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第41話 3:花の大計画



花は自室の扉を開け、懐かしい空気を吸い込みながら小さく息をついた。

「久々に帰ってきた……」


部屋の中は以前と何も変わらない。簡素だが機能美を重視した家具が並び、机の上には整然と並べられた道具や資料。まるで、自分がここを出て行った日から時間が止まっているかのようだった。


彼女は机の前に腰を下ろし、小型の魔導端末を取り出した。そして、ラルベニアで得た膨大なデータを端末に接続しながら呟いた。

「さて、ラルベニアで得たデータをまとめないと……。」


現地で得た新たな魔導技術の記録が次々と表示される。


花は目を細めながら、その一つ一つを確認し、不要なデータを削除していく。

「ふむ……ヴィクトリアからの報告と夜の記録が重複してる部分があるわね。これは整理して……。」


指先が端末の画面を滑るたびに、情報が次々と整理されていく。まるで生き物のように動くデータ群に、花は集中して取り組む。


しかし、ふと手を止め、窓の外を見つめた。


「……ジパングに帰ってきたけど、またすぐにラルベニアに戻ることになるのよね。」


彼女の表情にわずかな疲労の色が浮かぶ。だが、その奥には確かな使命感と、壱姫を支える覚悟が宿っている。


「まぁ、休む暇なんて最初からないわよね。」


再び端末に向き直り、花は作業を再開した。彼女が積み重ねるデータは、壱姫の次なる行動を支えるための重要な基盤となる。


「あともう少しで整理が終わる……これが片付いたら、雪姉様たちに報告しに行こう。」


静かな部屋の中、端末の画面が淡い光を放ちながら、花の集中を支えるかのように輝き続けていた――。



花は端末の画面を操作しながら、思考を巡らせていた。

データの整理を進める中で、ふと頭に浮かんだのは「ないとほーく」や「夜」の存在だった。壱姫を支える魔導具として設計されたそれらは、花の技術の結晶であり、彼女の誇りでもある。


しかし、ラルベニアでの出来事を振り返るたびに、彼女の中に新たな疑問が生じていた。

「ないとほーくと夜……特に夜のデータ……。」


画面に映し出された夜の行動記録には、想定以上の柔軟性が見られた。まるで人間のように感情的な反応を示す場面さえある。

「人間のような反応ができる思考AIのホムンクルス……不可能ではないけど……おこられそうだわ。」


花は苦笑しながら、画面に映る夜の記録を見つめる。壱姫や他の皆の会話に対する微妙な反応――それはただ命令に従うだけの魔導具には到底再現できない、ある種の個性がにじみ出ていた。


「……もし、これをもっと進化させたら……?」


ふと浮かんだのは、人間に限りなく近いホムンクルスの可能性だった。感情を持ち、自由な意志で行動できる存在。

「それこそ……子供を産めるホムンクルス……。」


花は自分の考えに驚き、手を止めた。そして、自嘲気味に笑う。

「そこまでやったら、さすがに壱姉様にも怒られるかな……。」


壱姫の厳しい顔が思い浮かぶ。彼女なら確実に眉をひそめ、叱責するだろう。

「妾の国にそんなものがあってたまるか!とか言いそう……。」


しかし、その一方で、心のどこかに微かな期待もあった。技術者としての挑戦心――未知を切り開くことへの衝動が、花の胸を高鳴らせる。


「……でも、もし、これが本当にできたら……夜も、もっと自由になれるのかもしれない。」


一瞬、花の頭に夜が微笑む姿が浮かんだ。しかし、すぐに首を振る。

「ダメダメ、そんなこと考えちゃ……。現実的じゃないし、壱姉様にも怒られるだけだわ。」


それでも、彼女の中で芽生えた考えは消えることなく、静かに胸の奥に残った。


「さ、仕事に戻らないと。」


気を取り直し、再び画面に向き合う花。その目は、いつもの冷静な光を取り戻していた。だが、彼女の胸の奥で静かに燃え始めた情熱は、いつか何かを形にするのかもしれない――。


花の自室


花は机に向かって座り込み、手元の設計図をじっと見つめていた。

彼女の思考は、次第に夢中になり、以前から考えていたアイデアに形を与え始めていた。


「空中戦艦……」花は呟きながら、ふと顔を上げた。

「確かに、空を制する戦艦ならば、次は空中戦だ……それなら、この先の戦争でも圧倒的な優位を保てるだろう。」


彼女の中で閃きがひらめき、設計の構想が徐々に明確になっていく。

「空中戦艦か。陸の制圧も大切だが、空の制圧こそが未来の戦局を決める。空を支配する艦を作る。」


花の目が輝き、手元に置かれたペンを一気に走らせる。

「名前は……そう、日本武尊にしよう。」


その名前に込めた意味は、花の中で決して揺らぐことのない信念だった。日本武尊は日本の歴史を代表する英雄であり、強さと優雅さを兼ね備えていた。空中戦艦「日本武尊」は、まさにその名にふさわしい艦となるはずだ。


花は設計図に次々と細部を加えていく。

「空中戦艦だから、飛行能力はもちろん、耐久性、機動性、そして戦闘能力も全て高いレベルでバランスを取らねば。」


彼女は手を止めることなく、次々とアイデアを加えていく。

「浮遊装置は、磁力制御に頼らず、古代技術を使った新型の重力操作装置で。艦の外壁は、軽量でありながら強度も抜群の合金で、戦闘中のダメージを最小限に抑えられるように。」


花は作業に没頭し、どんどん新しいアイデアが湧き出てくる。

「艦内のエネルギー源は、なんといっても無限エネルギーを提供できる新型エンジン。これで長期間の飛行が可能になる。」


その日から、花は空中戦艦「日本武尊」の設計に完全に没頭し、昼夜を問わず図面と向き合わせていく。彼女の目には、これから作り出す艦の姿がしっかりと浮かんでいた。


「これが、未来を変える艦になる。世界を制するのは、これだ。」


花は決意を胸に秘め、手を休めることなく設計を続けた。


花の自室


花は机に向かい、手元に広げた設計図を見つめながらニヤリと微笑んでいた。その目は何か大きな企みを含んでいる。


「空中戦艦、日本武尊……これが完成すれば、地上どころか空の覇権を握るのは間違いない……!」


花は、飛行機さえ実用化されない世界でとんでもない事を考え始めていた。



花は眉間に皺を寄せながら首をかしげた。


「でも……不可能を可能にするのが私の仕事だもの。」

花は再びニヤリと笑みを浮かべた。


「魔道技術を使えば空を飛ぶなんて容易いはず。既存の常識なんて関係ない。壱姉様がよく言うじゃない、"常識に縛られるのはつまらぬ人間のすることだ"って。」

壱姫の言葉を思い出し、ますます気分が高揚する。


「空中戦艦が飛べば、戦略も変わる。地形に左右されないから補給も簡単になるし、攻撃範囲も広がる。ああ、素晴らしい……!」

花はその目を輝かせながら、図面に新たな線を描き加えた。


しかし、ふと窓の外を見てため息をついた。

「でも、この世界の人たち、空中戦艦を見たら腰を抜かすだろうな。そもそも理解してくれるのかしら。」


それでも、花の手は止まらない。常識外れの構想こそが、彼女を熱くさせる原動力だった。


「さすがに壱姉様も驚くかもね。いや、むしろ喜ぶか。」

そう言ってまた笑い、さらに図面を描き続ける。


花の手元には、壮大な空中戦艦「日本武尊」の姿が徐々に形を成していた。


花の自室


花は完成間近の設計図を見つめながら、満足げに頷いた。


「これこそ、壱姉様にふさわしい旗艦になるわ。」

そう呟くその声には、自信と期待がたっぷりと詰まっている。


「草薙の尊も十分すぎるほどの威圧感を持っているけど……壱姉様の規格外の存在感には追いつけないわ。」

花はペンを置き、椅子の背にもたれながら、図面を指先でなぞる。


「空を自在に翔ける空中戦艦『日本武尊』。これがあれば、壱姉様は文字通り、地上にも空にも君臨できる。」

その言葉の響きに、彼女自身も高揚感を覚える。


「空中から魔道粒子砲を撃ち込めば、敵国どころかどんな脅威も一撃で消滅……。いやいや、それだけじゃない。壱姉様なら、空から優雅に指揮を執りながら、世界中にその威厳を知らしめることができるわ。」

花の口元には自然と笑みが浮かぶ。


「旗艦はただの戦艦じゃつまらない。壱姉様の個性を反映した、威厳と美しさを兼ね備えたデザインにする必要があるわね。」

そう言って、図面の端に追加の装飾や優美な形状のスケッチを書き加える。


「艦内には、もちろん豪華な玉座の間も必要ね。壱姉様が居るだけで、どんな敵も平伏するような威圧感のある場所を作らないと。」


ふと、花は目を細めて呟いた。

「これが完成すれば……壱姉様が即位式の後、世界中を訪問するための象徴にもなるわね。まさに王たる存在にふさわしい。」


花は深呼吸をしてから、最後の仕上げに取り掛かった。

「誰も考えたことのない世界初の空中戦艦……私の最高傑作になるわ。これを壱姉様に見せたら、さぞ驚くでしょうね。いや、驚くどころか、きっと笑いながら『面白いぞ、やれ』と言うに違いない。」


図面を描き終えた花は、満足げにその全体を見渡し、小さく呟いた。

「これこそ、壱姉様の覇道にふさわしい船よ。」


彼女の頭の中には、壱姉様が空中戦艦「日本武尊」の艦橋に立ち、堂々と世界を見下ろす光景が鮮やかに浮かんでいた――。

花の独り言と葛藤


完成した設計図を手に、花はジパング海軍工廠に向かって歩いていた。道中、意気揚々としていた彼女だったが、ふと足を止める。


「これで行けそう…!」

設計図を抱きしめ、思わず口にするが、ふとある疑問が脳裏をよぎる。


「あれ?これって海軍工廠でいいのかな?」

花は設計図を眺めながら首をかしげる。


「だってこれ、空飛ぶし……でも空軍なんて存在しないし……。」

彼女の足が止まり、眉間に皺が寄る。


「しまった……飛行機を先に作って空軍を設立すべきだったんじゃないの?」

呆然と呟きながら、設計図を再び見つめる。


「いや、でも待てよ。飛行機なんて小型すぎるし、壱姉様の威厳を示すには力不足よね……。」

彼女の表情が一瞬真剣になったかと思うと、すぐに軽く頭を振る。


「やっぱり間違ってない。壱姉様には小手先の飛行機なんて似合わない。最初から空中戦艦を作るのが正解だわ!」

そう自分を納得させると、再び足を踏み出した。


しかし、数歩進んでまた立ち止まる。


「でも……どう説明しよう……。海軍の人たち、これ見て『え?空飛ぶのに海軍?』ってなるんじゃ……?」

頭を抱える花。


「……いや、大丈夫よね。海軍だって結局“空”も“陸”もカバーしてるし、魔道粒子砲の運用実績もあるし……。」


彼女は再び歩き出しながら、自信を取り戻そうとする。


「それに、もし文句言われたら『じゃあ空軍を作ってください』って言えばいいわ!」

勢いよくそう呟くと、花は工廠の門を見上げ、深呼吸をした。


「よし、行くわよ!空中戦艦『日本武尊』計画、スタートだ!」

胸を張り、堂々と工廠へと足を踏み入れる花だった――その場の誰もが、これからジパングに訪れる新たな時代の到来をまだ知らない。


海軍工廠の混乱


花が設計図を抱え、ジパング海軍工廠の受付を訪れると、若い士官は彼女の姿を認め、目を見開いた。


「は、花姫様!ご訪問とは、なんと光栄な……!」

あわてて背筋を伸ばし、一礼すると、そのまま全速力で奥へと駆け込んでいった。



---


数分後、工廠長官をはじめとする首脳部が、慌ただしく花の元へ集まった。みな顔に緊張の色を浮かべ、汗を滲ませながら頭を下げる。


「花姫様、ご機嫌麗しゅうございます。ご一報いただければ、こちらからお伺いしたのに……!」


花はそんな彼らを気に留める様子もなく、抱えていた設計図を取り出し、軽く広げてみせた。


「いいの、そんなの。ほら、これ見て。」

設計図を首脳陣の前に突き出すと、彼女は胸を張りながら続けた。


「これを作ってほしいの。壱姉様の新しい旗艦にするつもりだから。」



---


首脳陣は設計図に目を落とし、一瞬で凍りついた。その図面には、飛行する巨大な艦船のスケッチと「空中戦艦『日本武尊』計画」という大きな文字が記されていた。


「な、な、なんですか?これは一体……?」

長官が額の汗を拭いながら、困惑した声を漏らす。


「空中戦艦『日本武尊』だよ。」

花はにっこりと笑いながら答える。


「く、空中……?」

長官は口を開けたまま、その場に立ち尽くした。他の士官たちも目を見開き、設計図を食い入るように見つめている。


「そう、空を飛ぶ艦船。壱姉様にふさわしい旗艦にしたいから。」

さらりと説明する花だったが、周囲はもはやパニックに近い状態だった。


「空を飛ぶ…とおっしゃいますが、姫様、それは……技術的に……」

長官が恐る恐る言葉を選びながら言いかけると、花は手をひらひらと振って遮った。


「大丈夫。基礎設計は全部できてるし、動力も魔導粒子炉を使えば問題ないから。あとはね、ここの技術力を信じてるわ!」



---


士官たちは顔を見合わせた後、再び長官が口を開いた。


「姫様、その……我々としても光栄ではございますが、この空を飛ぶ艦船というのは……ええと、前例もなく……」


「だから作るのよ。前例がないのは当然でしょ?」

花は自信満々に答えた。


「そ、それに、そもそも飛行機さて実用化されてない

状態で……」


「だからこそ、先に戦艦を作るの!」

花の言葉は断固としており、彼女の瞳は輝いていた。


「わたし、ちゃんと考えたの。壱姉様が乗る旗艦が空を飛んだら、どれだけ圧倒的かわかるでしょ?」


長官は頭を抱えた。花姫の提案を断るなど、彼の立場では到底考えられない。しかし、この計画のスケールの大きさに目の前が真っ暗になる思いだった。


海軍工廠の決意と花の覚悟


海軍工廠の会議室に集まった士官たちは、花が広げた設計図を前に困惑しつつも、その壮大な構想に圧倒されていた。


「そらをとぶ戦艦、これ以上に壱姉様にふさわしいものは、ないでしょう?」

花は胸を張り、自信たっぷりに語る。その瞳は輝きに満ちていた。


長官は深いため息をつきながら、設計図を指さす。

「その通りでございます。しかし姫様、これは……製造が非常に難航することが予想されます。」


「わかってるよ。」

花はあっさりとした口調で答えると、席を立ち、堂々と前に出た。


「だからこそ、私が製造の総指揮を取る。」



---


士官たちはその言葉に驚きの表情を浮かべた。海軍工廠の技術者たちでさえ困難を予測するこの計画を、花姫が自ら率いると言い出したのだ。


「姫様が……製造の総指揮を?」

長官が念を押すように問いかける。


「そうよ。私が考えた設計図だもの、私が責任を持って実現させるわ。」

花はきっぱりと言い切る。その姿勢には迷いがなく、むしろワクワクしているように見えた。


「……しかし、それでも空を飛ばす技術の確立は……」

長官がなおも慎重な言葉を選ぶと、花は軽く笑った。


「基礎技術ならもうあるわ。魔導粒子炉を動力に使えば、十分に浮上させられる。問題は、それをどう安定させるか、だけど……それも試作機を作れば解決できるわ。」



---


士官たちは再び顔を見合わせた。花姫の言葉は明快で説得力があったが、それが現実のものになるかどうかは未知数だった。


「姫様……万が一、この計画が失敗すれば、巨額の予算が無駄になるどころか、海軍の威信にも関わります。」


「そんな心配いらないわ。失敗はしない。」

花は自信たっぷりに答えると、設計図を指さしながら説明を始めた。


「見て、これが浮力を生む仕組み。これが推進装置。そして、これが安定翼の構造。これらを組み合わせれば、そらを飛ぶ戦艦なんて夢じゃないの。」


「ですが……」

なおも慎重な態度を崩さない長官に、花は微笑みながら一歩近づいた。


「長官、ジパング海軍はこの程度で怯むの?壱姉様の旗艦を空に浮かべるなんて、大志を持つ者にしかできないわ。」



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その言葉に、士官たちの間に緊張が走る。やがて長官は深く息を吐き、姿勢を正した。


「……承知しました、姫様。我々も全力で協力させていただきます。」


「ありがとう、長官!じゃあ、さっそく準備に取り掛かりましょう!」



---


こうして、花の指揮のもと、「空中戦艦 日本武尊」の建造計画が本格的に動き出した。ジパングの技術力と花の天才的な頭脳を結集し、この空前絶後のプロジェクトは歴史の幕を開けることとなる。


だが、これがまた新たな波乱を呼び込むことは、この時まだ誰も知らなかった――。


海軍工廠の騒然たる空気


花は設計図を机に叩きつけ、満面の笑みを浮かべながら声を張り上げた。

「がんがん行くわよ!姉様の即位に間に合わせるわ!」


会議室にいた士官たちは一斉に顔を見合わせ、長官がたまらず手を挙げた。

「姫様、それはさすがに無理すぎます!即位式まであと1ヶ月ともありません!」


花は一瞬だけ考えるような素振りを見せたが、すぐに再び笑顔を浮かべた。

「ジパングの総力を上げれば間に合うでしょう!」


その場にいた全員が硬直する。長官は深い溜息をつきながら頭を抱えた。

「花姫様、それは無理です。ここ最近のご発言、まるで壱姫殿下のようになっておられる!」


花は少しだけムッとした表情を浮かべたが、すぐに肩をすくめて笑った。

「そんなこと言われても仕方ないわ。だって妹ですもの。」



---


その言葉に長官は苦笑いを浮かべた。

「それにしても、姫様までこのような無茶を言い出されるとは……。ジパングの未来が少々心配ですな。」


「大丈夫よ。未来のためにこそ、この『日本武尊』を作るんだから。」

花はそう言いながら設計図を指で弾き、自信たっぷりに話を続けた。


「さぁ、皆さん!時間がないわ。今すぐ動き出すのよ!壱姉様の即位式で、この空中戦艦を披露して、ジパングの力を見せつけるの!」


士官たちは顔を見合わせたが、花の熱意に押されて、誰も反論できなかった。こうして、ジパングの総力を結集した無謀とも思えるプロジェクトが始動することとなった――。







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