壱姫は両手を腰に当て、大きなため息をつきながら花を見つめていた。
「花よ、海軍工廠の人員を総動員して何かをやっていると聞いておるが、何をやらかしておるのだ?しかも、長官に説明を求めても『言葉では信じられないようなものを作っている』としか言わんではないか!」
花はどこ吹く風といった表情で淡々と答えた。
「草薙の尊は父上の乗艦でしたから、壱姉様には、姉様に相応しい乗艦をと思いまして……。」
壱姫の眉間にしわが寄る。
「にしても、その人員の数はとてつもないではないか?しかも、即位式までの1ヶ月足らずで間に合わせるだと?そんな無茶な話、戦艦など作れるわけがない!」
花は目を輝かせながら断言する。
「間に合わせます!」
壱姫の呆れ
壱姫はあきれ果てたように首を振った。
「むちゃくちゃだな……いったい、誰に似たのだ?」
その場にいた全員が心の中で同じ答えを浮かべた。
「壱姉様です。」
壱姫は皆の沈黙を見て、少し不満げな表情で言い放つ。
「おい、なんだその顔は!妾がそんな無茶をするなどとでも言いたいのか?」
花の弁解(?)
花は少し悪戯っぽく笑いながら言葉を続ける。
「壱姉様は、何でも実現させてしまう方だから、きっと私もそれに影響されてるんでしょうね。」
壱姫は苦笑しつつ、さらに追及する。
「で、その『妾に相応しい乗艦』とは、何だ?」
花は自信満々に答えた。
「空中戦艦『日本武尊』です!」
壱姫の目が見開かれた。
「空中……戦艦だと!?お前、ついに空を飛ぶ戦艦を作ろうとしているのか?」
花は満面の笑みで頷き、誇らしげに言った。
「はい。これ以上に姉様に相応しいものはないでしょう?」
絶句する壱姫
壱姫は額に手を当て、深く息を吐いた。
「……本当に妾を困らせる妹だ。いや、妾も常識外れだとよく言われるが、お前はさらにその上を行く……。」
その場にいた全員が再び心の中で思った。
「やっぱり壱姉様の影響です。」
壱姫はしばらく黙っていたが、やがて豪快に笑い始めた。
「まあ、よい!妾が即位する際にそんな空中戦艦が現れたら、さぞ面白かろう!存分に作るがよい!」
花は大きく頷き、意気揚々と叫ぶ。
「はい!全力で間に合わせます!」
そのやり取りを見て、月が静かに呟いた。
「これは……即位式が壮大なものになる予感がしますね。」
雪乃も苦笑しながら頷いた。
「どこかで大きな騒動が起きそうね……。」
こうして、壱姫の即位式に向けた準備はさらに混沌を増していくのだった――。
星姫の困惑
壱姫と花のやり取りを見守っていた星姫は、深くため息をついた。
「国外の賓客が大勢出席予定です……そんなものが目の前に現れたら、一体どうなることやら……。」
壱姫は星姫の言葉に耳を傾けるどころか、逆に楽しそうな表情を浮かべた。
「どうなることやら、とは?賓客たちが驚愕する姿を思うと、妾は楽しみでならぬぞ!」
星姫は困惑しながらも冷静に返す。
「壱姉様、即位式は国の威厳を示す重要な場です。目立つのは良いですが、度を越せば外交問題になりかねません。」
壱姫は豪快に笑い飛ばした。
「何を言う、星よ!それこそが妾の狙いよ!他国の連中にジパングの力を見せつける良い機会ではないか!」
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花の補足
花が横から口を挟む。
「大丈夫です、星姉様。賓客が驚きすぎて気絶するような設計にはしてませんから!」
星姫は花をじっと見つめながら、冷静に問いかけた。
「……そういう問題じゃないのよ、花。そもそも、空中戦艦なんて聞いたことがないわ。現実味がなさすぎて、逆に恐怖を与えるのでは?」
花はにっこり微笑んで返した。
「むしろ逆です!空中を悠々と進む戦艦を見せつければ、ジパングの技術力を知らしめることができるんです。それに、壱姉様が乗る旗艦として最もふさわしい!」
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星姫の頭痛
星姫はこめかみを押さえながら、疲れたように呟いた。
「……さすが、奇数姫。次から次へと非常識なことをやってのける……。」
その場の空気がどことなく和やかになる中、壱姫は星姫の肩を軽く叩いて笑いかけた。
「まあ、そう頭を悩ませるな。妾が責任を取る!もし問題が起きたら、その時は花を差し出せばよい。」
花は慌てて手を振る。
「ちょっと!壱姉様、それはひどいですよ!」
壱姫はさらに笑い声を上げた。
「冗談だ、冗談!花が作るものに妾は絶対の信頼を置いておる。心配無用!」
星姫は再びため息をつきながら心の中で思った。
「これで本当に何事もなく式典が終わればいいけど……。」
こうして、ジパング王国は、壱姫の即位式に向けてさらに独特な準備を進めていくのであった――。
壱姫は花に向き直り、真剣な眼差しを向けた。
「花よ、それは、妾も楽しみであるが、決して無理はするでないぞ。」
花は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、少し微笑んだ。
「壱姉様、心配してくれるんですね。でも、大丈夫です!私、無理なんてしませんよ。」
壱姫は軽くため息をつきながら、花の肩に手を置く。
「妾が心配せねばならぬほど、お前は時折突っ走るからな。妾の即位式に間に合わせたいという気持ちはありがたいが、それで体を壊されては困る。」
花は少しだけ目を伏せ、照れくさそうに笑った。
「……ありがとう、壱姉様。でも、私は姉様が誇りに思ってくれるものを作りたいんです。それが私の役目だと思ってるから。」
壱姫はしばらく花を見つめていたが、やがて満足そうに微笑む。
「お前のその心意気、確かに受け取った。だが、無理は禁物だぞ。妾が命じる。健康第一だ。」
その場にいた姉妹たちは、珍しく真面目な壱姫の一面に驚きながらも、心の中で同意した。
「奇数姫の中でも、壱姉様だけは特別ね……。」
花は元気よくうなずきながら答える。
「分かりました!壱姉様のために最高のものを作ります。でも、無理はしません!」
壱姫は満足げに頷き、再び豪快な笑みを浮かべた。
「よし、そう言うなら妾も安心だ。完成した暁には、大いに披露してやるぞ!」
花はその言葉を胸に刻み、心の中で決意を新たにするのであった――。