雪の庭
壱姫は、雪の庭に現れると、いつものように堂々とした態度で店内を見渡した。そして、店の中央に立つと、雪乃、月、花に向かって宣言した。
「さて、妾は帰国するが、雪乃、月、花、同行せよ。」
突然の言葉に、3人は一瞬目を見合わせ、戸惑いの色を浮かべた。
「え?」と月が反射的に声を上げる。
「え?」と花も続く。
壱姫は腕を組み、冷ややかな目で2人を見下ろした。
「え?ではない!妾の即位式に出席してもらわねばならぬ。この件に関しては、拒否権があると思うな!」
「即位式……ですか?」雪乃が戸惑いながら尋ねる。
「そうじゃ。妾が正式にジパングの女王として即位する式典だ。妹たちがそこにいないなどあり得ぬ!」
月は慌てたように手を振る。
「でも、私たち、普通の店員ですし……そんな場に出るなんて……。」
「普通の店員などとは言わせぬ。妾の妹たちが即位式に出席せぬなど、国の恥にもなろう。黙ってついて来い。」
花が困惑した表情で口を開く。
「でも……私たちが出席しても、場違いにならないでしょうか?」
壱姫は、にやりと笑みを浮かべる。
「即位式には、お前たち6人の妹が揃ってなければならない」
雪乃は肩をすくめながら、微笑を浮かべた。
「でしたわね」
月と花もため息をつきながらうなずいた。
「わかったわ。そのかわり、無理難題は言わないでくださいよ?」月が念を押すように言うと、壱姫は朗らかに笑った。
「はっはっは!その無理難題を叶えるのが妾の役目ではないか!楽しみにしておれ!」
こうして、雪乃たちのジパングへの旅と壱姫の即位式出席が決まったのだった――。
壱姫は紅茶を飲みながら、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、この国の代表には、第一王子アレックス? といったか?ヤツが出席する。妾を笑わせた男だ。今回も楽しませてくれるかのう?」
雪乃は困ったような笑みを浮かべながら答える。
「本人は、いたって真面目だったんですよ。」
壱姫は、カップを置き、肩を揺らして笑った。
「だからこそ面白いのだ。真剣な顔で夜に求婚するとは……あの場面を思い出すだけで笑いが止まらぬ。」
月が呆れたようにため息をつきながら呟く。
「壱姉様、本当に楽しんでますよね……アレックス殿下が可哀想になります。」
壱姫は全く意に介さず、むしろ楽しげに続ける。
「可哀想?いや、彼には面白い役割がある。それにしても、式典に我が妹が全員揃うとは、見ものだな。妾の自慢の妹たちよ、世界にその存在を知らしめる時が来た!」
花が慎重に口を挟む。
「でも……私たち、目立つのは苦手なんですけど……。」
壱姫は花の肩を叩き、満面の笑みを浮かべた。
「何を言う、目立たねばつまらぬではないか!心配するな、妾がすべてを仕切る。全世界が注目する中で、妾とお前たちが輝く様を見せつけるのだ!」
雪乃と月、花は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。壱姫の言葉には逆らえないと分かっているからだ。
「まあ、壱姉様がそこまでおっしゃるなら……仕方ないですね。」雪乃が半ば諦めたように言うと、壱姫は満足げにうなずいた。
「よい心構えだ。さあ、準備を整えよ。我らがジパングに凱旋する時が来たのだ!」
壱姫の声が店内に響き渡り、雪乃たちのジパングへの旅は、賑やかな幕開けとなった――。
雪の庭
壱姫の帰国に伴い、雪乃、月、花の3人が随行することが決まった。さらに、忍と弥生も雪乃たちの随員として同行することになり、店の主要メンバーが全員ジパングへ向かうこととなった。
その知らせを受けた雪の庭の常連客たちは、驚きとともに惜別の声を上げる。
「そんな、雪の庭が閉まるなんて……。」
「長期の閉店なんて初めてじゃないか?」
「雪乃さんたちがいない間、私たちはどこで癒やされれば……。」
さらに、ラルベニア王国からは、第一王子アレックスも公式代表としてジパングに向かうことが決まり、彼の随員としてクラリスとシモーヌが同行することとなった。
店内の最後の賑わい
閉店前夜、雪の庭は常連客たちで賑わっていた。雪乃たちが旅立つ前に、最後にこの場所を楽しもうという人々で埋め尽くされている。
「雪乃さん、月さん、帰ってくるまで店が恋しくなりそうです!」
「帰ってきたら絶対に教えてくださいね!またお茶を飲みに来ますから!」
雪乃は微笑みながら常連たちに答える。
「もちろんです。しばらくお待たせしてしまいますが、必ず戻ってきます。」
月も気さくな口調で続けた。
「戻ったらまた特製スイーツを用意しておきますよ!」
花は少し照れくさそうに微笑みながら、みんなの言葉にうなずく。
閉店の準備
最後のお客が帰った後、雪乃たちは静かに店内を見回した。温かな灯りに照らされた店内は、彼女たちの手で整えられ、次に戻ってくる日を待つかのように静かだった。
「……本当に閉めるんですね。」花がぽつりと呟いた。
「大丈夫。私たちがいない間も、この店のことを思ってくれる人たちはたくさんいるわ。」雪乃は優しく言う。
月が頷きながらカーテンを閉めると、忍と弥生が店の最後の掃除を済ませ、鍵を閉めた。
新たな旅立ち
その翌日、雪乃たちは壱姫と合流するため、草薙の尊に向かう。クラリスとシモーヌは、第一王子アレックスとともに準備を整え、ジパングへの同行を決めていた。
こうして、雪の庭は創業以来初めての長期閉店となった。
だが、それは新たな旅立ちの始まりでもあった。
雪乃たちは、彼女たちの新たな物語を描くために、故郷ジパングへの船旅に出発した。