこか楽しげな表情で締めくくった。

「楽しみにしておれ。その日こそ、ジパングの未来が新たな一歩を踏み出す瞬間じゃ。」


その言葉に風姫も微笑みながら頷き、姉妹全員が揃う日を心待ちにするのだった――。




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