ヴィクトリアの来店
壱姫が雪の庭を訪れた翌日。店内には、昨日とは打って変わって穏やかな空気が流れていた。壱姫がラルベニア王城に向かい、雪乃たちは平穏な日常を取り戻していた。
そんな中、店の扉が静かに開く。現れたのは、優雅な足取りで現れたヴィクトリアだった。
ヴィクトリアの休暇
「いらっしゃいませ、ヴィクトリアさん。」
月が笑顔で出迎えると、ヴィクトリアは軽く会釈をし、店内に入った。
「壱姫様が城でのお話し合いに集中されている間、少し休暇をいただきました。」
彼女はそう言って席に着き、雪乃、月、花たちと和やかに話を始めた。
「それにしても、昨日は驚きましたよ。壱姉様がいきなり現れるんですもの。」
月が半ば呆れたように言うと、ヴィクトリアは微笑を浮かべた。
「壱姫様の行動は、いつも予測不能ですからね。でも、皆さんに再会できて嬉しかったようです。」
その言葉に、雪乃と花も微笑みを交わした。
ヴィクトリアの過去
話が弾む中、月がふと疑問を口にした。
「そういえば、ヴィクトリアって名前もそうだけど、髪も金髪だし、ジパングの生まれじゃないの?」
ジパング人は総じて黒髪であり、ヴィクトリアの特徴はその典型とは異なっていた。
ヴィクトリアは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑んだ。
「あら、お話ししたことありませんでしたか?」
「聞いた覚えがないわ。」月が首を傾げると、ヴィクトリアはゆっくりと語り始めた。
「実は私、幼少の頃、奴隷商人にさらわれてジパングまで連れてこられたのです。」
その言葉に、店内の空気が一瞬重くなった。
「さらわれたの……?」雪乃が驚いたように尋ねる。
「はい。私の本名も、どこの国の生まれなのかも覚えていません。ただ、ヴィクトリアという名前だけが残っていました。」
その告白に、一同は言葉を失った。
壱姫との出会い
ヴィクトリアは続けた。
「ですが、奴隷商人たちは壱姫様によって壊滅させられました。当時捕らえられていた子供たちは、壱姫様の手配で皆それぞれの親元に送り返されました。」
「それで、ヴィクトリアは?」月が慎重に尋ねる。
「私には帰るべき場所がわかりませんでした。そのため、壱姫様にお願いして、お仕えさせていただくことになったのです。」
その言葉に、雪乃、月、花の三人はしばらく黙り込んだ。しかし、その沈黙を破ったのは花だった。
「壱姉様のことだから、ヴィクトリアさんをただ放っておくことなんてできなかったのでしょうね。」
ヴィクトリアは微笑みながら頷いた。
「はい。壱姫様は私を必要としてくださり、私も壱姫様のために尽くすことを決めました。それが、私の居場所となったのです。」
温かな絆
店内には、しばらく温かな沈黙が続いた後、月が少し明るい声を出した。
「そうだったんだ……でも、今こうしてヴィクトリアが元気でいてくれてよかった。」
「ええ、壱姉様に感謝ですね。」
雪乃も優しく微笑む。
ヴィクトリアはその言葉に感謝の笑みを浮かべた。
「皆さんとこうしてお話しできるのも、壱姫様のおかげです。」
「じゃあ、今日はゆっくり楽しんでいってね。」月が笑顔で言い、花が新しいスイーツを用意するために席を立つ。
平穏な日常の中で紡がれる小さな絆――ヴィクトリアの来店は、雪の庭に再び優しい温もりをもたらしたのだった。