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第51話小夜1 : 小夜誕生

皇帝の秘密



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南蛮帝国・帝城


煌びやかな宮殿の奥深く、重厚な扉の向こうで、南蛮帝国皇帝アルグリット4世 は 一人、静かに紅茶を飲んでいた。


しかし——


「陛下!どちらにいらしていたのですか!?」


扉が勢いよく開き、側近の一人が詰め寄る。


「どちらって、世の喫茶店に決まっておろう!」


アルグリットは 淡々と答えた。


「陛下!!」


側近は 深いため息をつき、頭を抱える。


「喫茶店ごっこは、ほどほどにお願いいたします……!」


「喫茶店ごっこ……?」


皇帝の 声のトーンが一気に低くなる。


「世の 大切な時間を“ごっこ”呼ばわりするとは、なかなかの無礼よな?」


「も、申し訳ありません!」


側近は 即座に頭を下げた。



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皇帝の楽しみ


「陛下……普段の執務は、まさに国の未来を左右する重責でございます。ですが、だからといって 喫茶店などに通い詰めるのは如何なものかと……」


「ふん、他に楽しみがないのだ。それくらい大目に見ろ。」


「しかし……!」


側近は まだ何か言いたげな表情 だった。


「それに……そろそろ お后を迎えていただきたく 存じます。」


皇帝の 表情がわずかに曇る。


「……分かっている。だが、余計な口出しは無用だ。」


「まさか、意中の方が……!?」


側近の 目が輝く。


「口出しは無用だと言ったろう。」


アルグリットは 視線を逸らしながら淡々と返す。


「しかし……」


「ええい、うるさい!下がっておれ!!」


皇帝の 一喝が宮殿内に響いた。


「は、はっ!!」


側近は 慌てて姿を消す。


しかし、去り際の表情には 何か確信めいたものがあった。


——皇帝には、すでに心を寄せる女性がいるのではないか?


そして、それが あのジパングの第三王女・雪乃なのではないか……!?


側近たちの 憶測は、次第に広がりを見せていくのだった——。



小夜、誕生!


雪の庭 ジパング店・閉店間際


閉店時間が近づくと、店内の雰囲気も徐々に落ち着いていく。

しかし、その中で ソワソワと落ち着かない様子の雪乃。


「……」


何度も時計を見ては、うずうずした様子でカウンターを拭いている。


そんな時、バタバタと駆け込んできたのは花だった。


「よかった、間に合った! 最近忙しくて間に合わないかと思った!」


「はいはい、あんたの ‘忙しい’ は聞き飽きたわ。」


呆れたように返す月。


花の“急ぎ”の理由とは?


「何を急いでたの?」


雪乃が尋ねると、花は 得意げに胸を張った。


「雪姉様が出かける前に渡したいものがあったの!」


「……あら、何か急ぎのようなもの?」


「ほら、やっぱり南蛮帝国に一人で行くのは心配だから、護衛を用意したの。」


「護衛?」


「そう。青ぴよさんじゃ、万が一の時に対応できないでしょ?」


そう言うと、花は 入口の方を向いて手を招いた。


「ほら、おいで、小夜。」


新たな“夜”の誕生


店の奥から、小柄な少女が姿を現す。


その姿に、雪乃も月も 目を見開いた。


「えー!? 夜ちゃん……!?」


「私はこっちです。」


雪乃の後ろから、現在の成長した夜がひょこっと顔を出す。


「花? これは?」


雪乃が驚いたまま花に問いかけると、花は どや顔で胸を張る。


「雪姉様の護衛用に作った、新型ホムンクルス!」


「夜の妹ってことで “小夜” と命名したの!」


“新しい夜”と“違う夜”


雪乃は 改めて小夜をじっと見つめる。


「本当に、以前の夜ちゃんそっくりね……。」


「ねぇ花? あんた、本当にどこが忙しいのよ!?」


もう 呆れる以外に言葉が見つからない月。


「忙しいよ! 忙しい合間を縫って用意したんだよ!」


「……はぁ。」


ため息をつく月を横目に、雪乃は小夜に優しく微笑んだ。


「じゃあ、小夜ちゃん、よろしくね。」


「……はい。」


小夜は 小さく頭を下げる。


その仕草は、以前の夜のようでいて、どこか違う。


「面倒を起こさないように、勝手な行動はしないでくださいね。」


「……はい。」


妙に 冷静で控えめな返答 に、雪乃は少し戸惑う。


この子、夜ちゃんとはまたタイプが違うのかしら?


南蛮帝国へ


「それじゃあ、行ってくるわね。」


雪乃は 小夜を連れて二階へ向かう。


転移門の前に立つと、小夜は しっかりと雪乃の後ろにつく。


「それじゃあ、小夜ちゃん、行きましょう。」


「はい。」


雪乃は 転移門の扉を開ける。


その先には、南蛮帝国の異国情緒あふれる街が広がっていた——。


エピローグ:ぴよぴよのプライド



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雪の庭 ジパング店 の閉店後、店内には 心地よい静寂 が広がっていた。


天井の梁の上、いつもの定位置に 青ぴよさん が佇んでいる。


その姿を見上げながら、花が話しかけた。



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「青ぴよさん! これからは、またジパング店の守りをお願いね。」


花は 軽い調子で言う。


しかし——


「ふん!」


「え?」


青ぴよさんは、 わずかにそっぽを向いた。


「あれ? ひょっとして、雪姉様の護衛を外されて 怒ってる の?」


花が じっと青ぴよを見つめる。


すると、「ぴよ」 と短く鳴いた。


「……そんな感情が?」


青ぴよさんが “すねる” なんて、想定外だった。



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“自分は雪姉様の護衛だったのに!”


“小夜にその役目を奪われた!”


まるで、そう言わんばかりの態度。


花は 思わず苦笑した。


「まぁまぁ、青ぴよさん。お店の守りだって、立派な役割よ?」


「ぴよ……。」


「それにね?」


花は ちょっと意地悪そうに笑う。


「実は、私……次の新作 “ぴよぴよシリーズ” の開発を考えてるの。」


「ぴよっ!?」


驚いたように青ぴよが ピョン! と跳ねた。


「おぉ、反応した!」


「ぴ、ぴよぴよ?」


「ふふっ♪ 気になる?」


青ぴよは じっと花を見つめる。


「“次世代ぴよぴよ”、どうしようかなぁ~? どうしようかなぁ~?」


花は わざと考える素振りをする。


すると——


「ぴよぴよぴよぴよ!!!」


青ぴよは、まるで 「ぜひ詳しく聞かせてくれ!!」 と言わんばかりに羽ばたいた。



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花は クスクスと笑いながら、天井の梁を見上げる。


「ふふっ。やっぱり 青ぴよさんも、お店の一員だね。」


青ぴよは 誇らしげに胸を張った。


「それじゃあ、これからも 雪の庭をよろしくね!」


「ぴよっ!」


梁の上の小さな存在は、まるで 使命を全うする戦士のように 大きく鳴いた。


こうして——


雪の庭の平和は、今日もぴよぴよ守られていく。


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