港に巨大な影を落としながら、草薙の尊が静かに着岸する。その圧倒的な威容に、人々は息を飲み、出迎えるリヒター公爵の騎士団さえも畏敬の念を抱いていた。
壱姫は甲板に立ち、堂々とした姿で港を見下ろす。
「艦長、捕らえた海賊どもを降ろせ。リヒター卿の騎士たちに引き渡すのだ。」
「はっ!」
艦長は即座に命令を伝え、縄で縛られた海賊たちが次々と甲板から連れ出される。
リヒター公爵は壱姫に一礼しながら報告する。
「壱姫殿下、夜殿からの報告により、ハウゼン伯爵が奴隷商を裏で操る黒幕であることを把握しております。すでに我が騎士たちは、彼の動向を監視しております。」
壱姫はその言葉に満足げに頷く。
「うむ、よくやった。だが、監視だけでは足りぬ。すぐにその屋敷に乗り込み、奴を拘束せねばならぬ。」
リヒター公爵はやや慎重な表情を見せた。
「殿下、その通りではございますが、ハウゼン伯爵はこの国の貴族でもあり、かつ高位の役職に就いております。貴族としての手続きなしに拘束するとなれば、他の貴族たちから異論が出る可能性も……。」
壱姫はリヒター公爵の言葉を遮るように、冷然とした目で言い放つ。
「異論?このような卑劣漢をかばう者がいるならば、それごと妾が一掃してやる。それがこの国のためであろう。」
リヒター公爵はその迫力に圧倒され、深く一礼した。
「……御意。殿下のお考えに従います。」
夜との合流
壱姫とリヒター公爵、そして半数の騎士団を率いて、ハウゼン伯爵の屋敷へ向かう一行は、すでに夜が待ち構える屋敷前に到着する。
夜は、きびきびとした動きで壱姫に近づき、報告を始めた。
「壱姫様、ご報告します。屋敷の周囲をちびドローンで監視していますが、今のところ大きな動きはありません。ただし、木に縛り付けた兵士が一人おります。」
壱姫はその言葉に眉を上げる。
「木に縛り付けた兵士とはどういうことだ?」
夜は指差しながら説明を続けた。
「あれです。先ほど、屋敷に入ろうとしたため拘束しました。尋問したところ、捕らえられた海賊が全滅したか確認するための伝令だったことが判明しました。」
壱姫はその兵士を一瞥し、冷然と微笑む。
「よくやった。つまり、ハウゼンは未だ海賊が捕らわれたことを知らぬというわけだな。」
「はい、その通りです。」
壱姫は考えるように頷き、一言告げた。
「ならば、こちらから知らせてやる必要もあるまい。奴が油断しているうちに動くぞ。」
突入の決断
壱姫は夜に向き直り、冷然と命じる。
「夜よ、その兵士はヴィクトリアに任せておけ。我々は屋敷に突入する。ハウゼンを拘束し、この国を蝕む腐敗の根を断つのだ。」
リヒター公爵もすぐに応じる。
「殿下、我が騎士たちが全力でご支援いたします。」
壱姫は満足げに頷き、剣の柄に手をかけた。
「よい。これ以上の猶予は与えぬ。夜、準備はよいか?」
「いつでも動けます。」
夜は短く答え、鋭い視線を屋敷に向けた。
壱姫はヴィクトリアを振り返り、軽く手を振る。
「ヴィクトリアよ、あの伝令兵を見張っていろ。妾たちはハウゼンを引きずり出してくる。」
「御意、壱姫様。お気をつけて。」
壱姫は微笑み、屋敷の門に向けて一歩を踏み出した。
「行くぞ、賊を一掃し、この地を清めるのだ。」
騎士たちは壱姫の後を続き、屋敷内へと突入する――。