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第40話 3: 壱姫とハウゼンの対決


ハウゼンの部屋


ついに壱姫一行は屋敷の最奥、ハウゼン伯爵の部屋にたどり着いた。扉を開けた先には、動揺の色を隠せない中年の男――ハウゼン伯爵と、その横に控える騎士と思しき一人の青年が立っていた。


その青年、アシュリーと呼ばれる男は、これまでの雑兵たちとは明らかに違う風格を持っており、壱姫もその力量を敏感に感じ取っていた。


アシュリーとハウゼンのやりとり


「アシュリー、賊を排除せよ!」

ハウゼンは震える声で命じるが、アシュリーは微動だにしない。


「分かっている……だが、この者……いや、この方は容易ならぬ相手だ……!」

アシュリーは壱姫を一瞥し、その威圧感に冷や汗を浮かべていた。


「ええい!早くせんか!私の命令に従わねば、お前の妹がどうなるか分からんぞ!」

ハウゼンの卑劣な言葉にアシュリーは苦悶の表情を浮かべながら歯を食いしばる。


壱姫の冷静な判断


壱姫はそのやりとりを静かに見守り、ふと冷たい笑みを浮かべた。

「なるほど。お主ほどの男が、こんなくだらぬ男についている理由は人質か……」


壱姫はすぐに夜へ指示を出す。

「夜、ハウゼンを拘束してしまえ。さすれば人質など意味をなさぬ。」


「アシュリー、誰も私に近づけるな!」

ハウゼンは絶叫するが、壱姫は軽く手を振りながら言い放った。

「大人しくしておれ。お主は妹御を助けたいのであろう?」


その言葉にアシュリーは立ち尽くし、動けなくなってしまった。彼がためらっている隙に、夜は素早くハウゼンを拘束する。


ハウゼンの無力さ


「くっ……!何をしている、アシュリー!早く私を助けんか!」

しかし、ハウゼンの必死の叫びもむなしく、彼は夜によって身動きできない状態にされる。


壱姫は冷ややかに言葉を投げかけた。

「この状況、手元に人質がおらんでは、何の意味もないであろう。卑劣なクズだけかと思ったが、とんだ低脳だ。」


ハウゼンの目が恐怖に見開かれる中、壱姫は夜に命じる。

「この者の妹御を探してこい。」

「はい。」

夜は素早く部屋を飛び出していった。


アシュリーの覚悟


拘束されたハウゼンを横目に、アシュリーはドカリと床に腰を下ろした。

「壱姫殿下ですな……どのようにも処断してください。人質を取られていたとはいえ、私は壱姫殿下に剣を向けたのです……」


壱姫はその言葉に軽く鼻を鳴らし、毅然とした態度で答えた。

「まぁ、潔い覚悟ではあるが、お主がこの世からおらんようになれば、妹御が悲しむであろう。」


「しかし、大罪には変わりありません。」

アシュリーは顔を上げずに言葉を続けた。


壱姫は少しだけ目を細め、静かな声で言った。

「妾にも妹がおる。貴公の悔しさ、妾にはよく分かるぞ。妾が同じ立場であれば、同じ選択をせざるを得んだろう。」


妹との再会


そこへ夜が戻ってきた。彼女は手を引いた一人の少女を伴っていた。少女は震えながら壱姫の前にひざまずいた。


「壱姫様……兄をお許しください。兄は、私のためにハウゼンに仕方なく従っていたのです……」

彼女の声は震え、涙が頬を伝う。


壱姫はしばしその姿を見つめると、静かに微笑んだ。

「さて?何のことかな?お主の兄は、この卑劣な男の捕縛に協力した功労者ぞ。」


その言葉に少女の目が驚きに見開かれた。

「壱姫様……」


彼女は涙を流しながら兄のもとに駆け寄り、二人は抱き合った。

「無事でよかった……」

「兄様こそ……」


リヒター卿の登場


そこにリヒター卿が部下を連れて現れた。

「壱姫殿下、無事で何よりです。」


ハウゼンは彼を見て、最後の望みとばかりに叫んだ。

「おお、リヒター公爵殿!助けてくれ!このふらちな賊どもを!」


しかし、リヒター卿は冷たく言い放った。

「ハウゼン伯爵、貴公の罪状は明白だ。それに、こちらにおられる方はジパング王国の第一王女、壱姫殿下であらせられる。」


ハウゼンの顔から血の気が引いた。

壱姫は彼を冷ややかな目で見下ろし、軽く肩をすくめた。

「お初にお目にかかる、クズ野郎。では、この者の件、頼むぞ、リヒター卿。」

「はっ、仰せのままに!」


最後の一言


壱姫は全ての状況を掌握し、悠然と屋敷を後にした。

「さあ、次は何をして楽しもうかの。」

その背中には、圧倒的な威厳と力、そしてどこか愉快そうな余裕が漂っていた。






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