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第40話 4:エピローグ

壱姫は屋敷から悠然と歩き出し、外で待機していたヴィクトリアのもとへ向かった。彼女の表情はどこか満足げだった。


「ヴィクトリア、戻ったぞ。その兵士も騎士たちに引き渡すがよい。」

「かしこまりました、壱姫様。」

ヴィクトリアは即座に従い、縛られた兵士を騎士たちへと引き渡す手配をする。


壱姫は大きく伸びをしながら、肩を軽く回した。

「さて、茶でも飲みに雪の庭に参るとするか。」

「雪乃様もお待ちしておりますでしょう。」

ヴィクトリアと夜は壱姫の後を一歩下がって歩きながら、控えめに微笑んだ。


雪の庭へ向かう途中


壱姫は歩きながら軽く振り返り、ヴィクトリアに問いかけた。

「しかし、奴隷商人どもの一掃はともかく、この国の腐敗もなかなか手強いものじゃな。」

「はい。内部に蔓延る不正の根は深いかと存じます。」

「まぁ、今回は良い具合に時間つぶしにはなったがな。妾もそろそろ本来の目的を進めねばなるまい。」

壱姫は口元に笑みを浮かべながら、再び前を向いた。


「雪乃の淹れた茶が恋しいぞ。早く行くぞ、ヴィクトリア。」

「承知しております、壱姫様。」

その言葉に、壱姫は軽やかな足取りで再び前へ進み始めた。


雪の庭の入り口


雪の庭に到着した壱姫とヴィクトリア。店の扉を開けると、室内では雪乃が優雅に紅茶を飲んでいた。月と花も、それぞれ片付けや雑談に興じている。


「戻ったぞ、雪乃。」

壱姫の声に、雪乃は静かにカップを置き、微笑みながら応じた。

「お帰りなさい、壱姉様。」


「ほう、平和そうじゃな。ここはまるで別世界のようだ。」

壱姫は言いながら椅子に腰を下ろすと、ヴィクトリアに目配せする。

夜は、エプロンを付けカウンターの中に入る。


「雪乃、妾のために茶を一杯淹れてくれぬか。」

「もちろんです、壱姉様。」

雪乃は手際よく紅茶を用意し、壱姫の前にカップを置いた。


雪の庭の平穏


壱姫は紅茶の香りを楽しみながら一口含み、満足げに頷いた。

「やはり、雪乃の茶が一番じゃ。」


月が苦笑しながら問いかける。

「壱姉様、やりすぎたりしませんでしたよね?」

壱姫は眉を上げながら、いたずらっぽく笑った。

「さてのぅ、地形を変えるほどではなかったと思うが……夜がどう報告するかは知らんぞ。」


雪乃が優雅に紅茶を飲みながら静かに呟いた。

「やっぱり平和が一番です。」


その一言に、壱姫も口元に笑みを浮かべた。

「全くだ。平和を守るためなら少々暴れるのも悪くはないがな。」


店内には穏やかな空気が流れ、壱姫の高笑いとともにその場は笑顔に包まれていった。



---


壱姫は紅茶を片手に、椅子にもたれかかりながら話を続けた。

「他国のことじゃ。彼らの顔を潰すような真似はせんよ。」


その言葉に、月がやや皮肉を込めた口調で問いかける。

「それは、ジパングだったら容赦しないという意味ですか?」


壱姫はにやりと笑い、茶を一口飲んでから豪快に答えた。

「当然であろう。妾の国を汚すような輩なら、容赦なく消し炭にしてくれるわ!」


言葉を放つと、壱姫は豪快に笑い飛ばした。その声は雪の庭の静けさを一瞬だけ破り、周囲を驚かせるほどだった。


雪乃はその様子を見て、微笑みながら小さくため息をついた。

「壱姉様、本当にジパングの防衛がかかっているときは、容赦しないでしょうね。」


月も肩をすくめながら苦笑する。

「壱姉様の怖さを知ってるのは私たちだけだから……ジパングに手を出そうなんて、誰も考えないでしょうけどね。」


壱姫は月の言葉に満足げに頷き、さらに豪快に笑った。

「その通りじゃ。妾の名を知らしめるだけでも、敵は震え上がるであろうよ!」


店内には再び壱姫の笑い声が響き渡り、雪乃たちはそのエネルギッシュな姿に呆れながらも、どこか頼もしさを感じていた。



雪の庭の静かな午後、月がカウンター越しに雪乃に話しかけた。

すでに壱姫は、ラルベニア王宮の客間へとひきあげていた。

「今回の壱姉様の活躍で、戦姫とか姫騎士とか、噂されてるらしいわ。」


雪乃は手元の紅茶を口に運びながら、小さく笑みを浮かべた。

「まぁ、この国の人々は、壱姉様の一面しか知らないからね。戦姫や姫騎士なんて、そんな単純なくくりでは彼女の本質を表せないのよ。」


月はティーポットを片手に、お茶を注ぎながら首を傾げる。

「確かに……でも、戦場での姿を見た人たちには、それが彼女のすべてに見えるんでしょうね。」


その会話に、花が横から口を挟む。

「でも、壱姉様の本当の姿を知ったら、この国の人たち驚くわよね。だって、あの豪快さと繊細さ、そして時々のわがままぶり……全部合わせて壱姉様なんだから。」


雪乃は微笑みながらティーカップをそっと置き、椅子にもたれかかる。

「そうね。でも、それが壱姉様の魅力なんだから。どんな呼び名がつこうと、壱姉様は壱姉様だもの。」


そのとき、カウンターの端で夜が静かに報告するように話し出した。

「壱姫様から、最新の命令が届きました。『次に茶を飲みに行くときは、雪乃が選んだスイーツを楽しみにしている』とのことです。」


雪乃は小さく笑い、肩をすくめた。

「相変わらずね。でも、あの人らしいわ。じゃあ、壱姉様が楽しめるように、特別なスイーツを考えておきましょう。」


月は紅茶を注ぎながら呟く。

「戦姫だろうと姫騎士だろうと、結局はただの姉様なのよね、私たちにとっては。」


雪乃は微笑んで頷き、優雅に紅茶を口に運んだ。


窓の外では穏やかな風が吹き、雪の庭にはいつもの平和が流れていた――。



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