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第50話 南蛮帝国皇帝、雪の庭ジパング店へ!


南蛮帝国にて


「今度は、君の作るスイーツを試食してみたい。」


 皇帝アルグリット四世のその言葉に、雪乃は即座に微笑んだ。


「ええ、もちろんです。今から、家の店に来てみます? ここではジパング特有の材料がなく、必要なものがそろっていません。でも、家の店ならすべてそろっています。」


「……それは、転移門とやらを通ってということですか?」


「もちろんです。船で出かけて何ヶ月も、帝国を不在にするわけにはいかないでしょう?」


「その通りだが……よろしいのですか?」


「ええ、今の時間はちょうど閉店中なので、何の問題もございません。」


「では、ぜひお願いします。」


 穏やかなやり取りのなかで、何の気なしに決まった雪乃の店訪問——

 だが、それは ジパング側 にとっては 大事件 であった。


 ジパング・雪の庭


「冗談じゃない! 大問題です!!」


 ジパング側の雪の庭では、店員たちが騒然としていた。

 月がモニターを食い入るように見つめながら、声を張り上げる。


「夜! 映像を消して!!」


 花もまた、ライブ動画を見ていたことを悟られないように慌てる。


「ええっ、どうして?」

 夜が首を傾げる。


「雪姉様が皇帝を連れてくるなんて、そんなの誰が予想した!? 店の格を超えた一大事よ!!」


「すぐに準備しなきゃ……!」

 クラリス、シモーヌ、クレアら店員たちは、一度清掃の終わった店内を再び磨き上げ、テーブルや椅子を整え直す。


「雪乃様から帰還指示があったので、転移門を開きます。」

 夜が落ち着いた声で言った。


「うわぁぁ、もう時間がない! 料理の仕込み! お茶の準備! 何でもいいから最高級のものを!!」


「緊急事態ね……」

 月はため息をつきながらも、すでに動き始めていた。



---


ジパング・雪の庭 二階


転移門が開き、雪乃と共に現れたのは、南蛮帝国の 皇帝アルグリット四世 であった。

彼は、転移門を通り抜けると、驚いたように室内を見回した。


「素晴らしい……。まるで隣の部屋にでも行く感覚だ。」



「しまった……! 二階も掃除しておくんだった……!」

弥生が後悔の言葉を漏らす。


「もう間に合わない! 今はそんなこと言ってる場合じゃない!! みんな、私たちは 皇帝陛下の来訪を知らなかったことにするの! 現れたら驚くのよ!!」

慌てて指示を飛ばす月。


「……いや、もうすでに驚いてますけど?」

右往左往するスタッフたち。



---


雪乃、皇帝陛下と共に一階へ


そんななか、雪乃が二階から降りてきた。


「ただいま。」


「おかえりなさい。」


「お客様を連れてきたわ。」


「お客様ですか?」

棒読みのような返答をする月。


「こちらです、皇帝陛下 です。」


「えーーーっ!!!???」


店内にいた全員がリアルな驚きの声をあげた。

いや、むしろこれは 驚きというよりも悲鳴 に近い。


「こちら、南蛮帝国の 皇帝陛下 。」


改めて雪乃が紹介すると、月をはじめとするスタッフたちは 硬直 した。


「え……こ、皇帝陛下……?」


「どうも、はじめまして。」

アルグリット四世は穏やかに微笑んだ。


「……本物?」


「本物よ。」

雪乃がため息をつきながら答えた。


「え、えええええ!? なんで連れてきたの!? いや、そもそも どういう状況なの!?」


月が思考停止しながら叫ぶと、クレア、クラリス、シモーヌ、忍も同様に 混乱 していた。



---


店員たちのパニック


「どうしよう……! 何をお出しすればいいの……!? まさか 普通のメニュー でいいわけないわよね!?」


「ど、どうする!? 最高級の茶葉を使う!? いや、でも今は 営業外 だし……!」


「でも、もしかして 皇帝陛下は普通に喫茶店のお客さんとして来たのでは?」


「いやいや そんなわけないでしょ!? 皇帝が普通に喫茶店に来店とか聞いたことない!」


右往左往するスタッフたち。


皇帝陛下のための特別な一品



---


雪の庭・ジパング店


「皇帝陛下、お席にどうぞ。しばらくお待ちください。すぐにスイーツとお茶を用意します。」


雪乃が笑顔で席を案内すると、南蛮帝国の 皇帝アルグリット四世 は興味深そうに店内を見回した。


「ふむ……。なるほど、非常に落ち着いた雰囲気ですね。君の美意識が反映されているのがよく分かる。」


「ありがとうございます。」

雪乃は軽く微笑んだ。


しかし、そのやり取りの傍らで——


「雪姉様!な、何をお出ししましょう!?」 月が 動揺しまくっていた 。


「大丈夫よ、月。私がすべて用意します。」

「え? でも……!」


「貴女方は、お店の営業で疲れてるでしょう? 今日は 私がやりたいの 。」


「そ、そんなことは……!」


「いいのよ。」

雪乃は すでに厨房へと向かっていた 。



---


雪乃、厨房へ


雪乃が厨房に入り、軽く深呼吸をする。

そして、迷いなく 抹茶のスイーツの準備 に取り掛かった。


——抹茶のバスクチーズケーキ。


ジパングの 高級抹茶 を使用し、ほろ苦さとチーズのコクを絶妙に融合させた一品。

彼女が最も得意とするスイーツである。


(皇帝陛下の国のスイーツは確かに美味しかった。でも……ジパングのスイーツも負けてないわ。)

雪乃は 職人のような手際 で次々と作業を進めていく。


遠巻きに眺めていた月が ぽつりと呟いた 。


「……なんか、いつもより手際がいい。」


クレアや弥生、忍も、普段の雪乃とは違う様子に 驚きを隠せない 。


「雪乃様……いつもより、生き生きしてませんか?」


「……まるで、本当に楽しんでるみたい。」


スタッフたちは 静かに見守る ことしかできなかった。



---


特別な一皿、皇帝陛下のもとへ


しばらくして、雪乃は 焼き上がった抹茶のバスクチーズケーキ を丁寧にカットし、

抹茶を軽く振りかけた。


「クレア、皇帝陛下にお出しして。」


「承知しました。」


クレアが 接客のプロの所作 で皿を運び、皇帝陛下の前に置く。

同時に、弥生が 最高級の抹茶を使用した薄茶 を用意し、そっと添えた。


「お待たせいたしました。こちら、私の 得意とするスイーツ です。」


雪乃が皇帝陛下に向かい、優雅に微笑む。


「ほう……。これは?」


「抹茶のバスクチーズケーキ です。」


皇帝陛下は 興味深そうにスプーンを手に取った 。


「では、いただきましょう。」


ゆっくりと、ケーキを口に運ぶ。



---


皇帝陛下、感動する


口に入れた瞬間、 皇帝の表情が変わった 。


「……!」


目を見開く皇帝陛下。

そのまま、ゆっくりと 目を閉じ、味わうように噛み締める 。


「……なんというか……抹茶の ほろ苦さ が口の中に広がり、そのあとから 濃厚なチーズの甘み が追いかけてくる……。」


ゆっくりとスプーンを置くと、皇帝は にこりと笑った 。


「実に素晴らしい。これは……想像をはるかに超えた逸品だ。」


その言葉に、店内が 静まり返る 。


「雪姉様、すごい……。」


月が ぽつりと呟く 。


「ありがとう、皇帝陛下。ジパングの味を気に入っていただけたなら嬉しいわ。」


雪乃はそう言って、 満足げに微笑んだ 。



:月姫、皇帝陛下と対面する



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雪の庭・ジパング店


皇帝陛下が抹茶のバスクチーズケーキを堪能していたその時——

雪乃はふと思い出したように 横にいる妹を紹介した 。


「そうだ、この子は 月 。私の妹よ。店を手伝ってくれているの。」


皇帝陛下は 興味深げに月を見つめる 。


「ほう……確か 第5王女の月姫殿下 でしたかな?」


「え……?」


月は 思わず息をのんだ 。

まさか、この南蛮帝国の皇帝が 自分のことを知っているとは 思いもしなかったのだ。


「お姉さまに似て、お美しい。」


「え? は、はい。月姫です。」


(私のことを知ってる……?)

(この人、やっぱり油断ならない……!)


月は 内心驚きを隠せなかった 。



---


皇帝陛下の情報網


「どうして私のことを……?」


思わず問いかける月に、皇帝陛下は 微笑を浮かべる 。


「ジパング王家の姫君方については、ある程度 情報を集めております 。」


「……!」


「特に、あなた方の長姉 壱姫陛下 は、世界に多大な影響を与えるお方。

そして、その妹たちも 各国の注目を集める存在 です。」


「なるほど……。」


月は納得しつつも、

(情報がどこまで入っているのか……?)と 警戒心を強める 。


しかし、皇帝陛下は どこか穏やか だった。


「だが、実際にお会いするのは初めてですね、月姫殿下。」


「……それは、そうですね。」


「こうしてお話しできることを 光栄に思います 。」



---


皇帝の「姉妹観察」


「しかし……。」


皇帝陛下は、雪乃と月を 交互に見比べた 。


「あなた方、姉妹とはいえ ずいぶん雰囲気が違いますね 。」


「え?」


雪乃が 驚いた顔 をする。


「そうですか? よく似ていると 言われますけど……。」


「容姿の話ではありませんよ。」

皇帝陛下は くすりと微笑んだ 。


「雪乃様は 落ち着いた佇まいと優雅な雰囲気 を持っていらっしゃる。

ですが、月姫様は 活発で、警戒心が強く、芯の強さを感じる 。」


「……。」


(この人……ただ者じゃない。)

月は 確信した 。


(雪姉様は純粋にスイーツ好きな人として接しているけど……この人、やっぱりただの「スイーツ好き」じゃないわ。)


彼の情報収集力、観察眼……

皇帝としての 鋭い洞察力が感じられる 。



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:謎の第七王女、花姫登場



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雪の庭・ジパング店


皇帝陛下を迎え、店内はいつも以上に 緊張感 に包まれていた。

雪乃は、最近、王宮にいることが多くなってた花がいる事に気が付いた。




「花!? あなたも来てたの?」


雪乃が目を丸くする。


「ちょうどよかったわ。この子も妹で花。あの転移門の——」


——その瞬間、月が素早く雪乃の口を塞いだ。


「それは 絶対に言っちゃダメな秘密 でしょ!!」

月が 小声で必死に囁く 。


「……あ、そうだった。」


雪乃が 素直に反省する 。



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皇帝陛下と第七王女


「花姫? そうか……君が 第七王女 なのか。」


皇帝陛下は 興味深そうに花を見つめた 。


「ジパングには 七人の姫 がいると聞いていた。

しかし、なぜか 第七王女の情報だけがまったく分からなかった のです。」


「どもーよろ。」


「……なんです!その挨拶は。」


その言葉に、雪乃は 驚いたように花を見つめた。


「花……あまりにも 礼儀がなっていない わ。」


雪乃が ハラハラしながら花を窘める。


「こんな礼儀がなってない子なもので、あんまり 公にしていなかった のです。」


雪乃が 即座にフォローを入れた 。



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月の心の声


(ナイス花!)


(やっぱり天才ね……!)


(これは 「礼儀のなっていない姫」戦略 で ごまかす作戦 ね!)


(……普通にちゃんとした子なのに。)


(でも、花が ジパングの最重要人物 である以上、 情報を秘匿 しなければならない。)


(だから 「礼儀がなっていないから、公にされていない」 っていう設定でごまかすわけね……。)


月は 内心で感心しきりだった。


(この機転、やっぱり花は 天才 だわ。)



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皇帝陛下の反応


「……なるほど。だから これまで情報が出回らなかった のですね。」


皇帝陛下は 納得したように頷いた 。


(本当に納得してるのかしら……?)


月は 少し不安になりつつも、

皇帝陛下の目が 少し笑っているようにも見えた。


(……まさか、全部気づかれてる?)


月は 冷や汗をかいた。


皇帝陛下の来訪と反省会



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雪の庭・ジパング店


皇帝陛下が帰還した後——

店内には 緊迫した空気 が漂っていた。


「しかし、雪姉様!皇帝陛下を連れてくるなんてまずいでしょう!」


月が 不満げに腕を組む。


「だって、こっちに来たいと言われて断れないでしょう! 友好関係のある皇帝陛下 だよ?」


「それはそうだけど……皇帝陛下をお一人で異国に来させるなんて、問題ありすぎるでしょう!?」


「……え?」


「もし、外交問題に発展したらどうするの!?」


「でも、あの方は、問題にしないと思う。」


「本人はそうでも、側近たちはどう思うか考えて!」


月の鋭い指摘に、雪乃は 思わず口ごもる。


「姉様だって 身にしみてるはず よ? 私たちの側近が どれだけ口うるさいか!?」


「……はい。」


雪乃は 思い当たる節がありすぎて反論できなかった。



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花のぼやき


「それに、花の存在を知られてしまったし……」


「……え? だって、お店にいたのに紹介しないわけにもいかないでしょう?」


「いやいや!うっかり転移門の発明者だと言いかけたでしょ!?」


「……あ。」


雪乃は バツが悪そうに視線をそらす。


「まあ、おかげで私は、礼儀知らずのダメ姫 と認知されましたけどね……」


花が 拗ねたように紅茶をすすった。


「……ごめんなさい。」



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フォローする月


「……まあ、花が機転を利かせてくれたから 問題にはならなかったけど……」


「皇帝陛下が 気にしない人 だったのが救いね。」


月は ふぅっとため息をついた。


「でも、今後はもう少し 慎重になってね? 」


「はい……。」



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