ラルベニアの街に朝の賑わいが訪れる頃、喫茶店「雪の庭」の扉にも新たな一日の光が差し込んでいた。
月は、店のカギを開け、ゆっくりと扉を押し広げる。澄んだ空気が店内に流れ込み、心地よい朝の静寂が広がった。
「さあ、今日も始めるわよ。」
小さく呟くと、彼女は手慣れた動きで店内の準備を始めた。
雪乃体制に戻った日常
ヴィクトリアが本国へ帰国し、雪乃と月の二人が主軸となる体制に戻ってから数日。
店内は以前と同じように穏やかな雰囲気を取り戻していた。大勢の客で賑わっていた頃の忙しさは少し落ち着き、常連客がゆっくりと過ごす姿が増えた。
月はカウンターの上を拭きながら、ふと雪乃に目をやる。
「やっぱり、このくらいのペースがちょうどいいわね。」
「そうね。」
ソファに腰掛けながらお茶をすすっていた雪乃は、のんびりと頷く。
セルロティの香りと準備
ケースに並べられたセルロティは、すでに開店を待つばかりの状態だった。月は最後に棚の整理を終えると、少しだけ満足げな表情を浮かべた。
「お客様に楽しんでもらえるといいけど。」
雪乃は軽く微笑みながら答える。
「大丈夫よ。月の作るものはいつも好評なんだから。」
月はその言葉に少し照れた様子で肩をすくめながらも、気を引き締めるように自分に言い聞かせた。
「気を抜かずに、今日も一日頑張るわ。」
開店の時
午前の鐘が鳴り、いよいよ開店の時を迎える。月は入り口の看板を「営業中」にひっくり返すと、軽く息をついた。
「さて、お客様が来るわね。」
開け放たれた扉の外から、早速一人の常連客が現れた。
「おはようございます。」
その声に、月と雪乃は揃って笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ。」
穏やかな客足
ヴィクトリアが店を去った後、以前のように客足が殺到することはなくなった。それでも、静かで落ち着いた雰囲気の中、常連たちが次々と訪れる。
月はカウンターの中で次々と注文をこなしながら、穏やかな日常が戻ったことに安堵を感じていた。
「このくらいがちょうどいいわ。本当に。」
そう呟く彼女の表情は、どこか柔らかいものだった。
新たな一日の始まり
「雪乃、今日はあまり忙しくならなそうね。」
「そうね、静かな一日になりそうだわ。」
二人の何気ない会話が、店内の心地よい雰囲気を象徴していた。
穏やかな日常の中に、どこか期待を含んだ空気が漂う。これがラルベニアの「雪の庭」で迎えた新しい一日の始まりだった――。
ラルベニアの静かな朝、喫茶店「月の庭」には穏やかな空気が流れていた。ヴィクトリアが去り、新たにスタッフとなった夜が加わったことで、店内には新しい風が吹き込まれていた。
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夜の存在感
「お客様、こちらのお席へどうぞ。」
夜は柔らかな笑顔と丁寧な言葉遣いで客を案内し、その接客は瞬く間に人気を集めていた。
しかし、夜が特に話題となったのは、以前起きた迷惑客への対応だった。
「お帰りいただけますか?」
その言葉に反発した迷惑客を、夜がためらいなくお姫様抱っこで店の外まで運び出した。その姿はインパクト抜群で、翌日から「力持ちで頼れる夜ちゃん」として評判が広がった。
「彼女がいれば安全ね」と評判になり、常連客からは親しみを込めて「夜ちゃん」と呼ばれるようになった。
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花と夜の人気コンビ
店内では、もう一人の人気者である花が、夜と息の合った接客を見せていた。
「夜ちゃん、次のお客様お願いね。」
「はい、花様。お任せください。」
二人のやり取りは自然で、店内の空気をさらに和ませていた。客たちの中には、彼女たちの接客を目当てに通う者も増えていた。
花は笑顔で客席を回りながら、夜の働きぶりをちらりと見て微笑んだ。
「やっぱり夜ちゃん、頼りになるわね。」
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ぴよぴよさんの癒し
店内の天井を見上げると、梁にちょこんと止まっているのは、雪の庭の名物である小鳥、ぴよぴよさんだった。
「ぴよ、ぴよぴよ……。」
その可愛らしい鳴き声が、店内の穏やかな雰囲気をさらに引き立てていた。
常連客の一人がカップを片手に、ふと梁を見上げる。
「あの子、いつ見ても癒されるなあ……。」
そんな声が店内のあちこちから聞こえるたびに、花は満足そうに頷いた。
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ゆっくりとした時の流れ
月の庭は、賑やかすぎず、静かすぎない絶妙なバランスを保っていた。迷惑客の騒動も収まり、客たちはぴよぴよさんを眺めながら、ゆっくりとした時間を楽しんでいた。
「夜ちゃん、次はこのお席お願いね。」
「はい、花様。」
接客に忙しく動き回る二人の姿と、穏やかな空気に包まれる店内。
そこには、ヴィクトリアが去った後の新しい日常が確かに息づいていた――。