ジパング王国の旗艦「草薙の尊」は、巨大な船体を激しく揺らす荒れ狂う波の中、進路を遮るものすべてを押しのけるようにラルベニアを目指して突き進んでいた。大荒れの天候で空は黒く曇り、風と雨が甲板を叩きつけている。
その甲板の中央、暴風雨の中で微動だにせず仁王立ちしている一人の女性がいた。堂々たる威厳とともに立つその姿――壱姫だった。その視線の先には、遠くかすかに見え始めたラルベニアの地が広がっていた。
壱姫の後ろには、同じく嵐の中でも全く動じることなく控えているヴィクトリアの姿がある。嵐の風に翻弄されることもなく、彼女はまるで嵐そのものを無視しているかのような平然とした表情を浮かべていた。
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艦長の叫び
「姫!ヴィクトリアさん!危ないぜ。艦内に戻ってください!」
荒れる甲板でバランスを取るのに必死な艦長が、二人に向かって声を張り上げた。
甲板のクルーたちも驚愕の表情を浮かべ、呆然と立ち尽くしている。 「なんなんだ!あの二人の体幹は……。」
「壱姫様!濡れます。艦内にお戻りください!」
艦長の言葉に気づいた壱姫は、ようやく振り返ると、不機嫌そうな声で応じた。
「ふむ、確かに冷えたのう。茶でも飲もうか。準備しろ、ヴィクトリア。」
その命令に、ヴィクトリアは即座に頭を下げ、短く返答する。
「かしこまりました。」
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荒れる船内での優雅さ
嵐の中で艦内に戻った壱姫とヴィクトリア。巨大な船である「草薙の尊」の中といえども、激しい揺れが続いている。しかし、二人は揺れる床に足を取られることなく、優雅に歩を進めていく。
ヴィクトリアは執務室に入ると、即座にティーカップを用意し始めた。その手には全く迷いがなく、揺れる船内にもかかわらず、一滴もこぼすことなくお茶を注いでいく。
「どうぞ、壱姫様。」
差し出されたティーカップを、壱姫は当然のように受け取る。そして、揺れる船内にもかかわらず、一滴もこぼさずにお茶を飲み始めた。その姿には、嵐の中でさえ決して崩れない優雅さと威厳が漂っている。
「ふむ。これでやっと落ち着けるのう。」
壱姫は満足げにお茶を口に含みながら、窓の外で荒れ狂う海を見つめた。
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最強の姫と最強のメイド
その光景を目にした艦長やクルーたちは、ただ呆然と二人の姿を見つめていた。
「何なんだ……あの二人は……。」
「嵐の中で仁王立ちして、今度はこの揺れでティータイムか……。」
彼らの目には、壱姫とヴィクトリアの姿がまるで嵐をも超越する存在として映っていた。
嵐の中、威厳と優雅さを保ちながら進む「草薙の尊」。その甲板で佇む二人の姿は、最強の姫と最強のメイドそのものだった。
遠くに見え始めたラルベニアの地を前に、船はますますその速度を上げて突き進んでいった――。