南蛮帝国の帝城、豪華な装飾が施された大広間に、怒りに満ちた声が響き渡る。
「あの馬鹿者め!一度ならずとも、二度までも私に恥をかかせよって!」
皇帝の拳が玉座の肘掛を打ち鳴らし、重々しい響きが広間を震わせた。彼の表情は険しく、側近たちは息を呑んでいた。
「この手で八つ裂きにしてやりたい!」
そう怒鳴り散らす皇帝に、恐る恐る一人の側近が口を開く。
「し、しかし陛下……。彼は前回の失態を取り戻そうと、ジパングから、我が国にとって有益な情報を集めようと……愛国心から行動したのです。決して利己的な目的では……」
しかし、次の瞬間、皇帝の目が鋭く光り、側近は言葉を詰まらせた。
「なおさら悪い!」
怒声が轟く。
「ジパングからそんな情報を得たら、両国の関係を悪化させることなど目に見えている!そんなことも分からぬような者を臣下にしていたかと思うと……情けない!」
沈黙が広間を支配する。別の側近が慎重に進言する。
「やはり、あの者への処罰は、我が国で行うべきだったのでは?」
「それができぬのだ!」
皇帝の声には、焦燥の色が滲んでいた。側近たちは顔を見合わせる。
「なぜでしょうか?」
「我々が奴を処分しようと引き取れば、"奴から情報が流れた"と疑われても潔白を証明できんのだ。」
皇帝の表情が険しさを増す。
「つまり、あいつの身柄を受け取った時点で、こちらは無実を証明する手立てを失う。ジパング側に渡った情報があるのかないのか、それすら疑われることになる。」
側近たちは神妙な面持ちで皇帝の言葉に頷く。
「あの者がこちらに引き渡されることなく、ジパングで処分されることこそ、我々が情報を得ていないと証明する唯一の手段なのだ。」
「なるほど……。」
側近たちの間に緊張が走る。皇帝は深く息を吐き、険しい顔をさらに歪めた。
「だが、それでもジパングとの関係は悪化を免れない……。」
皇帝の拳が強く握られる。
「だからこそ……なおのこと……奴が忌々しい!この手で八つ裂きにしてやりたいほどに!!」
その怒声に、側近たちは背筋を伸ばし、畏れを抱いた。
「奴のせいでジパングとも、そして……雪姫様との関係さえも……悪化してしまった……。」
皇帝の目が細められ、その奥には、怒りとは異なる感情が宿っていた。