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第38話 2:海賊退治の提案



ラルベニア王国の客室。

窓から差し込む光が静かに室内を照らし、リヒター公爵は慎重に扉を開ける。壱姫はすでにその場に座り、冷静な目で彼を見つめていた。


「壱姫殿下、国王陛下が奴隷解放省の開設を決定しました。」

リヒター公爵の声には、どこか誇らしげな響きがあった。

「これも壱姫殿下のご助力の賜物です。国王陛下も壱姫殿下のご協力にいたく感謝しており、何らかの礼をしたいと仰せです。」


壱姫は冷静に一息ついてから、口を開いた。

「気にするでない。奴隷解放こそ、妾の望みだ。」

彼女は少しの間、沈黙を保ち、リヒター公爵をじっと見つめた後、続けた。

「そこが妾に対する礼と思ってもらって構わない。……いや、そうだな…一つ礼をもらおうか。」


リヒター公爵は驚いた表情を浮かべる。

「はっ、なんなりと。国王陛下も心よく応じるでしょう。それで、何を?」


壱姫はゆっくりと立ち上がり、手を広げて室内を見渡した。

「ならば、海賊退治の件を、妾に任せていただきたい。」

リヒター公爵はその言葉を聞いて目を見開いた。

「え?海賊退治が礼?」


「うむ。」壱姫はにっこりと微笑みながら頷いた。

「こちらに来てから、デスクワークばかりで運動不足じゃ。少しばかり暴れたい…いや、少し体を動かしたいのじゃ。」


リヒター公爵は一瞬、言葉を失った。

「壱姫殿下、海賊退治は……簡単な話ではありません。海賊団は無数にあり、力も強大です。」


壱姫はリヒター公爵を静かに見つめ、そして穏やかながらも強い意志を込めて言った。

「海賊団が無数にいても、妾にはそれを制圧する力がある。妾が本気で挑めば、たちまち無力化できる。」

彼女の目には、冷徹でありながらも確かな自信が宿っていた。


リヒター公爵はその自信に圧倒され、思わず背筋を伸ばした。

「確かに、壱姫殿下の力を借りれば……ただ、海賊退治が今後の国の戦略にどう影響するかが問題です。」

彼は一歩踏み込んで、真剣な表情で言った。


壱姫は軽く肩をすくめながら、あくまで落ち着いた口調で答えた。

「それも問題ではない。海賊退治の後は、戦果として名をあげておけばよい。国の評判も高まり、我が国の民の士気も高まるだろう。」


リヒター公爵はしばらく黙って考えた後、ゆっくりと頷いた。

「わかりました。壱姫殿下のご提案、国王陛下にも伝えておきます。しかし、今後の行動において、壱姫殿下の安全を最優先に考慮させていただきます。」


壱姫は軽く微笑みながら、手を振った。

「安心せい、妾は常に自分の身を守れるよう、十分な準備をしている。早速、海賊団の根城を探し、動き出すとしよう。」

その言葉には、確かな決意と冷徹な意志が込められていた。


リヒター公爵は頭を下げ、口を閉じたままその場を後にした。壱姫の力強い提案とその決意に、少なからず驚きを感じていたが、同時に彼女の本気を理解したのだった。



第38話:2 壱姫、海賊討伐の準備


壱姫は窓の外に目を向けながら、腕を軽く上げた。すると、1羽の猛禽類がその腕に軽やかに止まる。その鋭い目が壱姫の命令を待つように輝いている。


「少し、ストレス発散ができそうじゃ…ないとほーくよ!」

壱姫が命じると、ナイトホークは鋭い鳴き声を上げ、大きな翼を広げた。


「海賊どもの根城を探るのじゃ。行け、ないとほーくよ!」

その声に応じるように、ナイトホークは弧を描くように飛び立ち、窓から海の方向へと向かっていった。


その姿を見送った壱姫は満足そうに微笑み、ヴィクトリアに目を向けた。

「さて、妾も準備じゃ。草薙の尊へ参るぞ、ヴィクトリア。」


ヴィクトリアは、壱姫に従い歩き出す。






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