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第33話 星姫の帰国1:プロローグ:セルロティの香り



朝日が昇り、ラルベニアの町並みが柔らかな光に包まれる頃、喫茶店「雪の庭」もまた新たな一日を迎えようとしていた。

厨房では、月がいつものようにエプロンを身に着け、慣れた手つきで生地をこねていた。


セルロティの準備

月の手元には、柔らかく光沢のある生地が広がっている。その生地から立ち上る香りは、甘く芳醇でどこか懐かしさを感じさせるものだった。


「本日のスイーツはセルロティよ。」

月は生地を練りながら小さく呟いた。彼女の声は静かだったが、その手つきには自信がみなぎっていた。


小麦粉に特製のスパイスを練り込み、ほんのり甘みを加えたセルロティは、彼女が自信を持って提供する一品だった。


雪乃の訪問

そんな月の様子を見つめていたのは、椅子に座りながらくつろいでいる雪乃だった。

「今日はセルロティなのね。」雪乃は穏やかな声で言った。


月は振り返ることなく手を動かしながら答えた。

「そうよ。ちょっと手間がかかるけど、これを作るといい香りが店中に広がるの。お客様もきっと喜んでくれるはず。」


雪乃はくすりと笑いながら言葉を返す。

「月が作るお菓子なら、何だってみんな喜ぶわよ。」


厨房に漂う香り

セルロティの生地を油で揚げ始めると、香ばしい香りが厨房を包み込んだ。その香りは、まるで心を優しく撫でるような、暖かさを感じさせるものだった。


「うん、この香り……いい感じね。」

月は揚げたてのセルロティを皿に並べながら満足げに呟いた。


開店準備の静寂

店内は、まだ開店前の静寂に包まれていた。月が仕上げたセルロティは、ガラスケースに丁寧に並べられ、朝の光に照らされて美しく輝いている。


雪乃は椅子から立ち上がり、窓際に目を向けた。

「今日もいい天気ね。お客様もきっとたくさん来るわ。」


月は最後のセルロティをケースに収めると、エプロンの端で手を拭いながら言った。

「ええ、忙しくなりそうだけど、頑張りましょう。」




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