朝日が昇り、ラルベニアの町並みが柔らかな光に包まれる頃、喫茶店「雪の庭」もまた新たな一日を迎えようとしていた。
厨房では、月がいつものようにエプロンを身に着け、慣れた手つきで生地をこねていた。
セルロティの準備
月の手元には、柔らかく光沢のある生地が広がっている。その生地から立ち上る香りは、甘く芳醇でどこか懐かしさを感じさせるものだった。
「本日のスイーツはセルロティよ。」
月は生地を練りながら小さく呟いた。彼女の声は静かだったが、その手つきには自信がみなぎっていた。
小麦粉に特製のスパイスを練り込み、ほんのり甘みを加えたセルロティは、彼女が自信を持って提供する一品だった。
雪乃の訪問
そんな月の様子を見つめていたのは、椅子に座りながらくつろいでいる雪乃だった。
「今日はセルロティなのね。」雪乃は穏やかな声で言った。
月は振り返ることなく手を動かしながら答えた。
「そうよ。ちょっと手間がかかるけど、これを作るといい香りが店中に広がるの。お客様もきっと喜んでくれるはず。」
雪乃はくすりと笑いながら言葉を返す。
「月が作るお菓子なら、何だってみんな喜ぶわよ。」
厨房に漂う香り
セルロティの生地を油で揚げ始めると、香ばしい香りが厨房を包み込んだ。その香りは、まるで心を優しく撫でるような、暖かさを感じさせるものだった。
「うん、この香り……いい感じね。」
月は揚げたてのセルロティを皿に並べながら満足げに呟いた。
開店準備の静寂
店内は、まだ開店前の静寂に包まれていた。月が仕上げたセルロティは、ガラスケースに丁寧に並べられ、朝の光に照らされて美しく輝いている。
雪乃は椅子から立ち上がり、窓際に目を向けた。
「今日もいい天気ね。お客様もきっとたくさん来るわ。」
月は最後のセルロティをケースに収めると、エプロンの端で手を拭いながら言った。
「ええ、忙しくなりそうだけど、頑張りましょう。」