南蛮帝国からの帰路、広大な海原の上に一隻の船が進んでいた。静かな波音が響く中、甲板の上で風を受けながら立つのは、第6王女夢姫。彼女は優雅な姿勢で空を見上げ、遠くに浮かぶ雲を眺めていた。
彼女のもとには、本来なら届くはずのない知らせがあった。この海の上で、ジパング王国の国王引退と壱姫の代行就任を知る方法など、本来あるはずがなかった。
だが、彼女の手元にはその全てを記した文があった。それを届けたのは、空高く舞い降りてきた鋭い目を持つないとほーくだった。
ないとほーくの使者
夢姫は手にした文を静かに広げ、中を読み進めた。その内容に驚きながらも、どこか納得したように小さく笑みを浮かべる。
「壱姉様が、国王の引退を促し、代行として国政を握ったというわけね……。」
彼女は文を閉じ、空を見上げる。ないとほーくが甲板の上で翼を広げ、彼女をじっと見つめていた。
「相変わらず、壱姉様のやり方は徹底しているわね。まるで、風が吹いた後に木の葉一枚も残さないような徹底ぶり……。」
そう呟きながら、夢姫の視線は水平線の向こうに向けられていた。その瞳には、少しの不安と期待が入り混じった光が宿っていた。
壱姉様への懸念
「壱姉様が女王代行、そしていずれ正式に即位する……。」
彼女は風に髪を揺らされながら、苦笑を浮かべた。
「世界征服とか言い出さなければいいけど……。」
その言葉は軽い冗談のようでありながらも、どこか現実味を帯びているように聞こえた。
壱姫の計画性とその影響力をよく知る夢姫だからこそ、彼女の動向がどれほど国や世界に影響を与えるのかを理解していた。
帰国への決意
夢姫はないとほーくに視線を戻し、軽く頷くと、そっと指示を与えるように呟いた。
「伝えなさい。私は予定通り帰国するわ。ただし、壱姉様には私の帰国を大々的に知らせないように。」
ないとほーくはその言葉に応えるように一声鳴くと、再び空へと舞い上がった。その姿を見送りながら、夢姫は再び海を見つめる。
「さて、壱姉様がどんな未来を描いているのか……私も見届けないとね。」
彼女の心には、未知の未来への期待と、姉妹としての責任感が静かに燃え始めていた。
夜からの報告
雪の庭の奥、閉店後の静けさが漂う店内。カウンター席に雪乃、月、花が集まり、夜の話を聞いていた。夜はその端正な顔に無表情を浮かべながら、淡々と事実を告げる。
「国王陛下が高齢を理由に引退されることが決定しました。」
その言葉に、雪乃、月、花は一様に驚きの声を上げる。
「ええ、父上が?健康を害されたのかしら?」
雪乃が眉を寄せ、心配そうに問いかけた。
夜は冷静に首を横に振りながら続ける。
「いえ、健康には問題ございません。ただ、後進に譲るために引退を決断されたのです。これに伴い、国王代行には壱姫様が就任されます。そして、いずれ正式に即位され、女王になることが確定しています。」
突然の発表に驚く三人
その報告に、月は椅子から立ち上がり、大声を上げた。
「えー!来るべき時がきたー!」
花も目を見開きながら驚きを隠せない様子で呟く。
「まさか、壱姉様が……国王代行として、そしていずれ女王に……。」
雪乃は目を閉じ、少し考え込むようにしてから静かに言った。
「父上が引退されるなんて……でも、それが壱姉様なら、納得できるわ。」
夜の補足
夜は三人の反応を冷静に見つめながら、さらなる補足情報を伝えた。
「私は、ないとほーくオリジナルと常時データ回線が繋がっております。壱姫様の決定事項や動向について、必要な情報は逐一共有されています。今回の引退についても、壱姫様の尽力があったと伺っています。」
月が眉をひそめながら夜に問いかける。
「つまり、壱姉様が父上を説得して引退を決断させたということ?」
夜は頷きながら答えた。
「はい。そのようです。壱姫様の計画に従い、王国は新たな時代へと進むことでしょう。」
それぞれの反応
雪乃は小さく笑みを浮かべ、どこか懐かしそうに呟いた。
「壱姉様らしいわね……でも、これから私たちも、何かの形で役に立てるようにしないと。」
月は少し不安そうに眉を寄せながらも、決意を込めた表情で言った。
「壱姉様が女王になる……ってことは、また何か大きな波が来そうね。でも、私たちが支える番よね。」
花は微笑みながら静かに付け加える。
「そうね。壱姉様が動くということは、私たちの役割も変わるかもしれない。でも、できることをやるだけよ。」
夜は三人の意見を静かに聞きながら、最後に付け加えるように言った。
「壱姫様の指揮のもと、王国は新たな時代を迎えます。そして、それを支えるために、皆様の力も必要となることでしょう。」
その言葉に、雪乃、月、花は互いに頷き合い、新たな覚悟を胸に抱くのだった――。