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第52話国家関係と友人関係の危機3: 狙われた花

不審な影


雪の庭ジパング店の扉が、突然勢いよく開かれた。


「――はぁ、はぁ……!」


駆け込んできたのは、花だった。


「花?どうしたの?」


月が驚いて声をかける。花は扉を背にして、荒い息を整えながらそっと外を覗いた。


「……何してんの?」


「月姉様……」


「いや、何かあったの?」


「最近、誰かにつけられてるみたいなの。」


「つけられてる?」


「みたい。」


「本当なの?」


「多分。」


「多分って……気のせいじゃないの?」


「ううん。絶対、誰かにつけられてる。」


花の言葉に、月の表情が険しくなる。


「でも、確かにつけられてるという証拠が欲しいわね。」


「そうね、相手の正体を知る必要があるわ。」


雪乃も心配そうに口を挟む。


「……正体……そうだ、青ぴよさん!」


花が呼ぶと、店の天井の梁から青ぴよさんがふわりと降りてきた。


「青ぴよさん、防犯ぴよさんにアクセスして、防犯カメラの映像から私の映像を検索して映して。」


青ぴよさんが音もなく動き、店内の壁に映像が投影される。


次の瞬間、映し出された映像には、花が歩く姿と、その後ろからこっそりとついてくる男の影が映っていた。


「こいつだ!」


花が画面を指さした。


「……ん?」


雪乃は映像に映る男を見て、目を見開いた。


「――南蛮帝国の盗撮男!!」


雪乃のは思わず叫びそうになり、慌てて口を押さえる。


この事を知っているのは、花だけだった。


「この男が?」


花が雪乃の表情を見て、すぐに察した。

一方、小夜は、

「……よくわからないけど、私のメモリーに要注意人物として記録されてる南蛮帝国の皇帝側近です。」


「なにそれ?」


月や、店のスタッフたちはきょとんとしている。


「ちょっと説明してもらえる?」


「……とりあえず、席について話しましょう。」


雪乃はため息をつき、皆を落ち着かせるために座るよう促した。


 過去の因縁


「……南蛮帝国の盗撮男って?」


月が腕を組み、怪訝な表情を浮かべる。


「ええっと……少し前に、南蛮帝国で起こった出来事なんだけど……」


雪乃は慎重に言葉を選びながら説明を始めた。


「ある喫茶店で、皇帝陛下と話をしていたときに、彼の側近の一人が私を隠し撮りしていたのよ。」


「は?」


「当然、見つかったわ。で、小夜が……まあ、少し手荒に排除してくれて。」


「ああ、あの時にそんなことが?」


小夜がまるで覚えてない様子だった。


「でも、その後、私はことを荒立てたくなくて、相手の記録をすべて削除してもらったの。」


「つまり、小夜はその詳細を覚えていないのね?」


「はい。ログも削除済みなので、私はただ、その男を要注意人物として認識しています。」


小夜は冷静に答えた。


「え、つまり、その盗撮男が、今度は花をつけ回してるってこと?」


月が眉をひそめる。


「どうして花なの?」


「……それが問題なのよ。」


雪乃は考え込む。


「私はもう南蛮帝国に行くつもりはないし、普通なら私を狙うはずよね?」


「……なのに、花を?」


「……考えられるのは、何かしらの情報を得ようとしているか、花自身に興味を持ったか……。」


「まあ、私はいろんな発明をしてるからね……。」


花は腕を組みながら呟いた。


「でも、南蛮帝国がそれを狙ってるとは思えないわ。」


「だとしたら、個人的な執着?」


「……あり得る。」


雪乃は、皇帝の側近が何を考えているのか、見当もつかなかった。


「とにかく、花はしばらく一人で行動しない方がいいわ。」


「うん、それは賛成。」


月も頷く。


「……まあ、私は警戒するから大丈夫だけど。」


花は気にしていない様子だったが、雪乃は眉をひそめた。


「でも、これはただのストーカーじゃないかもしれない。」


「……そうね。」


雪乃は視線を上げ、真剣な表情で花を見た。


「場合によっては、皇帝陛下に直接話をつける必要があるわね。」 


狙われた花 ― その真の狙い


 狙われる理由


「ロリコン?」


花の発した言葉に、店内の空気が一瞬凍りつく。


「いやいや、花の場合、そうじゃない危険性のほうが大きいでしょう。ジパングの最重要人物なんだから。」


月は腕を組みながら深刻な表情を浮かべた。


「……最重要人物?」


花が首をかしげる。


「そうよ。花、あんた今や王都の防犯システムから魔道車の開発まで手がける天才魔導技術者でしょ? 女王陛下にも信頼されて、各機関からも頼りにされてる。つまり、狙われる価値があるってことよ。」


「……うーん、でも、そんなこと言ったら、雪姉様だって十分狙われる立場じゃない?」


「それはそうだけど……」


月は言葉を詰まらせた。


「……それに、南蛮帝国の皇帝陛下は、あなたのことを気にかけてるわ。」


雪乃が落ち着いた声で言うと、月が驚いたように振り返る。


「え? それどういう意味?」


「まあ、その話は置いといて……」


雪乃はそっと話を逸らした。


「それより、もし本当に花を狙っているなら、その目的をはっきりさせないと。単なるストーカーでも問題だけど、さらに大きな危険性として誘拐やスパイ行為の可能性もあるわ。」


「え? そんな物騒な話?」


花が目を丸くする。


「あり得るわよ。技術者としての花を狙うなら、南蛮帝国の技術開発に利用しようとする可能性もある。もしくは……」


「もしくは?」


「国家にに関わる問題の人質として……。」


「……」


店内の空気が重くなる。


「うーん……そこまで考えたことなかったけど、確かにそういう可能性もあるかも。」


花は少し考え込みながら頷いた。


「じゃあ、どうする?」


月が雪乃に問いかける。

考え込む雪乃。



 狙われた天才技術者


「しかし、どうやって花にたどり着いたのかしら?」


雪乃が疑問を口にした瞬間、青ぴよさんが別の映像を映し出した。


そこには、小夜の後をつけている男の姿。

さらに、小夜と花が一緒にいる場面を遠巻きに見つめる男の様子が映っていた。


「小夜からたどられたのか……。」


雪乃がため息をつく。


「つまり、小夜を監視して、その行動から私と小夜の関係を割り出したのね。」


「……」


その言葉を聞いた途端、突然、小夜が立ち上がった。


「私の責任です。抹殺してきます。」


「ちょっ!? 小夜ちゃん、落ち着いて!!」


雪乃が慌てて小夜の腕を掴む。


「敵意は明確です。これ以上の追跡を防ぐために、物理的に処理するのが最適解です。」


小夜の瞳は冷徹な光を宿していた。まるで敵を排除することが当然のように。


「小夜!そういう問題じゃないの!」


月が鋭い声を上げる。


「この男は南蛮帝国の皇帝側近だし。そんな人物を暗殺すれば、それこそ外交問題になるわよ!」


「……では、拉致して尋問します。」


「だから落ち着きなさい!!」


雪乃と月が同時にツッコミを入れる。


「小夜……あなたは、花を守ることが最優先のはずでしょう? 敵を消すことじゃないの。」


雪乃が静かに言うと、小夜は一瞬動きを止めた。


「……その通りです。」


「なら、もっと冷静に対処して。」


「……承知しました。」


ようやく冷静になったのか、小夜は一歩下がった。


「……とはいえ、確かにこのまま放っておくのは危険ね。」


雪乃が腕を組んで考え込む。


「敵の目的が分からない以上、こちらも動きづらいわ。」


「じゃあ、どうするの?」


月が尋ねると、雪乃はゆっくりと口を開いた。


「直接、南蛮帝国の皇帝に確かめるしかないわね。」


「えっ、そんなに簡単に連絡取れるの?」


「もちろん。皇帝陛下とは一応……友人だから。」


「……"友人"ね。」


月が意味ありげに微笑む。


「な、何よ?」


「別にぃ?」




 皇帝への連絡と捕縛作戦


「捕らえて、皇帝に突き出します。」


小夜が淡々と宣言すると、月が苦笑混じりに頷く。


「それしかないかしらね……。」


小夜はすでに準備を整えていた。


小夜は、防犯ぴよさんの映像から標的の現在位置を瞬時に把握した。


「位置確認完了。捕縛開始します。」


静かにそう言い残し、小夜は店を出た途端、信じられないスピードで走り出した。


まるで疾風のように駆け抜け、あっという間に姿が消える。


「ちょっ......!?」


その場にいた月は呆気に取られ、雪乃も目を細めて小夜の動きを見送る。


「相変わらず、すごいわね。」


「......もう、あの子に捕まったら逃げられないわね。」


二人は、すでに勝負がついたことを確信していた。



標的の男


男は、遠くから「雪の庭」の様子をうかがっていた。


「......さて、今日は動きがあるか。」


彼は周囲の影に潜みながら、店の出入りを監視していた。


小夜が走り出したのは見えたが、その方向はまったく別の方角だったため、男は安心していた。


「ふん、俺を撒くつもりか? 甘いな......」


そう呟いた直後--


「......え?」


突然、背後から腕が回され、強烈な力で首を締め上げられた。


「そ、そんない、いつの間にーー!?」

小夜は、接近を気取られないために大きく迂回して男の背後から急襲したのだ。


目を見開いた瞬間には、もう手遅れだった。


小夜の細腕が、まるで鋼鉄の鎖のように男の体強靭な力で拘束している。


......ん?」


突然、背後から腕が回され、強烈な力で首を締め上げられた。


「動かないでください。抵抗は無意味です。て抵抗するなら窒息するまでしめます」


無機質な声が耳元で囁かれる。


男の背筋に冷たい汗が流れた。


「ち、違う!俺はただーー」


「黙ってください。」


そのまま、小夜は男を片手で引きずるようにして歩き出した。


男は必死にもがいたが、小夜の力には到底及ばない。


そして――


雪の庭・店内


店の扉が勢いよく開かれ、小夜が男を無造作に引きずりながら入ってきた。


「確保しました。」


彼女は淡々と報告し、男を床に放り投げる。


「ぐっ………………!」


男は苦しげに咳き込んだ。


雪乃は腕を組み、無表情で男を見下ろす。


「......さて、何を企んでいたのかしら?」


男は震えながら、必死に言い訳を考えるが――


「言い逃れは無駄よ。」


雪乃は冷たく言い放った。


「南蛮帝国皇帝陛下の前で全てをあきらかにします」


男の顔が青ざめる。


「え......?」




「さて、皇帝陛下のもとへ送り返してあげるわ。」


雪乃は微笑みながら、男を見つめた。


――彼に逃げ道は、もうない。





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